がん患者だっておしゃれできる。ステージ4の女性が動画で伝える「前向きな気持ち」

「どんな状況でも自分を好きでいられるように。一緒に工夫して、頑張っていこう、と伝えたいです」(ステージ4の乳がん患者、瀬戸川さん)
|
Open Image Modal

2016年に乳がんを再発し、ステージ4と診断された千葉県習志野市の行政書士、瀬戸川加代さん(43)が、美容師らとともに「がん患者でもおしゃれできる」と伝えるYouTube動画シリーズの制作に8月から取り組んでいる。

抗がん剤治療の副作用で髪の毛が抜けたり、左胸の切除手術で変わった身体にショックを受けた自身の経験を糧にしたもので、現在は予告編と第一弾が公開されている。「どんな状況でも自分を好きでいられるように」と動画でメッセージを呼びかける瀬戸川さんや、協力する美容師らにその思いや取り組みを聞いた。

■乳がん患者、瀬戸川加代さん

——おきれいですね。髪の毛も違和感がないのですが、ウィッグ(かつら)なんですか?

はい、ファッション用ウィッグを使っているんです。これを取ると、私の髪の毛は全くない状態です。まだらに生えて来るんですが、バリカンで整えてもらっています。

——メイクは病気になる前と後で何か違いがあるのですか?

今私は、2度目の抗がん剤治療が終わって2カ月ぐらい経ったところです。抗がん剤治療では、眉毛もまつ毛も全部抜けてしまうので、これでもやっと、半分ぐらい生えてきた状態なんですよ。付けまつ毛もしています。

眉毛がまるっきりない時はメイクが大変でした。眉毛を描いても、こすれて消えやすいし、自己流だとまず、眉毛をどの位置を起点にして書き始めたらいいかもわからない。メイクがすごく難しくなってしまうんです。

Open Image Modal

ウィッグを外した状態の瀬戸川さん(動画より)

——がんの経過について教えてください。

初めて乳がんが分かったのは2013年でした。左胸にしこりがあることに自分で気づいて、病院に診察を受けに行きました。健康診断も2年に1度は受けていたんですが。

私はショックで言葉が出ませんでしたが、診察に付き添っていた気の強い母が「丈夫に産んであげられなくてごめん」と何度も繰り返して泣いたのが悲しかったですね。

それからすぐに手術を受けて、左胸や、がんが転移していた脇の下のリンパ節を摘出しました。再発防止のため、手術後に抗がん剤治療を受けたんですが、それが終わってからは、割と元気に暮らしていたんですけれど。

——その後、再発がわかってしまった。

はい、2016年2月に再発したことがわかりました。そして、2度めの抗がん剤治療を9月まで受けていました。「せっかく生えてきた髪の毛が、また抜けちゃう」と思って、泣きましたね。

その時は背骨まで転移が進んでいるステージ4と診断されました。でも、内臓までは達していないので命に別条はないということです。

——最初に告知されてから、今までどんな思いで過ごして来られたのですか。

3年前、最初に告知された時にはショックでしたが、「受け入れるしかない」と、割と淡々と手術を受けました。でも、乳がんの摘出手術って、単に乳房を取るだけではなく、胸の部分がえぐれたようになるんです。

手術後の入院中、リンパマッサージを自分でするようにと指導があったんですね。えぐれた胸に自分の手が触れた瞬間、「グワッ」と悲しみが襲ってきました。「この形、私は受け入れられない」って。大部屋だっので、涙を堪えるのが難しくて、病院の廊下に出て泣きました。

その後、再発予防のための3カ月間の抗がん剤治療が始まりました。始めて2週間ぐらいで髪の毛がどんどん抜け始めました。シャンプーやドライヤーをしている時に徐々に。その後しばらくして、眉毛やまつ毛、そのほかの体毛も全部抜けてしまいました。

——その頃は、かつらなどを着用していたのですか。

はい。医療用のウィッグを購入しました。13万円でした。

——結構高いんですね。

それなのに、今回の再発がわかって、その医療用ウィッグを取り出したら、くせがついてしまっていて使えなかったんです。それで試しに、と思ってファッション用ウィッグを買ってみたんですが、案外使えるんですよ。値段も1万円そこそこでした。

前につけていた医療用は、おかっぱみたいな感じで、髪型も選べなかった。でもファッション用なら色々選べるし、楽しめるんじゃないか、って思ったんです。

——それでもっとその知識を広めたいと思われたんですね。

はい。私は1度めの時に、「がん患者は医療用ウィッグを買うもんだ」と思い込んでいて、何も考えずに買ってしまったんです。

すごく高かったのに、気に入ったものではなかったので、憂鬱でした。でも、実は色々選べるし、ものによっては、コテで巻き髪にしたり、アレンジもできるってわかったんですよ。「がん患者でも、おしゃれを楽しむことができるんじゃない」って。

それに、1度目は民間のがん保険で費用が賄えましたが、2度目はそういうこともありませんでした。私は自営業で、入院している間は収入も無くなってしまい、治療費の負担も大変なので。

Open Image Modal

——メイクやウィッグの知識はどう学ばれたんですか?

