「一緒にシェアハウスに住む友人が、夫婦で子育てをしています」。ハフポストに1通のメールが届いた。
メールの主は、新宿区のシェアハウスに住む阿部珠恵さん。一軒家にいま、12人が暮らす。ゲームクリエイター、人材会社、広報、政治家秘書、広告代理店、大学生。年齢も0才から35才までさまざまだ。
生後5ヶ月の息子がいる栗山奈央美さんと夫の和基さんも、メンバーだ。
2人は結婚前から、それぞれシェアハウスで暮らした経験がある。「色々な家族が一緒に住んで家事や育児をシェアしたら、もっと生きやすくなるのでは」と考え、結婚・出産後もシェアハウスに住み続けている。
栗山夫妻と、一緒に暮らす阿部さんの3人に、普段の暮らしや子育ての様子について聞いた。
● シェアハウスで子育てした方が、余裕が持てる?
―― どんなきっかけで、シェアハウスで子育てしようと考えたんですか?
阿部珠恵さん(以下阿部):もともとは、生活費の節約と、一人暮らしが寂しかったので誰かと一緒に住みたくて、会社の同僚だった奈央美さんと彼女の妹の3人で、シェアハウスを始めたんです。
栗山奈央美さん(以下奈央美):3人で住んでみたら、シェアハウスって家事もシェアできると気づいたんです。洗濯や掃除や料理を全部1人でやるより、それぞれが得意な家事をした方がずっと楽。もしかして育児もシェアしたら、楽になるんじゃない?と思ったんです。
「たとえば、ひとりの親が子どもたちをまとめて送り迎えできたら、仕事にも家事にも余裕が持てるんじゃないかな?」「それって面白いね、結婚も子育てもシェアハウスがいい!」って阿部と盛り上がったんですけど、「結婚してもシェアハウスに住みたい」って言うと、大抵の男の人は引いてしまうんですよね(笑)。そんな中で「それいいね!」と初めて面白がってくれたのが、今の夫でした。
彼も当時、友人とルームシェアをしていて、シェアハウスに抵抗なかったし、シェアハウスでの生活を気に入っていたし、「結婚してもシェアハウスだったら、友達と一緒に住めるし、超楽しくない?」と、思ったみたいです。
それで意気投合したのがきっかけで付き合い始め、結婚後は約束通りシェアハウスで新生活を始めて去年の10月に息子が生まれました。
● シェアハウス子育てしてわかった、ふたつのメリット
―― 子育てを始めて4カ月。どうですか?
奈央美:子どもにいい影響があるかはまだわからないんですけれど、母親の私にはとっては、すごく利点があると感じています。
一つは息がつまらないこと。子どもとふたりっきりでいると、午前中は楽しいんですが、夕方になるころにはやることがなくなってしまうんです。まだ小さくて遊べるおもちゃも少ないので、お互いに飽きてしまう。
でも、そんな時間に他の人が帰ってきて、私とは違うやり方で遊んでくれると子どもは喜ぶし、私もホッとできます。閉塞感を感じずに子育てできています。
二つ目は、社会から取り残されたように感じないことです。ずっと家で子育てしていると「今日は"おっぱい、おしっこ、うんち"しか言っていないなあ......」という日が、時々あるんです。でも住人が帰ってくると、最近のニュースや仕事の話ができて世の中のトレンドがわかる。大人の会話ができて、良い気分転換になります。
―― 他の住人から、子供の泣き声が気になって寝られないといった不満はないですか?
奈央美:今のところないです。まだ生後4カ月で夜泣きが始まっていないのかもしれないですが、夜中に授乳する時に泣いても、住人たちは「起きたの?気付かなかったよ」と言ってくれます。
阿部:私は全然気にならないです。むしろ、隣の部屋の目覚ましの方が気になるくらい(笑)。朝7時くらいにぐずったりすると、うっすら起きることはあるけれど、それで寝れなかったりはしないし、夜中の3時くらいに起きて寝れなくなるってこともないな。鈍感力なのかも。
奈央美:ここに来る前にもシェアハウスで暮らしていた人が多いので、音には慣れているのかもしれないですね。子どもも音に鈍感なタイプなようで、玄関のチャイムが鳴っても起きないし、ざわざわしたリビングでもいつの間にか寝ています。人がたくさんいてかえって安心しているのかな?
