2016年春に開始した「世田谷区児童養護施設退所者等奨学基金」の寄付額が5000万円を超えました。2018年1月23日現在606件5069万7474円となっています。
世田谷区のみならず、全国からも寄せられた600件以上の寄付は、児童養護施設や里親の元を出て、進学する若者たちに向けて給付型奨学金として支給されます。基金創設の反響は大きく、寄付額も当初予想をはるかに超えるペースです。この政策は、2016年(平成29年)の世田谷区の当初予算の記者会見で発表しました。
世田谷区の児童養護施設や里親のもとを巣立つ若者たちが、大学・専門学校に進学する場合に利用できる「月額3万円の給付型奨学金」をスタートさせる準備が整いました。「貸与型」と違い、「給付型」は返済の必要がありません。関係者から強い要望をいただき、2月2日午後の平成28年度(2016年度)一般会計予算案の記者発表で明らかにしました。(『児童養護施設からの進学時に「基金で給付型奨学金」を創設へ』 「ハフィントンポスト」2016年2月2日)
「給付型奨学金」というキーワードでアクセスが急増し、貸与型学生ローンを「奨学金」と呼んできたこれまでの現状に、「給付型奨学金」が必要ではないかという議論につながりました。月3万円という給付額は十分なものだとは言えませんが、世田谷区では低廉な家賃(1万円)で区営住宅を提供する「住宅支援」と結びつけたことによって、生活費負担を減じる効果を組み合わせました。さらに、児童養護施設退所者等の社会的養護の枠を出た若者たちの交流の居場所を設ける事業も加えて「せたがや若者フェアスタート事業」と名づけて、世田谷区子ども・若者部若者支援担当課が呼びかけを開始しました。
世田谷区の広報紙「区のお知らせ」で呼びかけた他、チラシやポスターを作成して周知につとめ、商店街や各業界団体、経営者団体、町会・自治会等に声をかけていきました。また、区内で開催される野外イベント等で募金活動を始めました。児童養護施設退所者等を対象にして自治体が初めて創設した基金として、新聞・テレビのニュースにもたびたび取り上げてもらいました。最初の1年間(2016年4月1日〜2017年3月31日)で寄付は305件、2442万1959円と広がりました。ただし事業も2年目に入ると、初年度に比べてメディアによる紹介も減りましたが、一方で寄付のペースは落ちなかったどころか上昇してきました。
「児童養護施設を出た若者たちを応援する募金、これは必要なことだよね」「私も少額ですが寄付をさせていただきました。若者たちへの応援になればと思って」等と、私もこの間、地域のイベント等で区民から声をかけられました。区の広報紙の号外を継続して発行したり、地域の回覧板にリーフレットを入れたりという取り組みもあって、だんだんと区民に浸透していきました。寄付をいただいたのは区内・区外ともに個人が500人を超えていますが、企業や業界団体、経営者団体、私立幼稚園PTAや町会、イベントでの募金と広がりを見せています。寄付をいただいた方々には、「事業報告書」を作成して送付していますが、支援を受けた若者たちからのお礼のメッセージが掲載されています。少し紹介したいと思います。
この2年間、世田谷区内では「児童養護施設退所後の若者支援」をテーマにして、シンポジウムが開かれてきました。どの会でも、児童養護施設出身の20代の若者が自分の体験を語り、夢を訴える場面がありました。2000年に制定した児童虐待防止法の原案を準備するにあたって、当時、国会議員だった私は、超党派議員の勉強会で「児童養護施設の体験を報告してくれる若者たち」を相当努力して探しましたが、いくつかのツテをたどっても見つけることが出来なかったことを思い出しています。世田谷区で始めたフェアスタート事業は、直接に支援を受ける若者はもちろんのこと、社会が取り組んでいかなければならない課題として認識が広がるバネになったのではないかと思います。
現在、世田谷区の抱えている頭の痛い問題は、ブームとなってきた「ふるさと納税」による地方税(区民税)の流出です。2016年で16億5000万円、2017年31億円、2018年予算では影響額を40億円と見込んでいます。都市部の納税者が全国の市町村に寄付をすることで、地方税の控除を受けることができる「ふるさと納税」は、過熱する返礼品競争にともない規模が急膨張しました。
私は、東日本大震災や熊本地震等の被災自治体に寄付をしたり、都市部から出身地をはじめとしたゆかりのある自治体に「ふるさと納税」をする制度自体は意義があるものだと考えています。一方で、その影響額が、学校や保育園、高齢者施設の整備に影響を与えるほどの金額となることは、明らかに限度を超えていると感じます。では、どのように対応するのか、議論を続けました。
税収減に直面しているのであれば、「世田谷区も返礼品を充実して勝負に出るべきだ」「嘆いている暇があれば、返礼品をそろえる準備をせよ」との厳しい意見もいただきます。ふるさと納税の影響が拡大していく渦中の1年半前から世田谷区で議論してきた結果、「返礼品競争に加わらない。あくまでも、ふるさと納税を利用した寄附を呼びかけ拡げていく」という結論にたどり着きました。(中略)
全国から世田谷区に「ふるさと納税」をすることはもちろん、世田谷区民が世田谷区に「ふるさと納税」をすることもできるんです...と言うと、「それは知らなかった」という区民に多く出会いました。昨年12月に、世田谷区も「ふるさと納税」のサイトである「ふるさとチョイス」に登録しました。ここには、寄附の宛て先として、8つの基金が提示されています。(「『ふるさと納税は世田谷区へ』と呼びかけ『寄付文化醸成』を掲げます」(「ハフポスト」」2017年6月6日 )
世田谷区の準備した8つの基金の中で「児童養護施設出身者等奨学基金」がもっとも大きな反響を呼びました。総額5000万円を超えた基金に対して、「ふるさと納税」を利用しての寄付は、146件1267万8000円となりました。「寄付文化の醸成」に向けて一歩、一歩と確実に踏み出しています。どうか、支援の輪を広げていただければ幸いです。
世田谷区では大きな仕事に取りかかっています。実は、社会的養護の中軸の役割を担う児童相談所を2020年春以降に東京都から世田谷区に移管する準備です。児童福祉法のもとに始まった日本での「社会的養護」も、制度が発足して70年が過ぎようとしています。 当事者の子ども・若者の立場から、ひとりひとりが社会に踏み出し、かけがえのない人生を送ることができるように、制度の改善をしたいとも考えています。
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