安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、宗教団体「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)と政治とのつながりが注目されている。ハフポスト日本版では、旧統一教会系の新聞「世界日報」について調査した。
過去5年間にインタビューもしくは座談会が掲載された現職の国会議員を調べたところ、少なくとも13人いることが確認できた。調べたのは2017年7月〜2022年6月の紙面。2022年までに辞職・落選した元議員は除いた。
この13人に取材を受けた経緯などを質問したところ、8月9日までに6人が回答。このうちインタビューの存在を否定した馬場伸幸氏以外の5人が、「旧統一教会と深い関係がある新聞とは知らなかった」という趣旨のコメントをした。
しかし、政治家のインタビュー記事が世界日報に掲載されると、旧統一教会系の団体から「アプローチしてもいい人と認識される可能性」があると専門家は指摘している。
【注記】 馬場氏はこの記事の掲載後、「取材依頼があったので対応した」と、一転してインタビューに応じたことを認めた。
■最多は自民党の10人。国民2人、維新1人と続く。憲法改正をテーマにした記事が約半数
「世界日報」への登場回数が最多だったのは、日本維新の会の馬場伸幸共同代表で3回。自民党の中谷元(なかたに・げん)総理補佐官と細野豪志氏、国民民主党の玉木雄一郎代表の3人が2回ずつ出ていた。
その他の9人の議員は全員自民党で掲載1回。衆院議長の細田博之氏や、前官房長官の加藤勝信氏といった大物議員のほか、旧統一教会のイベントで韓鶴子総裁を「マザームーン」と讃えたと報じられた山本朋広氏の名前もあった。
2022年現在の所属政党別にみると自民党が10人で最多。国民2人、維新1人と続いた。立憲民主党、公明党、日本共産党などの議員は見当たらなかった。なお今回の集計からは、時事通信社による政治家インタビューで、世界日報に配信・掲載された記事は除外している。
インタビュー・座談会のうち約半数は、憲法改正の推進をテーマにしたもの。そのほか「台湾有事」や「敵基地攻撃能力」などの防衛に関するテーマが目立った。
■世界日報の目的は「日本の政界・財界・言論界に食い込んでいく」こと。勤務経験がある仲正昌樹教授が指摘
多くの国会議員が取材に応じる「世界日報」とはどんな新聞なのか。かつて世界日報の記者だった金沢大学法学類教授の仲正昌樹(なかまさ・まさき)教授に取材した。
仲正教授は東京大学1年生だった1981年、旧統一教会に入信。1990年から世界日報の記者となり、92年に退社するのと同時に教団からも脱会した。11年半の入信生活を振り返った「統一教会と私」(論創社)という本も出版している。仲正教授は世界日報について、自身の経験を踏まえて以下のように話した。
「旧統一教会が、世界日報を財政や編集メンバーの面で支えているのは確かです。ただし『機関紙ではない』と、私がいた頃から強調していました。旧統一教会の機関紙には『中和新聞』があり、教義や教祖の動向を伝えています。一方で、世界日報には旧統一教会に関する記事はほとんど載らず、むしろ産経新聞のような一般的な保守系の新聞に近い記事が多い。事前知識がない限りは、数カ月購読したとしても旧統一教会系の新聞だとは、なかなか気づかないでしょう」
世界日報の販売店は首都圏に限られているため、「旧統一教会の全国の信者が読んでいる」という性質の新聞ではなかったという。また、信者以外の読者も多かった。教義を伝えないにも関わらず、なぜ教団はお金のかかる日刊紙発行を支えているのだろうか。
「世界日報の主なターゲットは、自民党を中心とする保守系の政治家、それに保守系の言論人・財界人でした。そういう人たちとうまくやっていくために、世界日報が媒介になるということでした。旧統一教会の中でも、教義を伝えない世界日報の発行を疑問視する声もありました。それでも発行を続けているのは、教祖や幹部の意向として、日本の政界・財界・言論界に食い込んでいくためには『やっぱり新聞が必要だ』ということでしょう。浸透していくためには『機関紙じゃ駄目だ』ということだと思います」
