性犯罪に関わる刑法改正、今国会で成立させるべき3つの理由

成立から110年経っての今回の改正の方向性は、基本的には歓迎すべきものだと考えるが、いかんせん遅きに失した上、いまだ残る課題は大きい。
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■現行刑法の性犯罪規定が成立したのは、明治時代

政府は3月7日、刑法の性犯罪規定部分の改正案(http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00140.html)を閣議決定した。今通常国会で審議入りする見込みである。多くのメディアでも報じられており、注目度はあがりはじめている。

現行刑法は明治40年(1907年)に成立し、翌年に施行された。明治といえば、女性は選挙権も被選挙権も持てず、法律によって差別的地位に立たされていた時代だ。明治時代に成立した刑法上の強姦罪や強制わいせつ罪等の性犯罪の規定(以下「性犯罪規定」という)は、性暴力被害者の圧倒的多数を占める女性の関与が一切ないまま成立したものなのである。性犯罪規定はその後法定刑の引き上げなどの改正や集団強姦罪の創設などの多少の改正はあったものの、構成要件(犯罪として成立するために必要な条件)についての抜本的な改正は全くなされてこなかった。 

私は弁護士として仕事をしたり、性暴力に関する報道を聞く際、何度も、性犯罪規定の問題点及びその運用の限界を痛感してきた。性暴力被害の実情と法律の定めには非常に大きな乖離があり、犯罪として処罰されるべき性暴力が十分に処罰されないという、強い憤りを感じる現状がある。

成立から110年経っての今回の改正の方向性は、後述する通り、基本的には歓迎すべきものだと考えるが、いかんせん遅きに失した上、いまだ残る課題は大きい。

そもそも閣議決定された改正案の通りに今国会で成立するのか、修正が加わるのかも現時点(平成29年4月4日現在)では未知数である。

更には、与党は、4月3日には、刑法の性犯罪規定改正案よりも後に閣議決定された共謀罪法案(政府の呼称では「テロ等準備罪」)を、先に提出されたものを先に審議するという慣例に反して、異例にも先に審議入りするという方針を固めた(時事通信http://www.jiji.com/jc/article?k=2017040300273&g=soc等)。そのため、共謀罪法案の審議が難航することが予想される以上、性犯罪規定改正案は今国会では成立しない可能性さえもある。

これについては3月31日の衆院法務委員会で、山尾志桜里議員(民進)が強く抗議し、今この瞬間にも性被害に遭い、不合理な性犯罪規定のままであるために救われない人がいるかもしれない、速やかに性犯罪規定改正案を審議すべきである、後から提出した共謀罪法案を先に審議するのはおかしい、と金田法務大臣に訴えていた(https://youtu.be/eNFRlH5YaAM?t=749) 。

しかし与党はこれも聞かず、それ自体極めて問題が大きい共謀罪法案を、性犯罪規定改正案より優先的に審議しようという姿勢であり、二重にも三重にも許しがたい。

以下、性犯罪規定改正案の早期成立がいかに重要であるか、3つのポイントを解説する。

■改正のポイント①〜現行の「強姦罪」を「強制性交等罪」に変更し、従来の「姦淫」に加えて「肛門性交又は口腔性交」もあわせて「強制性交等」として同等に処罰する

(1)現行性犯罪規定の問題点

現行刑法の「強姦罪」(177条)は「暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する」と定めている。

ここでいう「姦淫」の定義は、「男性器を」「女性器に」挿入することに限定されている。ということは、男性器を女性器以外に、たとえば口や肛門に挿入しても、「強姦罪」にはならない。また、異物(たとえば性的玩具等)や手指を女性器に挿入しても「強姦罪」にはならない。いずれも、被害者の性別を問わず、より法定刑が低い強制わいせつ罪(刑法176条 法定刑は「六月以上十年以下の懲役」にしかならない。より法定刑が低いということは、すなわち、犯罪としての悪質さは、「姦淫」よりも低い、と法律が位置付けているということになる。