―― 色んな人が関わっているんですね。
阿部: 親戚の子どもを見ているような感覚だなあって思うんです。この間、親戚の集まりがあったんですけれど、子どものいる親が忙しい時、周りの大人たちが「いいよ、面倒見ておくから」と世話しているのを見て、うちのシェアハウスもこんな感じだな、と思いました。
私はすごく子ども好きというわけでもないんです。でも、子どもって、見てて面白い。それに、子どもを産んだ友達は他にも何人かいるけれど、生後1カ月から成長を見られる機会はなかなかないから、毎日の成長を観察できてとても興味深いです。
奈央美:久しぶりに会う住人に「まつ毛が伸びたね〜」とか「背筋が付きましたね」とか教えてもらって、毎日見ていると気付かない成長を知ることもあるな。
栗山和基さん(以下和基):子育ては大変だ、と言われるけれど、それって親が24時間ずっと世話しなければいけないから感じる特有のしんどさがあると思うんです。でも本当は、子育ての大半は、楽しいことの方が多いですよ。
シェアハウスの住人たちは、おじいちゃんおばあちゃんのように、ある意味無責任に子どもを可愛がってくれるけれど、機嫌がいい時に遊んでくれたら親もありがたいんですよね。泣いたら親に戻せばいいし。僕たちはずっと一緒にいるから「機嫌のいい時とらないで」なんて思わない。「抱いてくれて、ありがとう」と、感謝しています。
奈央美:ちょっと見てくれている間に、親は色々できますしね。
● 生活の仕方が違う相手に、イライラしない方法
―― いろんな価値観を持つ人が集まって住む環境で、喧嘩に...なんてことはないですか?
奈央美:うちの住人は、基本的には私たちの友達やその友達なんです。事前にシェアハウスの説明をして、お互いのニーズをすりあわせた上で入居を決めているから、喧嘩にはならないですね。
阿部:一緒に住んでいると、嫌だなって思うこともありますよ。そういう時は、LINEのグループで呼びかけるようにしています。
例えばしょっちゅう靴下を放置している人がいるんですが、それは改善しようよ、という話になりました。
奈央美:「これあの人が落とした靴下かな」と思っても、直接文句を言うんじゃなくて全員に「靴下落ちてますよ〜、部屋に持っていってね」とLINEすると、角が立たない。「あ、それ俺のだったゴメン」みたいに穏やかに解決します。
―― シェアハウスだと、お互いに気遣いができるようになりますか?
阿部:気遣いというより、他人との違いを受け入れられるようになる、かなあ。シェアハウスして思ったんですけど、人数が多い方が1対1よりお互いに寛容になれるんです。
例えば靴下問題にしても、夫婦ふたりだと、どっちかがイライラして怒りをぶつけてしまう。
でも10人くらいで住んでると、そのうち3人くらいはいつも靴下落としているんですよね。そうなると「世の中の3割くらいは靴下落とすんだ」と考えるようになる。靴下を落とすのが"悪"じゃなくて"違い"だと気付いて、寛容になれます。
私は比較的きれい好きな方なので、最初に3人でシェアハウスしたばかりの頃は、片付かないとイライラしていたんです。だけど半年くらいたった頃には「みんな違ってみんないい、なんだなあ」という境地になっていました。
奈央美:シェアハウスして、各家庭の常識って違うんだなと、わかったかな。
阿部:家事や生活の仕方って、自分の育った家のことしか知らない。だけど他の人たちと一緒に住んで、色んなやり方もあるんだとわかりました。自分が当たり前と思っていたことが、実はやり過ぎだったと気付く時もある。
私みたいなタイプは、いきなり結婚して2人だけの生活をしていたら、イライラしちゃったかもしれないけれど、10人くらいで住んで「この人はこういうタイプなんだな」と考えられるようになりました。
奈央美:シェアハウスで暮らして「これが常識」とか「普通こうするでしょ」と言わなくなったかも。
● シェアハウスの夜の生活
―― ご夫婦でシェアハウスすると、夜の生活に不便を感じることはないですか。
阿部:夜の生活に関する質問、よく聞かれます(笑)。
奈央美:音に関して言えば、私は生活音レベルかなあ、と思っています。耳をそばだてなければ聞こえないんじゃないかな?
