若手アニメーターの活動を支援するNPO法人「若年層のアニメ制作者を応援する会(AEYAC)」は2月17日、アニメ作りにおける「制作進行」担当者の労働実態に関する報告書を発表した。
「制作進行」は、アニメーション作品の制作管理を行う職務だ。
「制作進行」は多くの場合、制作に必要な素材が予定通り生産されているか、生産に必要な制作者が確保できているかなどを話数ごとにモニタリング。個々の制作会社や制作者と交渉しながら、作品制作のスケジュールを管理する。
調査は2017年8月、インターネットを通じたアンケート形式で実施。年収、労働時間、残業時間などについて、制作進行の担当者40人から回答を得た。
調査の結果、「制作進行」の年収は「150万円以上〜300万円未満」が全体の70%にのぼった。国税庁の調査(20~24歳の平均給与が253万円、25~29歳では352万円)と比較すると、同年代の平均年収より低い賃金水準だった。
1日あたり平均労働時間は12.4時間。月間の残業時間は「80時間以上〜160時間未満」の回答が半数を占めており、制作進行の労働時間が非常に長時間に及んでいることがわかった。
業務の負担と関連して、今回の調査では、アニメーターとの関係性が、制作進行の働き方に大きな影響を与えていることが示唆された。
自由記述欄では「アニメーター、演出、監督がものをあげない」「連絡がとれない」など、自由回答ではアニメーターへのネガティブな回答が多数みられた。生々しい証言の一部を、以下で紹介する。
「アニメーターがスケジュールを守らない。作品の制作におけるスケジュールが無い」
「上り(作業が終了した素材)が出るとアニメーターに言われ深夜まで待って回収に行くと上りがなく、連絡もつながらず回収できないとき。出す出す詐欺される」
「傍若無人な演出やワガママを言う演出と揉めた時、自分の手に負えない仕事を振られた時(にストレスを感じる)」
「不規則な生活と理不尽な要求、長時間労働と低収入といった心労が尽きない業界故に人一倍のストレス耐性と体力、職業観等を要求される職種だと考えています」
「クソブラック」
「制作期間が短くなっているので、1話数に1人では回しきれない。忙しい時期だけでも2人体制にしないときつい。他人に仕事を引き継ぎやすいようにデータ整理するノウハウも必要」
「デスクやプロデューサー達の様子から、今後もし続けて役職が上がったとしても、どこかで著しく健康を害すのではないかという懸念がある」
「業界の基盤がガタガタ。制作会社、進行が頑張って、クリエイターが我慢しているからいまの状態で作品が作れているけど、本来ものをつくる状態の業界ではない」
「制作本数は増えるくせに人はいない。予算は増えないくせにクオリティは上げろとかいう。制作本数が多いせいでアニメーターが不足しており、クソみたいな原画マンにも頭を下げてお願いすることになる。でも取ってもらえない」
AEYACによると、「アニメーションの制作進行に特化した調査としては初」だという。同団体の秋吉亮理事長はハフポストの取材に対し、「今回の調査結果がこれから制作進行を目指す学生や既に制作進行として働かれている方にとってキャリア形成を考えるための一助となれば幸いです」としている。
■「制作進行」は、アニメーター同様に過酷な業種
「制作進行」は、アニメーション作品の制作管理を行う職務だ。
多くの場合、制作に必要な素材が予定通り生産されているか、生産に必要な制作者が確保できているかなどを話数ごとにモニタリング。個々の制作会社や制作者と交渉しながら、作品制作のスケジュールを管理する。
今回、なぜ「制作進行」に絞った労働調査を実施したのか。
調査を担当したAEYACの松永伸太朗理事はハフポストの取材に対し、「アニメーション産業の労働問題に関する議論では、これまでアニメーターの労働条件に焦点が当たってきたが、同様に過酷な職種として知られる制作進行を主題にした調査はこれまでなされてこなかった」と、調査の意義を語る。
「制作進行の業務が過酷であることは業界内では知られたことだと思いますが、それにも関わらず、その実態を独自に調査してみる試みがなかったからです」
「それに加えて、制作進行の業務は『制作管理』にあるので、制作進行が過酷な労働環境により十全に業務を遂行できないような場合、さまざまな工程にも影響が及ぶことになります」
