2013年参院選では、各社の世論調査などで与党の圧勝が予測されている。「3.11」以降、国民の関心を集めてきたエネルギー問題だが、日本では選挙結果を受けて、「原発回帰」の動きがいっそう強まるとみられている。
だが、日本の外に目を転じると、エネルギー市場の最大の話題は原発ではなく、アメリカを主舞台に〝革命〟が進む「シェールガス」だ。シェールガスは世界のエネルギー事情を変えると言われている。
7月9日の朝日新聞デジタルの記事によれば、アメリカのノースダコタ州からモンタナ州にかけての地下には、油分やガスを含むシェール(頁岩)層が広がっており、2007年ごろから急速に開発が進んだという。米地質調査書(USGS)の報告によると、従来想定されていた埋蔵量の2~3倍にあたる1890億立方メートルと推測されている。(朝日新聞デジタル「シェール革命とインディアン 居留地に光と影 米ノースダコタ州」 2013/07/09)
アメリカ政府は5月、国内で生産したシェールガスを液化天然ガス(LNG)として日本などに輸出することを認めた。アメリカでは2005年ごろから国内でシェールガスが噴き出し始め、11年のガス生産量は日本のガス輸入量の2倍にあたる1.6億トン(LNG換算)まで達している。しかも、日本が輸入しているLNG価格が、ガス価格の単位「100万BTU(英国熱量単位)」で17ドルほどなのに対し、今の米国内のガス価格は約3.5ドル。液化や輸送のコストは計6ドルほどとされるので、もし日本への輸出が認められれば、相当安いガスが日本に入ってくることになる。
朝日新聞デジタルの報道では、日本は原発停止で発電量の9割を火力に頼り、LNGの輸入は2010年の7千万トンから12年に8700万トンになった。今年度の燃料費は円安もあって東日本大震災前より3.8兆円増え、うち1.6兆円をLNGが占める見通しだという。(朝日新聞デジタル「日本、燃料費抑制狙う シェールガス、米が輸出許可」2013/05/19)
電力会社は、燃料費の高騰を理由に相次いで電気料金の値上げに踏み切ったが、もし、アメリカから液化シェールガスを輸入できるようになれば、電気料金やガス料金の値上がりを抑えられるし、原発への依存度も減らせることになる。
米国発のシェールガス革命は、日本だけでなく、世界のエネルギー事情に多大な影響を及ぼす。たとえば、アメリカ向けをあてこんでガス生産を倍増させていた中東の産油国カタールは、アメリカが自らガスを産出し始めたため、輸出先を失った結果、ガスはヨーロッパに向かった。いっぽう、ヨーロッパはこれまでロシアの最大の輸出先だったため、新たな輸出先を求めて日本に売り込みをかけている。
この結果、日本がエネルギーをより妥当な価格で購入できるようになりそうだ。
つまり、中東、ロシア、アメリカを競わせて値下げ交渉できる「買い手優位」のポジションを手にすることができそうなのだ。前述の朝日新聞デジタルの記事によると、日本政策投資銀行は、2020年にはLNG価格が最大15%安くなると見込んでいるという。
国内の既存の原発の多くが廃炉か改修かの岐路に立たされるなか、依然として「原発推進」を掲げる日本のエネルギー政策は、リスク面だけでなく、世界のエネルギー事情の観点からも、どれほど正しい選択といえるのだろうか?