仲正教授は、政治家にとっても世界日報の存在はメリットが大きかったと指摘する。保守派の中でも特に過激な意見を載せる場として伝統的に利用されてきたという。
「自民党の非常に保守的なタカ派の議員がいたとして、その人が保守派の中でも特に過激な意見を持っていたとします。産経新聞ですら『先生ちょっと』って言われるような意見でも、世界日報だったら『先生ぜひおっしゃってください』と紙面に出すことができる。一度記事が出ると、政治家は『私は新聞でこういうこと言ったんだ』と支持者にアピールできる。そうした場として利用されていた方も多かったと思います」
ただし注意しなければいけない点があるという。仲正教授は、世界日報の紙面に出た政治家が「旧統一教会との関係が深い」とまでは言い切れないと指摘した。
「少なくとも在籍当時の感覚としては『旧統一教会が背後にいる』ということは、ほとんどの議員は知っていました。『この新聞の名前が分からない』となったら当然、秘書たちに調べさせますからね。ただ、過去に大物議員たちもインタビューで登場しているし『紙面に出たとしても問題視されない』という風に思ったのではないでしょうか」
その上で、世界日報にインタビュー等が掲載されることの効果として、旧統一教会の関連団体から「自分たちがアプローチしていい人」とみなされる目安になると分析した。
「正確な位置づけがあるわけではないですが、世界日報にインタビュー等が載ることで、国際勝共連合や天宙平和連合(UPF)といった旧統一教会系の団体が『自分たちがアプローチしてもいい人なんだなっていう一つの目安』にはなると思います。『旧統一教会系の団体と関わることにアレルギーがない人』と認識される可能性があるということですね」
■過去5年間に世界日報に掲載された国会議員のインタビュー・座談会
01.逢沢一郎(自民)
2018年12月11日「アフリカ開発と日本 投資や消費に高まる関心」
02.江島潔(自民)
2020年7月20日「商業捕鯨再開1年と課題 拡大へ新国際組織も視野」
03.衛藤征士郎(自民)
2020年10月7日「年内に党改憲原案を起草 来年通常国会に法律案提出」
04.加藤勝信(自民)
2018年10月24日「臨時国会にどう臨む 審査会で党改憲案の議論を」
05.榛葉賀津也(国民)
2022年1月1日「2022年憲法改正 わが党はこう挑む」
06.玉木雄一郎(国民)
2020年11月12日「本格改憲案示し議論深める」
2022年3月9日「トリガー条項 国民目線で政治判断を」
07.中谷元(自民)
2018年1月3日「新春政治座談会 『待ったなし!憲法改正』」
2020年7月10日「『イージス・アショア』断念 総合ミサイル防衛体制強化を」
08.西銘恒三郎(自民)
2019年3月12日「辺野古移設の原点 普天間返還で県民投票を」
09.馬場伸幸(維新)
2018年1月3日「新春政治座談会 『待ったなし!憲法改正』」
2020年1月3日「新春インタビュー 2020年どうなる憲法改正」
2022年1月1日「2022年憲法改正 わが党はこう挑む」
10.古屋圭司(自民)
2022年1月1日「2022年憲法改正 わが党はこう挑む」
11.細田博之(自民)
2020年1月3日「新春インタビュー 2020年どうなる憲法改正」
12.細野豪志(現在は自民、掲載当時は希望の党と無所属)
2018年1月3日「新春政治座談会 「待ったなし!憲法改正」
2021年3月16日「危機管理の教訓 最悪の事態想定し対策を」
13.山本朋広(自民)
2019年1月3日「新春座談会 インド太平洋構想と日本の安保戦略」
※敬称略。氏名の五十音順。
■13人の国会議員に質問状を送ったところ、回答は6人。その内容は?
ハフポスト日本版では、今回の調査で該当した13人の国会議員に対して、世界日報と旧統一教会に関する質問状を送った。質問の内容は以下の通り。
Q1. 世界日報のインタビュー・座談会に応じたのは、どういう経緯からでしょうか?
Q2. 世界日報が旧統一教会と関係が深いメディアと知った上で、インタビュー・座談会に応じましたか?
