はじめまして!
NPO法人青春基地の代表理事・石黒和己(わこ)と申します。青春基地では、大学時代に立ち上げてから2年弱、これまで「想定外の未来をつくる!」をコンセプトに、中学生・高校生たちの好奇心やアクションを応援してきました。
石黒和己(いしぐろわこ):1994年愛知県生まれ。中高はシュタイナー学園で過ごし、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。現在は、東京大学教育研究科修士過程。
わたしたちは、日本の最も重要な教育課題を、中学生以降の子どもたちの自己肯定感の低さ・意欲の低さだと考えています。たとえば「自分はダメな人間だと思う」という項目に関する調査(平成27年度)では、72.5%の高校生が「そう思う」と答えています。各国と比べてみても、中国は56.4%、韓国35.2%、アメリカ45.1%ということを踏まえるとその差は大きい。
大学時代に高校出張授業のボランティアとして100校ほどの高校へ行ったのですが、なにより現場に行くたびにこうした違和感は感じていました。
画像:NPO法人青春基地 作成
参考:国立青少年教育振興機構
そして、この課題は、個々人の能力や努力の差ではなく、「じぶんや社会をどう捉えているか」という見え方の差だと思っています。
「どうせ無理」ではなく「できるかもしれないから、やってみる」と思える機会を、自分の可能性を信じてくれる人と出会う機会をつくりたい。そんな思いで、'15年9月に青春基地を立ち上げました。
現在は、「ATTENTION (触発)」と「ACTION(動かす)」を軸に、2つの事業を学生中心に進めています。
■ ATTENTION:ウェブマガジン「青春基地」
写真:ウェブマガジン青春基地トップページ
高校生たちの挑戦、その力になるために、私たちが着目したのが「メディア」でした。最近のウェブメディアでは、「わたし」という一人称での発信が共感されていて、読み手と作り手の距離が近づいていると感じています。
たとえばSNS上では、読者モデルなのか、普通の高校生なのか一目見ただけはなかなか分からない。映画館やライブハウスのような主体と客体にはっきりとした境界線がありません。プロよりも「いいね!」やファンの多い高校生たちもざらにいます。
とくにMixChannel(動画のSNS)を知ったときは、ユーザーがどんどん作り手になっていく仕組みに感動しました。これまでAdobeのソフトなどでしかできなかった画像の編集を、女子高生たちは、背景の透過・切り抜き・エフェクトなど機能ごとにスマホのアプリを使いわけ、かなりクオリティの高い動画を手がけています。
もちろん文化の違いも衝撃でしたが、人によっては数1000枚の画像をコラージュしていたり、作り方の動画も人気があったり、ユーザーを遡るとどんどんクオリティが上がっているのが見えます。プリ帳が進化して、女子たちの凝り性が加速しているプラットフォームという感じなので、「作り手」になることが特別視されてないんです。
ここから、メディアには「手の届かない存在とわたし」と境界線を引くことなく、自分の未来の延長線上に描ける可能性があるな、と思いました。
これを活かして、10代がなんとなく触発されて、動きたくなるような仕掛けを考えています。受け取ったり、届けたり、混ぜたいなと思っています。
■ACTION :PBLプログラム (Project Based Learning)
写真:現在、活躍中の高校生編集部たち
「主体と客体を混ぜる」という仕掛けの延長線上として、なにより大切にしているのは、10代が実際の書き手として挑戦するということです。
高校生編集部たちが、それぞれの夢や、バックグラウンドを重ねながら、会いたい人たちに会いにいって記事を書いています。つまり青春基地にとってのメディアは、中学生・高校生たちが会いたい人や場所に行くための「挑戦の武器」です。
そして情報化・ボーダレス化のおかげもあり、実際にかなり多くの方に会いにいける時代だなと、と日々実感しています。立ち上げ初期から、TRFのSAMさんや俳優・村上虹郎さん、あるいは歌舞伎町のホストなど、多様な出会いがありました。
写真:記念すべき一番最初の取材の様子
自己肯定感や意欲の低さに取り組むために、一人ひとりが「動かしてみる」ところまでなぜ向き合うのか。
高校生たちは「やってみようと思います!」と意気揚々と帰るけど、大抵「部活が忙しくて...」「テストが...」と日常に飲まれていきます。信頼関係を築くことだけでなく、どーんと構えて、じりじり向き合い続けなくてはならない。(笑)
でも動かすと出会う、共感や感動あるいは葛藤や苦さは、動いたその人にしか分からない、かけがえのないものだと思うんです。心が動いたその瞬間こそが、次への好奇心や原動力になるはずで、この生き生きとした力こそ必要なんじゃないかと思っています。
そうやって動かしつづけると、自分のなかに新しい「仮説」や「疑問」が生まれてきます。そして見えている景色が変わってきたり、「こんなことまで、できたのか」と自分やチームの可能性を知ったりします。ようやく「じぶんや社会の捉え方」が変わってくるのだと思います。
ただ、その過程は楽しいことだけではなくて、考え続けなくちゃいけないしんどさや、制約や考え方の板挟みのなかで意思決定しなくてはならないこともある。「本当にやること」は、とても難しいことなのだと思います。ここにこそ、日常的に学生のメンターたちが伴走している意味があると感じています。
また、このような問題発見や解決案に終始せず、実際に事を起こし、その過程で学ぶことを、「PBL (Project Based Learing)」と言います。これはジョン・デューイというプラグマティズムの教育哲学者の思想を源流としており、著書『経験と教育』(Experience and Education,1938)のなかには、まさに "Learning by doing"という有名な一節があります。
■学校教育での新たなチャレンジ
写真:山梨県立富士北稜高校にて。校長・担当の先生方とともに
青春基地のなかで大切にしている学びを、より日常的にするために、今年から私たちは新たなチャレンジを始めました。学外にとどまらず、「学校教育」のなかで展開していくというものです。
さっそく今年4月から県立高校2校で、通年・週1〜2回の授業が始まっています。探求学習や課題研究という授業枠のなかで、青春基地がカリキュラムづくりや、実際の授業運営を先生方とともに、取り組ませていただいています。
プレスリリース:http://seishun.style/news/2154/
たとえば富士北稜高校では、地域の「ヒト・モノ・コト」を扱うことをテーマに、取上げる切り口など一から考えて、フリーペーパーを制作していきます。
■「想定外の未来をつくる!」に込めた想い
私たちの「想定外の未来をつくる!」というコンセプトは、変化の激しい時代を消極的に"生き延びる"ことではなく、先を描いていこうという意味を込めています。
ただ、なにより大切にしたいことは、今自分が認識している以上に、一人ひとりには多くの可能性があるということです。中高校生たちは、及第点ではなく、自分を信じて、自分の未来に想定外をおこしていってほしいと思いながら、日々接しています。
次回では、青春基地を立上げの原点でもある、オルタナティブ・スクールの一つである母校・シュタイナー学園での学びについて、書きたいと思います。
写真:青春基地メンバーたち。中央右側が代表・石黒。