6月2日に行われた世田谷区長定例記者会見で、4月時点の保育園待機児童が1198人と昨年を16人上回り、過去最高を更新した状態にあることを発表しました。今年こそ減少に転じると予想していたので、待機児童となった子育て中の保護者の皆さんには「大変申し訳ない結果となり、責任を感じます」とお詫びをしました。
世田谷区待機児童過去最多1198人 今年も全国最多か
東京都世田谷区は2日、今年4月時点の待機児童数が過去最多だった前年同期より16人増え、1198人になったと発表した。国の基準通りに、保育園に入園できなかったために育児休暇を取得したケースを待機児童数に含めなければ906人だが、過去最多に変わりはない。昨年4月時点で全国の自治体で最も多く、今年も全国最多となりそうだ。(毎日新聞2016年6月2日)
毎日新聞が「育児休暇を取得したケースを待機児童に含めなければ906人だが、過去最多には変わりはない」と触れている部分は、自治体によって「育児休業の延長や自宅で休職中等を待機児童から除外するところが多く、待機児童の数え方が大きく異なる」という発表時の私の指摘を踏まえてのことです。
(参考) 数え方次第で「待機児童」が半減する? (「太陽のまちから」 2013年6月11日)
厚生労働省にも何度も「待機児童の数え方の統一」を求めてきましたが、3年間放置されてきました。保護者から見れば、新聞やニュースの「待機児童自治体別一覧表」を鵜呑みにして、待機児童を少なく発表している自治体に転居しても、実際には保育園入園がかなわないということもあります。「待機児童の実態」を伝える数字は、客観的に比較可能なものでなければなりません。ただし、「数え方を統一」しても、世田谷区の待機児童数が多く深刻な状況には変わりはありません。
世田谷区、2016年度に保育定員2200人増 0~2歳児向け強化
世田谷区は2日、2016年度に保育定員を2211人増やすと発表した。保育所に入れない待機児童が4月1日時点で1198人と過去最多を更新しており、解消を目指す。計画通り増やせれば、来年4月の保育定員は約1万8100人となるが、住民の反対などで保育所新設が頓挫する例も多く、100%実現できるかは不透明だ。
保育定員の拡大は、認可保育所の新設や小規模保育施設の整備で実現を目指す。特に待機児童の大半を占める0~2歳の受け入れに重点を置く。事業費は43億円程度となる見込みだ。
世田谷区は15年度に約2000人の定員増を掲げたが、実際に増やせたのは計画の6割強の約1260人だった。(日本経済新聞 2016年6月3日)
今年の春、2082人の保育定員拡大を目標に整備にあたってたものの、周辺住民との合意がならずに、開園が遅れた園も複数あって、実際の整備数は1259人に止まりました。この記事にあるように、待機児童数が「過去最多」レベルであるだけでなく、保育園整備数と定員増計画も「過去最大」レベルになっています。
現在、2017年春に38施設2211人の定員拡大を実現すべく取り組んでいますが、計画を完全達成できるかどうかは今後にかかっています。
世田谷区では、職員16人が4チームに分かれて、約40の認可保育園整備に取り組んでいます。民間の保育園用地の土地探しに対しても、492件の相談を受け付けて、かなりの反響がありました。すでに21園が開園し、12園が準備中です。「総力をあげて認可保育園整備を進める」方針に変わりはありませんが、需要増の勢いに追いついていくのが大変です。
世田谷区の待機児童問題の背景にあるのは「人口増」です。6月1日現在で世田谷区の人口は、89万927人となりました。住民基本台帳上で88万人台を超えたのが2015年7月で、わずか10カ月後の5月には1万人増えて89万人台となりました。10カ月で1万人という人口増の波の中で、子ども人口も増えています。
私が世田谷区長に就任した2011年には、85万2117人だった人口は、5年間で3.7%増えました。一方で、0歳から5歳までの子ども人口は、3万9628人(2011年)から4万4083人(2016年)と、実に11.2%増加しています。この5年間で、0歳から5歳までの子どもが4455人増加し、毎年900人台(2015年は700人台)も子どもの人口が増えているのです。(「子ども人口増」「認可園申し込み者増」を追う「待機児童対策」2016年3月24日)
世田谷区が、「人口減少と子ども減」に悩む全国の自治体とは正反対の、「人口増加と子ども増」という都市部特有の状況に直面していることは否めません。さらに、子どもの数が増えただけではなく、認可保育園希望者は、2011年の4407人から2016年には6439人と5年間で46%増となっています。仮に、認可保育園入園希望者数がここまで上昇しなければ、この間の保育定員増によって、待機児童数は目に見えて減少していたはずです。
