保坂展人・世田谷区長は8月4日、区役所で会見し、同性パートナーシップの宣誓書を発行する要綱案について会見し、他の国でも「自治体が一歩、二歩と変わったことで、大きな変化になった」として、法的な拘束力はないが、自治体の取り組みが性的マイノリティの多様性を認め合う社会につながると展望を語った。宣誓書の受領は、11月から実施する見通しだという。
世田谷区の要綱案によると、20歳以上で、双方いずれかが同区に住んでいることや、転入を予定していることが条件。同性カップルの2人が、住所や氏名を記した「パートナーシップ宣誓書」を提出すれば、保坂展人区長名で「受領証」を発行する。宣誓書は10年間保存するが、カップルの双方が望めば廃棄できる。
同性カップルを含めた性的マイノリティの抱える課題を解消するための具体的な対応については、引き続き検討すると説明。保坂区長は「今後(東京)オリンピック・パラリンピックもあります。国会で超党派で議論が進められている動きにも注目しながら、情報交換を進めていきたい」などとコメントした。
世田谷区は、2010年に制定した男女共同参画会議の基本プランにおいても、多様性を認め合う対象として性的マイノリティを明記。2015年3月、当事者にヒアリングを行い「区として存在を認めてほしい」という声を受けて宣誓書の発行を決めたという。
宮崎健二副区長も、ハフポスト日本版の取材に対し「男女共同参画会議の改定時期に差し掛かっている。性的マイノリティの問題も作業部会で検討していく。今は議論の課程が大事かなと思っています。性的マイノリティは同性カップルだけではありませんので、人権問題として区の職員も性的マイノリティの研修を行っています」などと語った。
会見での主な質疑応答は、以下の通り。
――要綱は、条例とどう違うのか?
条例は、区議会の議決に基づいて、効力を発揮する。要綱は、区長の裁量の範囲内で制定できる。そこが大きく違うところです。
――法的拘束力はないとのことが、宣誓書を受領することは、当事者の方が不都合を解消することにつながるのでしょうか?
たしかに、同性パートナーシップのおふたりの宣誓書をいただきました。区のほうで保管しますよ、というのは、いわゆる書類のやりとりですね。じゃあ書類があるから、こういう権利が発生するということには直接はなっていない。ただ、今の社会で、この分野において、世界各国の動向に比べて、日本の自治体や国の取り組みは、まだまだ課題が多いんじゃないかという声があります。ですから、まずは自治体としてできること踏み出した。しかし、これだけではなくて、男女共同参画会議の中で、当事者の人たちも含めた深いで、もっとこうしたことができるんじゃないかという(課題の)洗い出しを行います。第2段階の洗い出したことについては、具体的にこういうことができます、という時間をかけた議論が上がってくると思います。
間接効果といいますか、当事者の方が、この宣誓書を手にするかわかりませんが、ここに来られない方もいるかもしれませんが、そいういうことも含めて、心理的にお互いの多様性を認め合い尊重する社会が広がっているんだということ、そういう変化が始まっているんだということを実感してもらえるんじゃないかと思っています。
――これで終わりではなく、区としてさらに一歩を踏み出していくということですね? 具体的にどうするかは専門部会の議論を待つということですか?
11月以降は要綱が自治体で使えることになったわけですが、区でできること、できないこと、グレーで議論を要するもの、色々分かれると思うんですが、区の事務局で整理して、部会の方でそれ(要望)を受け止めて、次の段階で、世田谷区ではこの制度をこうします、とこのように発表していく、あるいは改正していく。その場合は、条例改正も視野にいれていきます。条例は、必ずしも渋谷区と同じような内容というわけではなくて、それぞれ区が所管している様々な条例がありますが、扱いを変える場合には、条例改正もあろうかと思います。
――これによって、区は(同性カップルを)配偶者扱いすることでいいのか? 配偶者扱いされるなら、何ができるようになるのか具体的に知りたいのですが。
まさにそういうことが出てくるので、男女共同参画プランの専門部会で、じっくり議論していきたいと思います。早くやろうということで、区長の裁量でやりましたけど、それ以外の今いったような議論を進めていきたいと思います。
――例えば(同性カップルが)民間賃貸住宅に入りたくて、配偶者扱いされなかった場合、そういう訴えが区にあった場合は、区長としては「配偶者扱いしてください」というのでしょうか?
同性パートナーシップ宣誓書の受領書なんですね。証明書までは言っていない。宣誓を受領しましたと言っている。これをどのように不動産業者が見るかは、区としては、区民の意識調査もあるわけで、こういったことをわかってもらうための行政努力はいたします。世界の流れでLGBTを理由に何か排除していくことはやめよう、多様性を認め合っていこうということは大きな流れですよ、ということは区として各界に向けて発信していきたいと思っています。
しかし、その上で事業者がどういう扱いをするのかは、拘束できない。これが始まって、実際上どういう扱いになっていくかは、当事者にとって気になるところです。こういうものができて、住宅が契約しやすくなったという言葉が返ってくるのか、そういう声が上がるかも注目していきたいと思っています。
――要綱で決めたことで、区でできる部分など取り組みは変わるのか?
セクハラ防止指針が世田谷区にあるが、これに対して、LGBT、セクシュアル・マイノリティを理由にしたからかいや差別をしてはならない、というふうに改正しました。
――条例を視野に、とありましたが、渋谷区の条例では、条例に反する事業者名を公表します。区長はどのようにお考えですか?
ひとつの考え方だと思います。事業者名の公表はペナルティですから条例が必要だと思います。世田谷区の場合は、もし条例でこれらのことをやるのであれば、1年間の議論や様々な調整を進めなければなりません。
今回、世田谷区の要綱に基づいた事業者のペナルティなどは考えませんでした。非常に理念的で、実効性はないかもしれません。どれだけ役に立つのかという疑問もあるかもしれませんが、ただ私たちは最初の一歩にしたい、というつもりです。こういった取り組みが身を結ばないということであれば、こういうスタートでは足りなかったということかもしれません。ただ効果があるように全力をあげたいと思います。
――要綱はすでに定めたのでしょうか?
要綱案を、7月29日に示した段階です。11月をメドに実施します。
――婚姻届のように窓口業務になるのでしょうか?
まさに検討しているところでありまして、当事者の方にもいろいろな意見があると思いますが、差別や偏見がまだ存在していることもふまえて、プライバシーが保てるように配慮したかたちで進めていきたい。
(担当者)申し込み自体を電話でしていただいて、その方のシチュエーションに応じて、どこで受領するか決めることも検討している。
――カップルが別れてしまった場合は?
受領した宣誓書を破棄したい場合は、書類を確認していただいた上で、破棄することを検討している。
――結婚相当の関係を認められないのは、必ずしも同性カップルだけでなく異性にもある。DVを受けていた夫と離婚していないが今のパートナーと結婚したい人や、夫婦別姓を希望しているカップルなどもいる。
同性間のカップルに比べて、事実婚というのはある程度広まってきているし、婚姻に準じて扱うことができる。それが必ずしもいいといっているわけではありませんが、男女共同参画の検討会は、同性間のパートナーシップを検討するだけの会ではない。今回は、当事者の方が世田谷区にお見えになった。それぞれの困難度やパートナーとして認めてもらえないかという意見を受け止めたことが、今回の宣誓書につながった。
【関連記事】
ハフポスト日本版ライフスタイルはTwitterでも情報発信しています。@HPJPLifestyle をフォロー