しかし、被害者が受ける精神的苦痛の大きさは、挿入されるのが「女性器」か「口」「肛門」かで異なるだろうか。口や肛門に男性器を無理矢理挿入される性暴力に遭った被害者が、「挿入されたのが、女性器ではなくて口で/肛門でまだよかった」と感じるだろうか。そんなことはあり得ない、なぜそんな区別をされるのかわからない、というのが性暴力被害者の当然の発想だ。

改正案の原案ともいうべき要綱を採決した法務省法制審議会-刑事法(性犯罪部会)(以下「法制審議会」という)http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_seihan.html 

でも、精神科医の小西聖子委員が「肛門性交や口腔性交の場合に、通常の性交よりも被害がどうなのか、精神的な被害はどうなのかというデータをお示ししたいところなのですけれども、国際的にもないと思います。なぜかというと、これらが精神的には同一の被害として扱われていることがほとんどだからです」「実際に臨床の経験で言いましても、そういうことを区別するということが何か意味があるようには思えません」と述べている(法制審議会第2回議事録http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00124.html 5頁)。男性が肛門性交や口腔性交を強制されるという性暴力被害も非常に深刻なトラウマをもたらすものである。

ところが現行刑法は、女性器への挿入のみをいわば特別扱いしてより重い犯罪類型として処罰し、それ以外の性暴力はより法定刑が低い強制わいせつ罪に留めてきた。強姦罪の保護法益(ある行為を規制することによって守り、実現しようとする利益)は「個人の性的自由」である。そうであるなら、個人の性的自由の侵害程度が同等の行為は同等に処罰するよう定めてなければならないはずだが、現行の性犯罪規定はそうなっていないということになる。これはなぜなのか。

一言でいえば、男性器の女性器への挿入という、妊娠可能性があるために男性の血統を乱す恐れのある行為を「女性の貞操を侵害」するものと捉えて特に重く処罰しようとでもいうような、家父長的な発想が背景にあったからであろう。性犯罪規定の成立は明治時代、女性には全く人権がなかった時代のことである。性暴力被害者の苦痛の程度が同等の行為は等しく処罰しなければならないという発想などなかったのだとしか思えない。自分が被害に遭うことを怖れる、あるいは被害に遭ったことがあるという当事者の関与が無いまま法律を作ったからこそ、このように全く被害当事者目線ではない規定になってしまったということでもあろう。

このような規定が、女性が選挙権を持った後も70年以上も温存され改正されてこなかったこと自体が、この社会における女性の地位の低さ、性暴力軽視を象徴的に物語っているとも考える。

(2)改正案の内容

改正案では、現在の強姦罪(177条)を「強制性交等罪」と改め、「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する」と定め、従来の「姦淫」を「性交」と表記を改め、これに肛門性交及び口腔性交を加えて「性交等」として同等に処罰するとしている。これに伴い、この犯罪の被害者の性別は女性のみでなく男性も含むこととなった。また、法定刑も「三年以上の有期懲役」から「五年以上の有期懲役」へと厳罰化された。

(3)改正案への評価と今後の検討課題

肛門性交と口腔性交を、従来の「姦淫」(女性器への男性器の挿入)と同一の犯罪類型として、等しく処罰するとすることは、本来であれば、もっと以前に改正が済んでいるべき内容だったといえ、速やかに改正されるべきである。

ただし、「強制性交等罪」という罪名は残念である。性暴力は「性交」ではなく、性的手段を用いた暴力であるという本質を罪名でも端的に表すべく、「性的攻撃罪」「性的挿入罪」「性的接触罪」といった罪名にすることももっと議論されるべきであったと考える。

法制審議会では、現行法では「強制わいせつ罪」に該当する、女性器や肛門への手指や異物の挿入も「姦淫」と同等に取り扱うべきではないかも議論されたのだが(法制審議会第二回http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00124.html)、反対意見もあり、今回の改正案にはそれは盛り込まれなかった。今後に残された検討課題である。

