「つながるのは7人だけにしたほうがいい」
「ハフポスト日本版」の竹下隆一郎編集長の新刊『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。タイトルや冒頭のメッセージからもわかる通り、本書では内向的な人が人脈を築いていくためのメソッドが綴られている。
これは竹下編集長の実体験に基づくもの。メディアの編集長が実は内向的だった、という事実に驚きつつも、実用的かつ時流にマッチした人脈術には納得できる部分も多い。
一方、竹下編集長とは正反対の生き方を実践しているのが、『シェアライフ』(クロスメディア・パブリッシング)の著者であり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として活動している石山アンジュさんだ。
石山さんはシェアハウスを経営していた両親のもとに生まれ育ち、現在は渋谷にある「Cift」というコミュニティで“拡張家族”とともに生活をしている。
はたして、内向的な人はシェアライフを送れるのか?
どんな風にシェアすればいいのか?
内向的な竹下編集長と、他者に心を開く生き方を送る石山さん。ふたりが、これからの時代における“人とのつながり”について対談した。
“シェア”という概念は日本と親和性が高い
――お互いに著書を読んでみて、どう思われましたか?
石山:まずは竹下さんが内向的な性格だということに驚きました。意外ですよね。
竹下:できることならば、私はひとりで過ごしていきたいんですけど、仕事もそうですし、生きていくためには人とつながっていかなければいけなくて。それをどうするのかが自分のテーマなんです。
石山:でも、根本にあるものは一緒なのかな、と思いました。これからの時代、肩書に左右されず、個人が人とつながれるようになっていく。そのためには、どうやって人とつながるのか、どういう風に人脈をセルフマネジメントしていくのか。その数が違うだけですよね。
竹下:個人というものが重要になっていくという社会認識の部分は共通していますよね。
――でも、やはり石山さんのオープンさはすごいですよね。
石山:そこまで開いている自覚はないんですけど、幼少期にいろんな人が家に出入りしていたこととか、親の背中を見て育ったこととかは影響しているのかもしれないです。
竹下さんはどんな幼少期を過ごされたんですか?
竹下:私は引っ越しが多かったんです。日本で生まれてすぐに(アメリカ南西部の)ニューメキシコへ渡って、その後帰国して、再びニューメキシコへ行って、コネチカットへ行って、日本に戻ってくる、みたいな。その都度、人間関係もリセットされるわけです。
ただ、内向的ではあるんですけど、社交はできるタイプなんですよ。仕事でもいろんな人と会いますし、異なる国の人とコミュニケーションもとれる。でも、そのスキルをプライベートでは発揮したくないんです。
そもそも、石山さんはなぜ“シェアライフ”を提唱しているんですか?
石山:“シェア”という概念は海外から来たものというイメージが強いと思うんですけど、実は東洋思想、日本の文化にとても親和性があるんです。
すごく遡ると、日本には八百万(やおよろず)の神がいて、“自分”というものは全体を構成する一部であり、関係性の中で生きているという考え方がありました。自然、地域、人と共生してきて、おすそ分けや支え合いといった共助の精神が自然と根付いていたんです。
そのDNAは現代を生きる私たちのなかにもあると感じていて、だからこそ、今後はITとシェアを掛け合わせたサービスがどんどん出てくるはず。それを海外に発信していきたいんです。
竹下:共生という考え方は、日本ならではですね。
西洋だとそれを切り離して、個人を立てる。それを突き詰めたのがインターネット。個人がみんなと分離されて、ひとりでなんだってできるし、発信できるようになりました。そういう生き方はしんどいなって思いますか?
石山:ネットの力によって個人がエンパワーメントされ、ようやくそれがインフラ化されました。どんな人でも個人として自己実現、自己表現することが可能になりましたよね。
みんな違うのは当たり前。だからこそ、共感されることが嬉しいとか、同じ考え方を持っている人と出会うことに幸せを感じる時代になったと思うんです。
一昔前は個性やオリジナリティという言葉が重視されていましたが、いまはそれを使う人がほとんどいない。むしろ、“I”ではなく“WE”であることに価値を置くようになったと思います。
分断された社会に生きるからこそ、つながりを求める
――ひとりでも生きられる時代になったらこそ、つながりを求めるようになった。
竹下:そういう時代が到来したのだから、より個性を重視する流れになるかと思いきや、チームであることを求めるなんて面白いですね。
石山:いまの若い世代は相対的な価値観がないんです。昔は就職ランキングをチェックして就活に励んでいましたし、テレビで情報を得ていました。
でも、いまは観ようとしない。国民がなにを考えているのかという情報にアクセスしないんです。とても分散された社会のなかで生きていると言えますね。その分、常に合う人を探しているんだと思います。
竹下:(アンジュさんが暮らすコミュニティ)「Cift」の若者たちも、みんなそうなんですか?
