TPPはアメリカでも揉めている 交渉妥結の切り札「TPA法案」は激論の末可決へ

アメリカ上院は21日、オバマ大統領が抱える貿易上の課題である法案の審議を終え、評決で環太平洋経済連携協定(TPP)締結の前提となるファスト・トラック法案(TPA)を可決した。
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US President Barack Obama applauds at the end of the 134th Commencement Exercises of the United States Coast Guard Academy in New London, Connecticut, on May 20, 2015. AFP PHOTO/NICHOLAS KAMM (Photo credit should read NICHOLAS KAMM/AFP/Getty Images)
NICHOLAS KAMM via Getty Images

ワシントン -- アメリカ上院は21日、オバマ大統領が抱える貿易上の課題である法案の審議を終え、評決で環太平洋経済連携協定(TPP)締結の前提となるTPA法案を可決した。

TPA法案とは、正式には「貿易促進権限法案」という名前で、大統領に対して外国との貿易協定の締結と、その後は迅速な手続きで下院を通過させる権限を与えるものだ。

これは大統領にとっては大きな勝利であり、大きな意味を持つ新条約を下院で早期に可決できる権限が与えられたことになる。

上院議員の数人は、修正に必要な票数を集めることができないとして審議の進め方に反対していた。彼らは、水面下で進んでいる環太平洋12カ国と欧州との合意が修正されない限り、アメリカの労働者を救済するという彼らの約束が果たせないとしていた。

しかし上院議員62人はこれに同意せず、審議を打ち切る評決を行い、今週末までにTPA法案を通過させる道筋をつけた。

アメリカ上院財政委員会の議長で本法案推進の中核的役割を果たしているオリン・ハッチ議員(ユタ州選出、共和党)は、「今回の法案審議プロセスが、誰もが望むようには進まなかったことは確か」と述べた。それでも彼は、「健全なアメリカ経済の威信が、今や危機にさらされている」として、法案通過を主張した。

「TPA法案こそが、下院が進行中の貿易交渉の中で優先順位付けを効果的に主張できる唯一の方法なのです」とハッチ議員は述べた。「我が国が貿易相手国と行なう貿易交渉で良い結果を出すには、この方法しかありません」

しかし、他の上院議員は、そこまで広い権限を急いでオバマ大統領に与える理由はないと批判した。

「TPA法案の審議すらほとんどできていない、今度はTPPという、重要な法案の審議に移ろうとしています。もしこれが可決されてTPP法案が出てくれば、修正することはできなくなるのです」と、ジェフ・セッションズ議員(アラバマ州選出、共和党)は、TPP妥結後に下院が変更することを認めないTPA法案について述べた。

「急いで進めなければならない理由はどこにもありません」とセッション議員は述べ、オバマ政権は、TPPがアメリカの労働者にとって良いものになるという十分な保証をしていないと指摘した。

「私は合衆国大統領に対して書簡を送り、TPA法と、あの重大な環太平洋パートナーシップ協定がアメリカの労働者の賃金や雇用にどのような影響を与えるのか質問をしたのです。簡単な問いかけなのです。これによってアメリカ製造業の雇用と賃金が増えるのか減るのかという質問です」と、セッション議員は採決前にこう語った。「これを知ることに何か問題があるのでしょうか。それともこれは不適切な質問なのでしょうか。彼は答えを拒んでいます。答えを拒んでいるのは、その答えが良くないものだからです」

民主党側でこの法案を推進する中心人物のシェロッド・ブラウン議員(オハイオ州選出、民主党)はセッション議員に呼応してこう述べた。

「我が国の歴史を振り返ると、自分の町で交易協定を締結した結果、働く者の世帯にとって良くないものだと分かったら、少なくともオープンな討議をして修正案を出すのです」とブラウン議員は述べた。「前回、上院で審議した時には3週間ありました。今回はそれが3日しかありません」