なお、法制審議会において参考資料として配布された、外国法の資料(法制審議会第一回配布資料11―1~11―7 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00122.html)を見てみると、ミシガン州法やイギリス法など、性器や肛門への異物や手指の挿入も、「姦淫」と同等の法定刑としているものも複数見られる。

■改正のポイント②〜監護者による性暴力については「暴行又は脅迫」を要件としない新しい規定を創設

(1)「監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪」の新設

現行法では、強姦罪でも強制わいせつ罪でも、13歳以上の被害者に対する行為の場合には、「暴行又は脅迫」を手段とすることが条件となっている。

改正案では、「監護者わいせつ及び監護者性交等」という犯罪類型を新設し、「18歳未満の者に対し」「その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」、「わいせつな行為」をした場合には「監護者わいせつ罪」、「性交等」をした場合には「監護者性交等罪」として処罰することとし、この場合には「暴行又は脅迫」が存在しなくても犯罪が成立することとした。

(2)現行性犯罪規定の問題点

「暴行」「脅迫」という言葉は刑法上の他の条文にも存在する(暴行罪、公務執行妨害罪、内乱罪等)。そして、「暴行又は脅迫」がどのような概念なのかについては、条文には記載が無く、研究者の意見や裁判例の集積によって確定した内容が実務では用いられており、「強姦罪」における「暴行又は脅迫」は、「相手の反抗をいちじるしく困難にする程度の不法な有形力の行使」とされている。

他の犯罪、例えば公務執行妨害罪(95条)における「暴行又は脅迫」は「人に向けられた不法な有形力の行使」とされて、直接は人に向かっていない間接的な暴行でもよく(警官が乗ってきたパトカーの損壊など)、程度も問わないので軽微な態様でも犯罪が成立し得る。暴行罪(208条)における「暴行」は、「人の身体に向けられた不法な有形力の行使」となっており、程度の大小は問題になっていないので、軽微な暴行でも暴行罪が成立し得る。

これらと比べると、強姦罪成立の要件として「相手の反抗をいちじるしく困難にする程度」の暴行又は脅迫が必要、としていることが、犯罪成立のためのハードルを高くしているのを理解しやすい。

要するに、たとえ被害者の意思に反する性交が行われても、加害者が客観的に「反抗をいちじるしく困難にする程度」の重大な暴行又は脅迫をしていなければ、強姦罪は成立せず無罪となってしまうというのが現在の性犯罪規定とそれを解釈する判例・通説である。実際に「暴行又は脅迫」を認定できないということで無罪判決となった裁判例も複数存在する(たとえば性犯罪の罰則に関する検討会におけるヒアリングに出席した望月晶子弁護士が提出した資料に挙げられている判決の事案は、いずれも、被害者の立場からすれば到底受け入れがたい理不尽なものであろう(http://www.moj.go.jp/content/001129375.pdf)。

「暴行又は脅迫」を要件としない性犯罪としては準強姦罪及び準強制わいせつ罪(178条)があるが、これは、「女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」姦淫又はわいせつな行為をするというものである(泥酔状態に乗じるものなど)。 

このように暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能が性犯罪の手段として条文におかれているのは、強姦罪、強制わいせつ罪の本質は、被害者の任意の同意なく性的自由を侵害することであるために、同意が無いことの客観的な徴表としての意義がある。同意が無いことを可視化するための何らかの客観的な徴表を条文に明記すること自体は必要ではあろう。ただし問題は、その徴表としての規定や解釈が合理的で、処罰すべき行為を十分に捉えられるものであるかどうかだ。

性暴力の現実を見れば、被害者の承諾が無い性暴力というのは、程度が重大な「暴行又は脅迫」を手段とし、あるいは心神喪失や抗拒不能に乗じて行われる態様のものだけとは全く限らない。