今回の抗がん剤治療を終えた時に、以前からお願いしていた美容師の千羽浩司さんに相談して、メイクを担当していた妹の真理子さんを紹介してもらいました。それで、描き方のコツなども色々と教えてもらいました。あとは、ドラッグストアで使えそうなグッズを研究したり。

外見を整えたら気分も上がるし、前の治療の時よりも、外に積極的に出られるようになりました。

それで思ったんです。動画にしたら、同じように苦しんでいる患者さんが、外に出られるきっかけ作りになるんじゃないかなって。それで、1人ではできないので、千羽さん兄妹や皆さんにお願いして、この動画プロジェクトが始まりました。

ウィッグでも人毛やアクリルなど色々な素材や種類があって、ミックス素材にも配分によってそれぞれ特徴がある。そういう違いの情報も知らせたい。あとは、アレンジの方法とか、お手入れの方法、真理子さんに習ったメイクのコツや便利なグッズなんかも具体的に伝えていきたいです。

——もともとおしゃれが好きだったんですか?

美容にはそれほど詳しいわけではなかったです。でも何となくキマると楽しい。

今、きれいにして仕事や外出していると、私の病気のことを知っている人から「何でそんなに前向きなの?何で楽しそうなの?」って聞かれるんですよ。それを言われるのがとっても嬉しくて、「よし、もっとがんばろう」と思えるんです。病気は心の闘いでもあります。外見から気持ちを上げていくのもアリなんじゃないかって思いました。

——動画に反応は?

まだ再生回数は多くないですが、いくつかコメントがありました。

「おしゃれすると、自分がふつうになれました」とか。あとは、あと数日で脱毛が始まるというがん患者の方から、「へこたれても這い上がるパワフルな精神力が大切だなって思います。ドサッときた時ショックだろうけれど、ステキなウィッグがあるから平気さ、と思っています」というコメントがありましたね。

見た方からのレスポンスを参考にして作っていきたいです。どんなことで悩んでいるとか、そういうコメントをもらって、どんどん改良していきたいと思います。

——どんなことを伝えていきたいですか?

いくら気をつけていても、人間は病気になってしまうことがある。でも、気持ちまで落とさなくていい。おしゃれして、見た目をきれいにして、どんな状況でも自分を好きでいられるように。一緒に工夫して、頑張っていこう、と伝えたいです。

■動画制作チーム

Open Image Modal

■美容師・千羽浩司さん(左端)

人が毎朝起きて、身なりを整えて、女性ならメイクをして、仕事や学校に行くことは一見当たり前の何でもないことです。それなのに、そんな普通のことができなくなると、一瞬で人の生活って変わってしまうんだということが瀬戸川さんの話でわかりました。タレントやモデルじゃなくても、もっと普通に、暮らしを営むことのお手伝いができたらいいなと思います。

■美容師(メイク担当)・千羽真理子さん(左から2人目)

きれいになることは、生活の一部で、ひとりひとりの生き方と並行していることなんだな、と思います。髪型もロングヘアだったりショートヘアだったり、人それぞれ、自分らしさを守ることのノウハウや大切さを、もっともっと広めたいと思います。

■理容師・高橋洋一さん(右から2人目)

私の店のお客様の家族で、同じように抗がん剤治療で髪の毛が抜けて「どうしていいかわからない」とふさぎこんで外に出たくないと引きこもってしまっている方がいるという話も聞いていました。選べるウィッグやメイク方法があるということが、もっと伝わればいいなと思います。

■撮影と編集・吉田英央さん(右端)

同情を誘ったり、かわいそうと思ってもらうのではなく、元気に前向きになれる動画を目指しました。見てくださった患者の方々には、おしゃれで気持ちを上向きにして、治療もいい方向に向かって行ってもらえたらと思います。

「がんでもキレイに」 Vol.1  メイクとウィッグでおしゃれに楽しく過ごせたらいいね♪

関連記事