NHKの国際ニュース番組「これでわかった!世界のいま」が、アメリカでの「黒人の怒りが噴き出していること」について「背景には黒人と白人の貧富の格差がある」などとし、批判を浴びている。
動画での黒人の描かれ方にも疑問の声が上がっていて、ニューヨーク在住のジャーナリスト・津山恵子さんは「なぜ普通の人物としての扱いができないのか」と話している。
■フロイドさんの死には触れず
批判を浴びているのは、NHKが毎週日曜日に放送している番組「これでわかった!世界のいま」の公式Twitterが6月7日に投稿した内容。番組のキャラクターが「白人と黒人の格差について説明する」というもので、「#抗議デモ」というハッシュタグがつけられている。
白いタンクトップを身につけた筋肉質の黒人男性が、およそ1分20秒にわたって「俺たち黒人と白人の貧富の格差があるんだ」などと話している。
さらに動画では、白人の平均資産が黒人の7倍にのぼることや、新型コロナウイルスの影響で多くの黒人が失業したり、労働時間が削られたりしたことを挙げ「こんな怒りがあちこちで噴き出したんだ」と締めくくっている。
アメリカでは現在、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察官に膝で首を抑え付けられ、その後死亡したことを発端に、黒人が不当に命を奪われる現状や人種差別に対する抗議デモ「Black Lives Matter」(黒人の命は大切だ、黒人の命を守れ)が大規模に発生している。
一方、この動画には、ハッシュタグで「抗議デモ」とつけられているにも関わらず、人種差別で発生する命の格差には一切触れず、経済的な側面のみを取り上げたものになっている。動画が投稿されると「お金の問題なのか」「これが人種差別的だ」などといった批判が数多く寄せられた。
また、この動画以外にも「白人警察官には黒人に対する漠然とした恐怖心があって、今回の抗議デモの発端となったような事件がなくならないとも言われている」とするツイートもあり、こちらにも反対の声が上がっている。
■表現の問題点は
内容に加え、動画での黒人の描かれ方にも疑問の声が上がっている。
ニューヨーク在住のジャーナリストでアメリカ社会に詳しい津山恵子さんは「黒人は怖いものだというイメージを作り上げているのが最大の問題点」だと指摘している。
津山さんは、動画に登場する黒人について「怖い顔をして、筋肉質で、日本のヤクザ映画のような巻き舌で喋る。私の周りでは見ない黒人像です。なぜ普通の人物としての扱いができないのでしょうか」と疑問を呈する。
また、他の部分にも差別的な表現があると津山さんは話す。
「黒人たちの背後で車が燃え、黒い煙が上がっています。足元には埃が舞っていて、いかにも暴動であるかのようです。アフロヘアーもアメリカではNGの表現です。2度デモの現場を取材していますが、白人など多くの人種が参加していて、実際はむしろ黒人の方が少ないくらいです。黒人ばかりを描いているのは、まるで1960年代の公民権運動のようです」
また、「#抗議デモ」というハッシュタグをつけながら経済的な側面をフォーカスした内容にも「今回のデモでは、構造的に根深い黒人への差別や、有色人種に対する警察官の暴力に反対しているものです。経済的な格差は主要なテーマではありません」と指摘している。
津山さんは今回の黒人の描き方について「太平洋戦争のときに、アメリカが目のつり上がった日本人を描き、“怖い存在”として敵を作らせたポスターのように、ステレオタイプな表現方法が使われていると思います」とも話している。
【UPDATE:6/9 14:45】
NHKは問題とされた動画について、声明文を発表した。
26分のコーナーのうち、アメリカの黒人たちが置かれている厳しい現状について伝えるべく1分20秒にまとめたものだと釈明。「視聴者からこのアニメーションについて、問題の実態を正確に表していないなどというご批判をいただき、掲載を取りやめました。掲載にあたっての配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします」と謝罪した。