この需要に応えるためには、「何が何でも定員増を」という声が大きくなります。規制緩和論者からは、「保育園であれば"原則届け出制度"にしてしまえ」とか、「自治体の審査条件の厳しさが待機児童増加に拍車をかけている」という主張も聞こえてきます。
保育園は、大切な生命を預かっています。倉庫や、荷捌き場ではありません。待機児童の数が多く厳しい状況に置かれている世田谷区ですが、「保育の質」はしっかりと確保し、安易な妥協は許されないと考えています。
世田谷区内で保育園を運営したいという社会福祉法人や株式会社等の事業者からの申請を受けると、公開している「保育の質ガイドライン」による審査をします。実際に、事業者がすでに運営している保育園に足を運び、子どもの立場に立って運営がされているか、項目別にチェックをします。ここで、合格点に及ばない事業者には、補助を認めません。
昨年の保育施設事故399件、乳幼児14人死亡 内閣府
2015年に報告があった保育施設での事故で、乳幼児14人が亡くなっていたことがわかった。前年より3人少ないが、依然として多くの幼い命が失われている。重大なけがを含め、報告された事故の総数は399件に上った。内閣府が18日に公表した。(朝日新聞 2016年4月19日)
子どもを安全に預かるという保育の前提さえ確保できない事業者が、規制緩和の波の中で、増加していることも背景にあります。死亡事故を避ける安全体制を築くのはもちろんですが、子どもの生命の育ちを保証する場であることも重要です。
ところで、今回発表した待機児童数は過去最多となりましたが、年齢別に見ると0歳(460人)、1歳(583人)、2歳(151人)に集中します。3歳はわずか4人となり、4・5歳は0人です。次々と認可保育園が開園したことで、3歳以上の待機児童の解消は実現しています。さらに、待機児童が集中する0, 1, 2歳を解消するためには、早期に整備できる自治体独自の「認可外保育」(認証・保育室)へと子ども・子育て新制度の支援を広げていくことが有効だと考え、厚生労働省に申し入れています。
待機児童の大半を占める0歳から2歳までの子ども受け入れるため認可外の認証保育所・区独自の保育室等の設置・運営を独自に推進していて、総定員中2,358人を預かるなど大きな役割を果たしています。認証保育所・保育室等の施設整備は、整備間が半年から1 年と、(認可保育園に比べて)スピーディーに整備ができますが、子ども・子育て新制度に移行していく施設を除いて、財政支援の対象外となり、新設がぱったり止まった状況です。(厚労省「待機児童解消に向けた緊急対策会議」で「働き方改革」を訴える 2016年4月19日)
さらに、雇用・労働環境の改善をはかる「働き方改革」も必要だと厚生労働省に求めました。最長で1年6カ月の育児休業を延長し賃金保証することや、在宅勤務や短時間勤務、ワークシェアリング等の多様な働き方を広げていくことも、0, 1, 2歳の低年齢児の待機児童解消につながります。長時間労働をそのままにせず、妊娠・出産・子育てへの社会的支援を企業が担うことも重要な視点です。中小企業には、国の支援も必要となります。
「保育園落ちた、日本死ね」のブログ記事が国会に波紋を投げかけてから、3カ月。通常国会も閉会し、参議院選挙モードとなりました。「保育士の待遇改善」や「認可外の新制度下での支援」、そして「働き方改革」も財源あって可能になることばかりです。安倍首相の「消費増税の延期」という「新しい判断」により「待機児童対策」はどこへ行くのでしょうか。
子ども・子育て予算不足分を「消費増税」に限定するのをやめて、「パナマ文書」で明らかになった逃税防止策や「法人減税・所得税の累進税率の見直し」も避けて通ることはできないと思います。日本ほど、政府支出の中で子ども予算を出し渋ってきた国はありません。
経済協力開発機構(OECD)は24日、教育に関する調査結果を発表した。2012年の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は、日本は3・5%で、スロバキアと並んで加盟国34カ国中、最下位だった。(朝日新聞2015年11月24日)
何年かに1度ある国政選挙をめぐる論戦では、子ども政策を転換させる大きなチャンスです。当面、自治体の現場では保育園整備に全力をあげます。けれども、社会全体でもっと「妊娠・出産・子育て」を包摂し、支援していく構造に変えていく時期です。
(参考)子どもの立場で保育充実を 世田谷のママたち、子育て環境語る(東京新聞 2016年6月7日)
認可保育所などに入れない待機児童数が毎年全国で1、2位を争う世田谷区で5日、子育て環境について語り合う集会「世田谷区は子育てしやすい街なのか?」が開かれた。区内の子育て世代でつくる「ママカラ☆プロジェクト」(中山瑞穂代表)が主催。大人の都合ではなく、子どもの立場で保育や子育て支援を考えようという意見が出た。