非常に重大なのは、上下関係、権力関係がある人間関係において、強い立場の者が、立場の強さに乗じて弱い立場の者に対し性暴力をふるうという態様が多いことである。

たとえば教師と生徒の関係、雇用関係、スポーツの指導者と選手等の人間関係においては、実際に、立場の強さに乗じた性暴力が発生している。立場が強い人間が立場の弱い者に性暴力をふるう場合、往々にして、「暴行又は脅迫」など必要ない。「暴行又は脅迫」など用いなくても、また、被害者が心神喪失や抗拒不能状態でなくても、加害者は、性暴力をふるうことができる。被害者は「先生にはさからえない」「お世話になっているコーチの機嫌を損ねられない」という弱味を持っているためである。

それにもかかわらず、現行の性犯罪規定では、「暴行又は脅迫」を手段とせず、かつ、被害者の心神喪失や抗拒不能に乗じて行われたわけではない、という態様の性暴力を処罰することができない。つまり、現行の性犯罪規定には、悪質な行為であり当罰性があるにも関わらず、適切な条文が存在しないため処罰できない、という処罰の隙間がある。そして、そのために、被害者の意思に反した性暴力であるにも関わらず、加害者が不当に処罰を免れてしまう性暴力事案は実際には少なからず発生しているはずだ。たとえば、鹿児島で起きたゴルフ講師による女子高校生への強姦事案(注1)はまさにその好例であったと考える。

法制審議会でも、「暴行・脅迫要件をここでなくすのは難しいでしょうから、それは暴行・脅迫という言葉で残しておくのであれば、それをめぐる議論の中で、程度論というのはもうやめるべきではないか」(弁護士 角田由紀子委員 法制審議会第2回議事録http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00124.html  21頁)という意見が出されたが、全くその通りである。程度の軽重は関係なく、暴行や脅迫が手段として性交等やわいせつ行為が行われたなら、その性的関係に被害者の同意があったはずがない。自由意思に基づく性的関係には、どんな暴行も脅迫もあるはずがないからだ。そんな当然のことが、なぜ、法律やその解釈に生かされてこなかったのだろうか。

精神科医の小西聖子委員は同じく法制審議会2回の席上で、性暴力被害者のケアにあたっている経験から、「臨床で見ていますと、この暴行・脅迫要件で引っ掛かって、事件として認知されなかったり、不起訴の山という感じになります。」(法制審議会第2回議事録http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00124.html )と述べている。筆者も同感である。

(3)改正案への評価と今後の検討課題

今回提出された改正案では、現行の性犯罪規定では処罰できない隙間にある性暴力を、一部ではあるが犯罪として処罰することを可能にするものであり、この点においても非常に意義ある前進だと評価できる。

法制審議会では、家庭内で13歳の時から実父から性的虐待を受けていた山本潤氏(性暴力と刑法を考える当事者の会)からのヒアリングも行った(第6回議事録 http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00134.html )。山本氏は「私が初めて刑法177条強姦罪を読んだとき、絶望しました。ああ、この法律は私を救ってくれないのだなと思ったからです。構成要件として、暴行脅迫が必要だと言われます。」「暴行脅迫がなくても性行為を強要できる力を相手は持っています。 そのような地位、関係性という力関係も見てほしいと思います(傍線は筆者)」と語った。

このような壮絶な苦しみを味わった当事者の声を聞き、性暴力の本質を踏まえて被害者を救済するために十分な法律をこの国は長年に渡り作ってこなかった。そのことに、改めて強い怒りを禁じ得ない。(2)において述べた通り、現行法の「暴行脅迫」要件には問題が大きいので、監護者による、18歳未満の者に対する性暴力という一部に限った態様のみにせよ、この要件を求めないこととしたことには非常に大きな意義がある。

この点においても、一刻も早く、今国会で、確実に法改正がなされるべきである。

ただし、今回の改正案は、上下関係、権力関係のうち、主体を監護者のみに限定しているもので、この主体をもっと拡げるべきではないか。同趣旨の意見は法制審議会でも複数出された。