「このような点で、制作進行について考えてみることはアニメーションに関わる仕事全体を考えることにも関連してくる部分があり、調査する意義は大きいと思います」
「また、制作者とは業務の性質が異なる以上、質問項目等も独自に作る必要がありますので、そうした意味でも今回は制作進行に特化した調査をすることとなりました」
■長時間労働の傾向が明らかに
今回の調査では、どんなことが明らかになったのか。
松永理事は「労働時間、人選や単価に係る権限、キャリア展望」の3点について指摘する。
「労働時間については、回答者の1日あたり平均労働時間が12.4時間と、長時間労働に従事していることが明らかになりました」
「人選や単価に係る権限については、制作進行はアニメーター(特に原画・第二原画・動画)の人選については4分の3以上の回答者が権限を有していましたが、一方で単価に関しては多く(制作進行の担当者)が権限を有していませんでした」
「キャリア展望については、回答者の約半数が制作進行の仕事を今後『続けたくない』と考えていることがわかりました。逆に続けたい回答者は、プロデューサーなどの企画職を目指すキャリアか、監督・演出などの制作職を目指すキャリアの展望を持っていることも明らかになりました」
「労働時間とキャリア展望は、ある程度関係していると思います」
「労働時間については、制作進行が制作管理を行うにあたって多くの制作者との折衝や素材の回収作業をしなければならないこと、制作者の動向に合わせて業務を行うため待機時間が長くなることなどが挙げられます」
「キャリア展望で約半数が『続けたくない』と回答していることは、こうした労働条件の厳しさを反映したものと考えてよいでしょう」
「人選や単価に係る権限にに関しては、アニメーション産業の諸工程の分業体制と関わりますが、制作進行自身も管理される立場にある労働者です。制作進行の上位にはデスクやプロデューサーといった職種が置かれており、そのもとで制作進行は業務を行います」
「現状、制作進行は人選にはある程度関われるものの、単価に関してはより上位の職制で決定されているのだと考えられます」
■「業務を再編できるかどうかが、今後重要」
明らかになった問題点を解決するため、どのような方策が求められるのか。松永理事によると、今後はデジタル化など業務の効率化がキーになるとした上で、「業務を再編できるかどうかが、今後重要になってくる」と語る。
「労働時間の長さに関しては基本的には制作進行の業務の性質から生じてきているだと考えられるので、業務内容が改善できれば時短にも直結するでしょう」
「たとえば、素材のやり取りのデジタル化が進めば回収業務は削減されるでしょうし、人選などが制作進行個人のネットワークに頼らずできるような仕組みが考案されれば人探しをする労力は減るでしょう」
「ですが、こうした業務は制作進行の業務の中核でもあるので、ここに手を加えるとなればより大きな分業体制や管理体制の見直しが迫られるかもしれません」
「また、キャリア展望に関しては少なくとも続けたい方達はプロデューサーや監督・演出などになる希望を有しているので、そうしたキャリアパスのあり方を確保したうえで業務を再編できるかどうかが、今後重要になってくるのではないかと思います」
■「制作進行に特化した質問項目を設定したこと」に意義があった
今回の調査では、回答数が「40」と多くはなかった。「制作進行」という特定業種に絞った調査の難しさについて、松永理事はこう語る。
「今回の回答者数は予想よりも大変少なかったので、今回の調査結果が直ちに制作進行全体の状況を反映したものだと断言するのは難しいかと思います」
「ですが、そもそも制作進行の総数がわかるデータが現状ないので、どれくらい集まると結果が妥当と言えるかも判断できない状況になります。また、本調査の貢献は制作進行に特化した質問項目を設定したことにあります」
「権限や他職種への理解度などがその例です。その質問に基づいて得られたデータは現状では本調査を除いて存在しませんので、回答者が少数でも一定の意義があると考えています」
「今後は、回答者数を増やす努力をして、より信頼性がある調査結果を出していきたいと思います」