阿部:私は音が気になったことはないですね。私自身もシェアハウスで同棲していたことがあるからわかるんですけれど、ふたりでいる時間は、他にいっぱいつくれるんです。土日は外に行けばいいし、ホテルに行けばいいし。
奈央美:うん、私たちもデートに行く機会は他の夫婦より多いかもしれません。
和基:シェアハウスすると夜の生活に不便なのでは、と言う人によくする説明は「2世帯住宅と一緒だよ」です。
シェアハウスは、2世帯住宅が多世帯になっただけ。でも、2世帯住宅で親と同居している人に「夜の生活は?」とは聞かないのに、シェアハウスだと聞かれる。それは、血のつながっていない人と住む=「伝統的」なかたちではない、からかな。だから、シェアハウスでの結婚生活に違和感を感じるのでは。
阿部:確かに。「2世帯住宅と一緒」は、シェアハウスに家族で暮らすことが理解できない人へのわかりやすい答えだと思います。だけど私は、それが本質的な答えではないと思っています。夜の生活が何も変わらないかというと、ぶっちゃけ変わるとは思うんですよ。
奈央美:多少は気を使うよね。
阿部:うん、多少気を使うところはある。だけど、夜の生活が多少不便になったとしても、それ以上にシェアハウスにメリットを感じているからシェアハウスを選んでいる。この感覚はシェアハウスに住んで面白かったという経験がないと、なかなか分かってもらえないかもしれないけれど。
和基:確かに、住んでみないと実感してもらえないのかもしれないなあ。
● 「家族」に近づいている?
奈央美:「夜の生活」への質問もそうですけれど、大家族だと聞かれない質問をたくさんされるのは、シェアハウスが「他人」同士が住んでいるからだと思うんです。でも私は、シェアハウスの住人は徐々に「家族のようなもの」に近づいていってると感じています。ただ、家族はちょっとウェット過ぎるなあ、とも思っていて、親戚くらいの感覚でしょうか。
阿部:うん、仲の良い「いとこ」くらいの感覚かなあ。
和基:ぼくはもう、全然「家族」という感覚です。僕の家族観は、みんなが抱く家族観よりもっとオープンだと思うんです。僕にとっては犬も「家族」ですから。
ただ、「家族」だと感じるのは、このシェアハウスが、友達や、友達の友達に、一緒に住もうと声をかけて成り立っているからで、ひとりひとりが個別にオーナーと契約して入居するシェアハウスだと、「家族」とは感じないかもしれない。
―― 息子さんが大きくなって「シェアハウスは嫌だ」と言ったらどうしますか?
和基:あの子が? うーん、うちじゃないシェアハウスを紹介するかな(笑)。
奈央美:言うとしたら、何歳くらいだろう。
和基:反抗期が始まる中2くらい?どうしても嫌なら、18歳になったら一人暮らししなさい、と言うかな。
阿部:でも何年かしたら、絶対寂しくなってシェアハウスがよかったって思いそう。
和基:こんな家で育ったら、大勢で住むシェアハウスが楽しかったなと思うかもね。
阿部:私は勝手に、反抗期はこないんじゃないかな、と思っています。親と1対1だと反発したくなっても、シェアハウスにいる親以外の大人に「このくそオヤジがさあ」とか言うと思うんですよね。あとお兄ちゃんが悪い遊びを教えてくれて、そっちにストレスが持っていかれるとか。
奈央美:私は最近、逆に甘やかされたらどうしようっていう心配もしていて。このまま子どもひとりだったら、それこそおじいちゃんおばあちゃんみたいに可愛がってくれる人がいすぎて、逆に良くないかもって。だからみんなどんどん産めばいいのにって思ってる。
和基:みんな甘やかすかなあ?
奈央美:お菓子を食べさせたり、ゲームを欲しいと言ったら買ってあげたりしそう。
阿部:買ってあげるかも。
和基:でも、それはそれで別にいいんじゃない?欲しいものをあげるのが、必ずしも教育に悪いってわけでもないと思う。
阿部:まあ、そういうことも含めて私たちのシェアハウス子育ては、試行錯誤でやってます。
和基:そう、言ってみれば実験なんですよ。
「家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭に浮かぶのはどんな景色ですか?
お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?
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