たとえば「教師が加害者というケースが非常に多い」(弁護士 角田由紀子委員)、どうしてそこ(注・親子関係)だけに限るのかという合理的説明がなくてはいけない。教師とかスポーツ指導者それをなぜはずしてしまっていいのかという議論が必要なのかなと思う」(首都大学東京教授 木村光江委員、「将来的には本罪の主体に関して処罰範囲を広げていくということも考えていのではないか」(弁護士 武内大徳委員 いずれも法制審議会第3回議事録http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00126.html )などである。しかし慎重論もあり、今回の改正案では、主体は監護者によるものに限定された。

上記委員らによる指摘にあった通り、特に教師やスポーツ指導者らによる性暴力の実態を踏まえれば、主体の拡大は重要な検討課題であり、今後更に議論を進めていくべきである。

■改正のポイント③〜非親告罪化

従来、強姦罪及び強制わいせつ罪は「親告罪」とされ、被害者の告訴がなければ起訴できなかった。これは、被害者が望んでいないにも関わらず刑事裁判が始まり、それにより被害者の名誉が傷つくなど被害者の心情に配慮するためではあったが、他方において被害者が告訴権行使をするかどうかについての判断を迫られることにより、かえって被害者の精神的負担が過大となるという側面もあった。

また、刑事裁判における被害者の名誉やプライバシー保護は、親告罪とする以外の方法によって実現をはかることもできる問題であって、非親告罪化すれば名誉やプライバシー保護を欠くというような論理必然的な関係にあるものでもない。

また、未成年者に対する家庭内での性的虐待事案などでは、家庭内に加害者と被害者が存在することとなり、たとえば加害者である父親をかばうために、被害者である娘の法定代理人として告訴することをできる母親が告訴を躊躇し、そのために被害者の救済がなされないという問題も懸念された。

以上より、非親告罪化は合理的な結論といえ、この点においても改正案の確実な成立を強く期待する。

注1 ゴルフ練習場経営の男性(65)が、ゴルフ指導を口実に教え子の女性(当時18)をホテルに連れ込んで、心理的に抵抗できない状態にして強姦した(準強姦)とされる事件では、不起訴とされたあと検察審査会が起訴議決して強制起訴した後、地裁・高裁とも無罪判決とし、最高裁で無罪判決が確定という経過をたどった。第一審・鹿児島地裁判決は「仮に、被害者が抗拒不能状態であったとしても、被告人がそのことを認識したという証明はできておらず、被告人の故意を認めることはできない」として無罪判決を言い渡した(平成26年3月)。高裁判決(平成26年12月)も「女性は精神的に混乱し抵抗できない状態だった」と認定したが、男性は女性が抵抗できない状態だと認識していなかった可能性があるとし、準強姦罪の故意は認められないとして、一審・鹿児島地裁の無罪判決(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/117/084117_hanrei.pdf)を支持した。

本件は、起訴する際に「暴行又は脅迫」は存在しない、あるいは認定は難しいと考えたために、女性が「抗拒不能だった」として準強姦罪で起訴したものであろう。そのため、争点は「抗拒不能」だったか、あるいは「抗拒不能だったことを被告人は認識していたか」(故意の問題)が争点となり、いずれも否定されて無罪判決となった。「暴行又は脅迫」が存在せず、「抗拒不能」とは認定できなくても、プロゴルファーを目指していた18才の女性がゴルフの個人レッスンを受け、強い上下関係があった65才の男性から、思いもよらない流れでラブホテルに連れていかれて、明確に断ることができないまま意思に反して性的関係をもたされた、という本件事案については、今回の改正案が成立してもなお犯罪として加害者に刑事責任を問うことは困難である。どのような法改正をすればこのような性暴力被害者の救済が可能なのか、被害者の意思に反し性的自由を侵害する性暴力をどのようにすれば漏らさず犯罪として責任を問うことができるのか、継続して考えていかなければならない。