石山:60人もいるのでさまざまですけど、基本的には思想でつながるという人たちばかりです。これまでのつながりって、地縁に基づくコミュニティ、学校や企業という所属組織、そして血縁関係の3パターンしか存在しなかった。
でも、ネットのおかげでいろんな価値観や思想を知ることができ、趣味嗜好が合う人とつながれるようになりました。
シェアリングエコノミーは消費でつながるという新たなものですし、現代はつながり方が多様化していると言えるかもしれません。
――その一方で、竹下編集長は「つながるのは7人だけにしたほうがいい」と、小さな人脈を提唱していますよね。
竹下:結局、強制的につながってしまう関係はあると思うんです。SNSもそうですし、黙っていても誰かとつながってしまう。それは仕方ない。
その代わりに、本当に好きな人とは自覚的につながろう、と。その限界が7人くらいかなと考えているんです。
石山:意志を持って選ばずとも、人は自然とつながってしまう世界だということですね。なるほど。
竹下:つながることを押し付けられるのではなく、選択がしたいんです。
石山:それは納得できます。ただ、つながりすぎる現代において、どのように選択をすればいいのか迷ってしまう人は多いでしょうね。
私はこの人と一緒にいて安心できるのか、心理的な安全をもたらしてくれるのかというのが基準になっています。そういう場所を増やしていくことが豊かさにもつながっていくと思うんです。
竹下さんはどういう選択をすればいいと思いますか?
竹下:これはもう直感としか言いようがないんですけど、好きか苦手かで決めているかもしれないですね。よくないとは思うんですけど……。
石山:私の目標のひとつが、シェアという概念を広めて世界平和を実現することなんです。
その定義は、誰一人として取り残されない社会を作ること。どんな背景の人であれ、手を差し伸べられるだけのキャパを持っていたいし、みんながそうであってほしくて。
でも、さまざまな社会の分断を取材してメディアで発信している竹下さんが、プライベートでは人を感情で判断してしまう理由はなんですか?
竹下:社会の分断については深刻に考えていて、宗教や人種で好き嫌いを判断するのはいけないことだと思っているんです。とはいえ、誰にだって好きになれない人がいるのも事実。それくらい社会は多様化していています。
それでも人はどんどんつながってしまうし、そんな時代だからこそ、「自覚的に大切な人とつながろう」と訴えたかったんですよ。
社会の分断を防ぐために、市民意識を持つこと
――心を開いて、人とつながることの大切さを考える石山さんは、社会の分断はどうすれば防げると思いますか?
石山:立ち位置や価値観の違いで分断が生まれたとしても、一人ひとりが市民意識を持つことができれば、解決できるものが多いと思います。
たとえ相手のことが苦手だったとしても、自分が社会という大きな箱のなかにいるという自覚を持ち、「(苦手だけど)理論上はこうだよね」という視点さえ忘れなければ、分断も減っていくのではないかと。
竹下:どう考えてもわかり合えないと思うくらい、意見が異なる人はいます。でも、それぞれに価値観が違ったって構わないから、同じテーブルにはつきましょうよ、と思いますね。
石山:自分の趣味嗜好に合わせた人とだけのつながりを選択できるようになった世のなかで、社会全体を俯瞰で見る視点はどのように養えばいいんですかね。
竹下:それって、かつてはメディアの役割だったと思うんです。
石山:そう! でも、テレビも観ない、新聞も読まないという世代は、どうやって視点を広げていけばいいのかなと。
竹下:共通感覚が失われているんですよね。それを補うのは、もはやメディアではないのかもしれない。みんなが集まったときの空気感や会話のなかから浮かび上がってくるのではないかと思います。
石山:メディアの影響力が弱くなっているからこそ、セクターを超えた交流を通じて得るものが大事になってくるんですね。それこそ、いろんなコミュニティに触れて、共通感覚を身に着けていくのは非常に重要なことかもしれません。
※後編は近日中に公開します。
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石山アンジュ
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 / 一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 / 一般社団法人Public Meets Innovation代表理事
1989年生まれ。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。2012年国際基督教大学(ICU)卒。新卒で(株)リクルート入社、その後(株)クラウドワークス経営企画室を経て現職。 シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省「シェアリングエコノミーが雇用・労働に与える影響に関する研究会」構成委員、経済産業省「シェアリングエコノミーにおける経済活動の統計調査による把握に関する研究会」委員なども務める。2018年米国メディア「Shareable」にて世界のスーパーシェアラー日本代表に選出。ほか NewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC、拡張家族Cift メンバーなど、幅広く活動。著書「シェアライフ-新しい社会の新しい生き方(クロスメディア・パブリッシング)」がある。
(取材・構成:五十嵐大 写真:加治枝里子 編集:笹川かおり)