韓国セウォル号沈没事故のイ・ジュンソク船長、なぜ死刑が求刑されたのか

日本では考えにくい量刑だが、なぜこのような求刑がなされたのか。韓国内の背景を探った。
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Sewol ferry captain Lee Joon-Seok (C) is escorted upon his arrival at the Gwangju District Court in the southwestern South Korean city of Gwangju on June 24, 2014. Lee Joon-Seok and three crew members are accused of 'homicide through wilful negligence' -- a charge that falls between first-degree murder and manslaughter, but still carries the death penalty. Eleven other members of the crew are being tried on lesser charges of criminal negligence and violations of maritime law. The Sewol was carrying 476 passengers, including 325 students on a school trip, when it sank off the southwest coast on April 16. AFP PHOTO / WONSUK CHOI (Photo credit should read Wonsuk Choi/AFP/Getty Images)
WONSUK CHOI via Getty Images

300人以上の死者・行方不明者を出した韓国の大型旅客船「セウォル号」沈没事故を巡る裁判で、光州地検が10月27日、イ・ジュンソク船長に殺人罪などで死刑を求刑した

なぜこのような求刑がなされたのか。韓国内の背景を探った。

■なぜ死刑を求刑したのか

船長は殺人罪と殺人未遂罪など5つの罪で起訴された。

検察側は、事故が起きたとき、現場責任者として乗客の救助義務があったのに、自ら真っ先に脱出するなど義務を果たさなかったことが「不作為による殺人」に該当すると判断した。韓国では、一緒に釣りをしていて池に落ちた知人を助けずに死なせたケースなどで適用されている

このほか、業務上過失致死傷罪に該当する船員が現場から逃走するなど救護義務に違反した場合、通常より重い刑罰を科す特例法でも起訴されている。検察側は「殺人罪で無罪になった場合に備えて」と説明しており、いわば殺人と業務上過失の両方で起訴していることになる。こちらが適用された場合は最高で無期懲役となる。

これに対し弁護側は「事故直後に可能な限りの救護措置を行っており、船が傾いてこれ以上救護できない状態で救助された。過失以上の責任を問うのは不当だ」と争っている。

判決では、救護を怠ったとされる船長が、乗客が死んでも構わないと思ったかどうか、未必の故意が認定されるかが鍵になるとみられる。

ちなみに1970年12月に韓国の済州島~釜山航路で乗客326人が死亡した南栄号沈没事故では、過積載だったことが明らかになったが、裁判所は「事故の発生を予想して過積載した可能性は小さい」と判断し、船長は殺人罪について無罪、業務上過失致死罪で禁錮2年6カ月の刑が確定した

■国民感情も背景に

事故直後、乗客より先に救助船に乗るなどの船長の行為に世論の非難が殺到したため、検察は「国民の処罰感情」を考慮して、より量刑の大きい殺人罪の適用に踏み切ったとみられる。聯合ニュースは5月20日に「怒りに沸騰する国民感情は、船長を殺人罪で処罰すべきだと求めるが、法理的に殺人罪が認められるのは今回も簡単ではないという観測も法曹界の一部から出ている」との記事を配信している

一方で、救助を巡る海洋警察の不手際や、違法改造を見逃していた検査機関など、国全体の構造的な問題も次々に明らかになった。韓国では「見せしめでは」という声もある。

だから私は死刑に反対だ。事故の責任者である船長が死刑になったなら、惨事の責任者の海洋警察総長と朴槿恵は八つ裂きにされなければならない? こいつら誰を見せしめにするのか?

裁判結果を予測。船長は死刑。ほかは重罪。理由は「これだけ厳罰に処したのだから、これ以上、セウォル号の真相究明を要求するな」ということ。狙いは明らかだ。しかし国民は、彼らを見せしめにした勢力が誰なのかを明らかにしてほしいのだ。

■執行されるのか

仮に死刑判決が出た場合、本当に執行されるのか。答えは「ほぼノー」だ。

韓国は死刑制度は存在するが、1997年12月を最後に死刑が執行されていない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「事実上の死刑廃止国」に分類している。1998年から計10年続いた進歩系(革新系)の金大中、盧武鉉の両大統領の時代に死刑執行がなく、2008年に政権に就いた保守系の李明博氏も在任中に執行しなかった。2013年に就任した朴槿恵大統領も現時点では執行していない。

一方で死刑判決の言い渡しは続いており、20人を殺害した罪に問われたユ・ヨンチョルら、2013年末時点で少なくとも60人の確定死刑囚がいる。

朴大統領は大統領選挙直前の2012年9月に「人間であることを放棄し、到底受け入れられない凶悪な事件が起きたとき、その罪を犯した人も死ぬ可能性があるという警告レベルでも(死刑制度が)必要だと考える」と発言しており、死刑制度に肯定的とみられるが、死刑執行の復活は国際社会からの批判も予想され、ハードルは高い。

■「日本でも殺人罪適用の余地はある」

日本で同様の事故が起きた場合はどうなるのか。元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏は、ハフポスト日本版の取材に対し、以下のようにコメントした。

「救助のために必要な措置をとらなかったことで、乗客が死亡した場合、死亡することについて船長に未必的認識・認容があれば、殺人罪が成立する余地がある。

原因に関わった人間の人命軽視の姿勢が甚だしい場合に、遺族が殺人罪の適用を求める場合もあるが、事故の加害者に殺人罪が実際に適用された例は、あまり聞いたことがない。

セウォル号の船長のような場合であれば、日本で起きたとしても、未必の故意の殺人罪が適用される余地はあるように思う」

一審判決は11月11日に言い渡される予定だ。

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