Q3.世界日報にインタビュー・座談会が掲載されたことで、旧統一教会から「自分たちに友好的な政治家」とみなされた可能性があります。そのように旧統一教会から認識されたとしても問題ないでしょうか?
Q4.旧統一教会及びその関連団体のイベントに登壇したり、メッセージを送ったことはありましたか?
Q5.旧統一教会及びその関連団体から、政治活動・選挙に関する支援を受けたことはありましたか?
これに対して、期限の8月9日までに回答があったのは6人だった。各議員の回答を五十音順に掲載する(敬称略)。
衛藤征士郎(自民)
A1.当時、自民党憲法改正推進本部長として、憲法改正についてのインタビューの要請があれば、全てのメディアに対応した。
A2.世界日報が旧統一教会と深い関係があるとの認識はなかった。
A3.職責上、インタビューに対応しただけで、一方的に思い込まれても迷惑である。
A4.イベント登壇、メッセージ送る等、一切無し。
A5.政治活動、選挙に関する支援を受けたことは無い。
榛葉賀津也(国民)
A1.各党幹事長横並びで憲法問題のインタビューということだったので。
A2.関係が深いという認識はありませんでした。
A3.その様な認識はありません。
A4.ありません。
A5.ありません。
玉木雄一郎(国民民主)
A1.メディアからの取材については、我が党の主張をできるだけ多くの人に知ってもらうため、メディアを問わず、都合がつく限り受けるようにしています。本件も世界日報だから受けたわけではありません。党本部の了解も得ています。
A2. 恥ずかしながら、そのような認識はありませんでした。
A3. これまでにも幅広いメディアからの取材依頼に都合がつく限り受けるようにしています。本件も世界日報だから受けたわけではありません。旧統一教会において、報道されているようないわゆる霊感商法や寄付の強要といった問題が続いているとすれば看過できないことであり、宗教をまといながら、反社会的な活動を行うことは許されません。今後当該メディアの取材を受けることは控えたいと思います。フランスの反セクト法の制定過程なども参考に、宗教団体と反社会的団体を区別する基準を法整備も含めて明確にした上で、反社会的団体に対して政治家が支持を表明したり、広告塔に使われたりするようなことがないようにします。国民民主党は調査会を立ち上げて対策を検討します。
A4.ありません。
A5.ありません。
馬場伸幸(維新)
・過去に世界女性連合の会合に地元の方の紹介で数回出席したことはあります。メッセージ等は送っていません。インタビューもありません。
・日本維新の会は特定の宗教団体はもちろん企業・団体献金も全面禁止を求めています。宗教団体などの寄付金に対して所得に対して上限を設ける法案を国会に提出を視野に検討しています。会に提出を視野に検討しています。
(※Q&Aではなく2項目に分けて回答)
古屋圭司(自民)
A1.超党派による憲法のインタビュー企画です。憲法実現本部宛に依頼があり受けました。
A2.世界日報との関係は承知してませんでした。
A3.憲法の取材として受けましたので認識されても困ります。
A4.安保岐阜県大会に祝電を送りました。
A5.最初の選挙で支援ありましたが、それ以降はありません。
細野豪志(自民)
可能な限り、メディアの取材を原則受けています。世界日報が旧統一教会系新聞であることは認識していませんでした。旧統一教会及びその関連団体のイベントに出席したことはなく、選挙で応援を受けたこともありません。
(※Q&Aではなく一括で回答)
このほか、2議員から取材拒否の意向が伝えられた。加藤勝信氏は「今回は回答しない」と国会事務所のスタッフが発言した。山本朋広氏からは「日ごろより、多くの個人、企業や各種団体とおつきあいをしているところであり、様々なご連絡やご案内をいただいております。相手方もあることですのでお答えを差し控えさせていただきます」との文章が送付された。
逢沢一郎氏、江島潔氏、中谷元氏、西銘恒三郎氏、細田博之氏からは回答がなかった。
【注記】自民党本部によると、細田氏は自民党に所属しているが、2021年11月10日の衆院議長就任に伴い、自民党の会派からは離脱している。(2022/09/08 10:20)