シェアエコ2.0〜本当の個人のためのシェアリングエコノミーとは何か?〜

この議論をあえて私は「シェアリングエコノミー2.0」として提唱したい。

先日韓国で開催された国際カンファレンス「Sharing Economy Forum 2018」で日本のスピーカーとして参加してきた。 韓国ソンナム市長が冒頭の挨拶で「資本主義は危機に面している」と語ったのが印象的だった。 韓国は日本よりも早く2012年にソウル市が政策として始めた国だが、議論のテーマも普及段階からどう実装するか? 「コンフリクト」というワードが多く使われ、課題に対してどう向き合うか?にフォーカスが当てられていた。 

© Anju_Ishiyama

今回特に驚いたのが米国、欧州からのスピーカーを通じて数年前から始まっているプラットフォーム資本主義に対する"プラットフォーム vs 個人" 論争が今年に入り激しくなりはじめ「本当の個人のためのシェアリングエコノミーとは何か?」という議論が大きなうねりと化している現実を感じずにはいられなかったこと。

この「本当の個人のためのシェアリングエコノミーとは何か? 」という議論をあえて私は「シェアリングエコノミー2.0」として提唱したい。

1. プラットフォーム資本主義に対するプラットフォームコーポラティズムの台頭

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近年のUberの労働者権利や保障問題などを受けて、UberやAirbnbのようなプラットフォームは、本当に個人のためのインフラなのか? プラットフォームの手数料は適正な値はいくらなのか? 個人情報はどこまで提供すべきか?シェアワーカーの社会保障はー? 大きなプラットフォームが中央集権化しつつある今日、プラットフォーム資本主義に対するこれらの個人の権利を考え、個人同士が協同組合型でフェアなプラットフォームを築こうとする「Platform Cooperatism(プラットフォームコーポラティズム)」という概念を最初に提唱した Trevor shoulz氏と今回3日間の韓国滞在をともにした。Trevorはデジタル時代の労働をずっと研究してきた人物で、彼によれば2015年に提唱し始めた頃と比べこのムーブメントは年々各地で広がっているという。今回ここ韓国でも高い失業率を背景にシェアリングエコノミーと労働における観点では特にその期待と緊張感を感じた。

2. 個人組合型 、分散型ブロックチェーン シェアサービスの登場

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プラットフォームコーポラティズムを体現するサービスとして、個人組合型のシェアサービスも存在感を増してきている。昔からあった個人組合のように個人同士が組合費で運営費やコストを賄う仕組み。組合型家事代行のUP & GO は非営利プラットフォームでマッチングされた対価の数パーセントをサービスの運営コストに当てる仕組み。その分担い手となるシェアワーカーは通常マッチングの20%-30%差し引かれる企業仲介型と比較して、多くの収入を得ることができる。

この組合型にブロックチェーンを活用したプラットフォームも昨年から世界各地で登場。カナダで始まったブロックチェーン型ライドシェアサービスEVAは個人同士が元支払額を設定することができ、支払いは独自のEVAトークンで支払うことができるというもの。

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韓国でもブロックチェーンを活用した組合型民泊サービスがwehomeが年内にリリースされる予定だ。 

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いずれもインフラ化するにはまだまだハードルが高いと言えるが、一方でこのような個人組合型のサービスの存在感が増し、プラットフォームコーポラティズムの議論が出てきたことは、プラットフォームのあるべき姿を考えていく上で、とても重要な役割を果たしていると言えるのではないか。

3. 2019年はシェアリングエコノミー2.0元年に。

プラットフォームが個人を民主化したと喜ばれる時代はもう終焉に向かってるのかー?

その未来は、つまるところ企業や国ではなくユーザーとなる私たち個人ひとりひとりのプラットフォーム時代における自由と責任への自覚をアップデートしない限り、この先のシェアリングエコノミーはよい方向に向かえないのではないか。 そう感じずにはいられない。

〈ルールメイキングに個人が参画する必要性〉

昨年からシェアリングエコノミーと税制、消費者保護含めた制度検討が進む中、政府と事業者となる企業だけで議論する進め方に違和感を感じてきた。 従来のBtoCサービスと異なり、サービスの提供者が個人のシェアワーカーとなるシェアリングエコノミーでは、企業だけでなく主体者となる個人がルールメイキングに参加すべきなのではないだろうか。 今年9月にシェアリングエコノミー協会では「SHARING SOCIETY」という新たなビジョンを掲げプラットフォームの業界団体から非営利のNPOや個人を取り込む社会団体へ戦略方針を変更し、シェアワーカーとなる個人が参加できる個人会員制度を設け、個人の声をロビーに反映していく仕組みも試みとして始めた。個人情報はどこまで提供すべきか?シェアワーカーが求める保障は? 手数料はどうあるべきか? こういった議論を政府、プラットフォームとなる企業、そしてシェアワーカーの個人のトライアングルで議論を進められる環境を積極的につくっていきたい。

〈評価システムのあるべき姿をみんなで考える必要性〉

また今年はYahoo!が信用スコアの実証を開始したりと、プラットフォーム横断的な「評価システム」の構築の元年ともいえる年といえるだろう。 先行している中国では、すでにこの信用スコアを「社会信用制度」として社会の与信と同じステータスに2020年までに実現しようと計画が進んでいる。行き過ぎであると感じる事例にはマイナス評価されたスコアによってビザが取得できなかったり、処罰を受ける対象にもなりうるなどだ。 これまで個人情報と言われていた項目に加えて、契約遂行能力や、性格、対人関係、趣味なども指標に組み込み総合スコアを換算しようとしている中国。

日本における、プラットフォームの評価システムや個人のスコアリングはどうあるべきなのか? また全てを数値化するテクノロジーに任せることでのマイナス点、安心や信用を100%担保するには限界がある。テクノロジーに保管できない目に見えない価値や信用の担保は、私たちそれぞれが個人単位で他者への許容範囲の拡張と変容を起こさない限り社会は良くならないのではないか。テクノロジーに頼る部分と、頼らずに良心のもとに変容し続ける意志が必要だしそういう人を増やさなきゃいけないと心から思う。 シェアの原風景にあるのは、昔日本にあった個人と個人の支え合い、贈り合いの循環、ポスト資本主義の持続可能ななめらかな経済圏になると信じているからこそ。

Uber、Airbnb以外にも、国内で300以上のシェアサービスが生まれメルカリの上場が記憶に新しい2018年。

いわゆる新産業としての新たなサービス。という認識から視点をあげて、

「本当の個人のためのシェアリングエコノミーとは何か? 」という議論をあえて私は「シェアリングエコノミー2.0」として位置付けて、2019年シェアリングエコノミーをより良い社会インフラとして根付かせていくためにみんなで議論していきたい。