脳のGPS:「方向感覚」細胞、特定される

人間は、たとえなじみのない場所であっても、自分が今どこにいるのかという感覚を常に持っている。それはなぜだろうか。その理由を説明できるかもしれない科学的発見がなされた。
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人間は、たとえなじみのない場所であっても、自分が今どこにいるのかという感覚を常に持っている。それはなぜだろうか。その理由を説明できるかもしれない科学的発見がなされた。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校などの研究チームが、人の脳には、見知らぬ場所を進むときに、自分の相対的な居場所を把握することを可能にする神経細胞が存在することを発見したのだ。研究者らはこの細胞を「グリッド細胞」と呼んでいる。

「このグリッド細胞は、たとえば出発点や最後に曲がったところから、いまどのくらい離れているかといったことを記憶するのに役立っていると見られる。」「グリッド細胞がなければ、人は何度も道に迷うか、目印のみを頼りにして進まざるを得なくなるだろう。グリッド細胞は、ある環境下で場所の感覚を持ち続けるためにきわめて重要なものだ」と、ドレクセル大学の生物医学・科学・医療システム学部に所属するジョシュア・ジェイコブズ准教授はリリースの中でこう説明している。

『Nature Neuroscience』誌で発表されたこの研究は、ビデオゲームに参加した被験者14名の脳の記録を分析したものだ。このビデオゲームは、いくつかの物を手に入れるためにあちこちを移動するという内容で、参加者は、物があった場所に戻る方法を覚えておく必要があった(研究チームが参加者の脳の記録を入手できたのは、参加者の全員がてんかん患者で、治療のために脳に電極が埋め込まれていたからだ)。

「人の脳にグリッド細胞が存在するという今回の発見は、人の脳の海馬のなかに、個々の場所で発火する『場所細胞』が存在するという以前の研究と合わせて、人もほかの動物も同じようなマッピングやナビゲーションのシステムを保持していることを示す有力な証拠になる」と、ペンシルベニア大学で神経科学者を研究するマイケル・カハナ教授はリリースの中で語っている。

2010年には、赤ちゃんマウスも生まれながらにして方向感覚を持っていることを示す研究結果が『Science』誌で発表された。リンク先によると、脳のマッピングシステムには位置感覚と方向感覚、距離感覚の3側面があり、成長途上で最初に「方向神経細胞」、次いで「位置神経細胞」、その後「距離神経細胞」が活性化するという。

2010年にこの研究を行ったユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)行動神経学研究所のフランチェスカ・カクッチ氏は、当時LiveScienceの取材に対して次のように語っていた。「人間の幼児におけるマッピング感覚の発達プロセスは、幼いマウスのそれと非常によく似ている。このことから、これらの神経細胞が、人間の脳の中でも何らかの役割を果たしている、とある程度仮定することができるだろう」。今回の研究はこの仮説の一部を、てんかん患者の脳によって実証したことになる。

[Amanda L. Chan(English) 日本語版:佐藤卓、合原弘子/ガリレオ]