この法案の通過は、オバマ大統領にとっては大きな勝利ではあるが、上院の採決の時になっても、とても通過が確実と言える状況ではなかった。

民主党側でこの法案を推進する中心人物ロン・ワイデン上院議員(オレゴン州選出、民主党)は、他の議員の賛同を得るために徹夜を繰り返し、夜11時以降でもオバマ大統領と今後の対応策を練っていたという。

「大統領は、この問題にかかりっきりでした。これ以外に現在の状況を説明する言葉はありません」と、ワイデン議員は採決後、記者団にこう伝えた。

大統領からの圧力があったかどうかはともかく、可決に必要な数の60票に数票足りず、危うく否決となるところだった。それでも何とか可決されたが、十数人の上院議員が議場で緊迫した論議をたたかわせ、採決期限もはるかに過ぎた末のことだった。

採決後、複数の上院議員が明らかにしたところによると、鍵となったのは上院の過半数を占める共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州選出、共和党)がキャントウェル議員(ワシントン州選出、民主党)に対し、輸出入銀行に対して再び権限を与える法案に賛成票を投じると約束したことだ。この法案は、同銀行がアメリカ産の商品購入資金が不足する地域に融資を行う際の後ろ盾となるものだ。これで最も恩恵を受けるのが、キャントウェル議員の選出州にあるボーイング社だ。

保守派は、輸出入銀行は企業に対する不必要な保護措置だとしているが、キャントウェル議員と同じくボーイング社の工場があるサウスカロライナ州選出のリンゼイ・グラハム議員(共和党)などの議員は、この案に対する賛成票が得られない限り、この通商法案を通過させないという強硬姿勢を見せていた。マコネル院内総務は、審議が白熱した議場内でキャントウェル議員にメモを渡し、6月の採決で賛成票を投じることに約束した。

だが、輸出入銀行の件は、意味のない芝居ともいえる。ジョン・ベイナー下院議長(オハイオ州選出、共和党)は後日、輸出入銀行に関してキャントウェル議員と話をしたことを記者団に明らかにしたが、下院で採決するかどうかは明言しなかった。

TPA法案が通過したもう一つの鍵は、マコネル上院院内総務が賛成票を得るために、TPA法案の修正に最低でもいくつか容認すると約束したことだった。しかし、上院の規則に従えば、修正には議会の同意が必要だ。

ワイデン議員は、どの修正案を含めるか、マコネル院内総務らと今も検討中だと語った。

TPP反対の急先鋒であるエリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州選出、民主党)をはじめ、TPA法案に反対する議員は法案を安易に通過させる前に、オバマ大統領は貿易協定が何を意味するのか、アメリカ国民に伝えなければならないと主張した。

「TPPの内容を明らかにする。それだけで良いのです」と、ウォーレン議員は19日のハフポストUS版のインタビューで述べた。「TPPの草案を明らかにしてくれれば、透明性がないという抗議は取り下げましょう。下院議会のどこか隠された場所に行けば今でも手に入るのですよ。いま、明らかにすることです。そうでないと、後で実態が明らかになって紛糾し、処理するために何とかしてくれと私たちに頼み込む事態になりかねません」

「そして私がまさに指摘したいのは、オバマ大統領は、部分的ではありましたが、TPAの権限を要求する何カ月も前に、自らが交渉してきたTPPの草案を明らかにしたことです」とウォーレン議員は述べた。

ワイデン議員は、最終的にはTPA法案によってTPPの内容を公開することが求められると述べた。

「TPPを皮切りにして、協定の内容は大統領が署名するまでの60日間公開され、その後もおそらく2〜3カ月は公開されるでしょう」とワイデン議員は述べた。「アメリカ国民は4カ月近くの間、下院議員や上院議員とのタウン・ホール・ミーティングに参加して、TPPの内容を詳細に検証し、自分たちが選出した議員が1票を投じる前に質問をすることができるのです」

しかし、TPAでオバマ大統領に権限が与えられると、賛成票を勝ち取ることが容易になる。TPAにより、協定内容の修正と上院での議事妨害ができなくなり、両院で過半数の賛成が得られれば可決される。

21日には、上院での手続き上の障壁が取り去られ、TPA法案は22日の午後にも通過の運びとなった。

この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。

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