秘密保護法とは、そもそも何?なぜ国会は迷走したのか【今さら聞けない】

特定秘密保護法案の審議が、12月6日の臨時国会会期末に大詰めを迎えた。与党は会期を2日間延長して今国会で成立させる構えだが、野党の抵抗も激しさを増している。そもそもどんな法律で、どんな経緯をたどってきたのかをまとめた。
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Taichiro Yoshino

特定秘密保護法案の審議が、12月6日の臨時国会終盤で成立した。与党は野党の反対を押し切って強行採決を重ね、国会審議は紛糾した。そもそもどんな法案で、どんな経緯をたどってきたのかをまとめた。

■どんな法律なのか?

法案は、防衛、外交、スパイ防止、テロ活動防止の4分野で、安全保障に支障を来す恐れのある情報を「特定秘密」に指定することが柱。指定された情報は公開されず、その秘密を漏らした公務員や民間業者らには最長で懲役10年の罰則を設けている。指定期間は一部例外を除き「60年を超えることができない」とした。

■そもそもなぜ必要とされたのか?

直接の契機となったのは、一足先に2013年通常国会で成立し、12月4日に発足した日本版NSCだ。外務、防衛などの「4大臣会合」を中核に、安全保障に関する情報を集約するとしている。産経新聞は外国との情報共有のために秘密保護の枠組みが必要と解説している。

人材育成や人的ネットワークづくりは一朝一夕でできるはずはない。当面は高い情報収集力を持つ米英両国のNSCなどとの情報共有を進めるしかないのが現状だ。

これまで日本の情報保全態勢は国際的に「情報漏洩(ろうえい)への意識が低い」と評価され、情報共有の妨げになってきた。それだけに、野党の一部が現行の国家公務員法(懲役1年以下)や自衛隊法(同5年以下)で漏洩は防げると主張するが、欧米並みの情報保全態勢を整備することが急務だった。

(MSN産経ニュース「【水平垂直】秘密保護法、なぜ必要? NSC運用へ、態勢を整備」より 2013/12/06 09:44)

もともと自民党は秘密保全の法整備に積極的だった。自衛隊員によるソ連への情報漏洩などが問題になった後、1985年に「国家秘密法(スパイ防止法)案」を国会に提出したが、「知る権利を侵す」などの批判が相次ぎ、廃案となった。

国会で再び機運が高まったのは、2010年9月に尖閣諸島付近で起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件が契機だった。海上保安庁職員が船上で撮影した映像をインターネットで公開したことから、民主党政権の仙谷由人官房長官(当時)が、秘密保全法制を「早急に検討する」と積極的な姿勢を示していた。2011年8月に有識者会議が「秘密保全法制を早急に整備すべきである」とする報告書をまとめ、当時の民主党政権が国会提出をめざしていた。

なお、安倍政権は当時のビデオについて、「法案が想定する特定秘密に当たらず、秘匿の必要性はない」との政府見解をまとめたと報じられている

■「知る権利」の侵害

法案の第22条には、以下のような「知る権利」への「配慮」が記されている。

第二十二条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。

2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

(朝日新聞デジタル「特定秘密保護法4党修正案の全文」より 2013/11/27 01:32)

この規定が不十分だとして、日本新聞協会は以下のように反対している。

特定秘密の漏えい、取得を働きかける行為も処罰対象として残されており、報道機関の正当な取材が運用次第では漏えいの「教唆」「そそのかし」と判断され、罪に問われかねないという懸念はなくならない。取材・報道の自由は侵害しないとの明文規定を盛り込むべきだ。

(中略)

政府や行政機関の運用次第で、憲法が保障する取材・報道の自由が制約されかねない。結果として、民主主義の根幹である「国民の知る権利」が損なわれる恐れがある。その点に関して強い危惧を表明する。

(日本新聞協会「『特定秘密の保護に関する法律案』に対する意見書」より)

「知る権利」への侵害は報道機関にとどまらないとの指摘もある。

報道関係者の取材活動や一般市民による情報公開要求も、「共謀、教唆、煽動」とみなして処罰するなど、国民すべてが対象となり、犯罪者とされる危険性をもっています。法案が成立すれば、多くの国民の「知る権利」とプライバシーの権利が侵害される重大な危険にさらされる可能性があります。

(「軍事国家化を推進し、国民の知る権利を侵害する秘密保護法案に反対する決議」より 2013/11/09)

■官による情報の独占

秘密の範囲が際限なく拡大することへの懸念も強い。

行政機関が国民に知られたくない情報を「特定秘密」に指定して、国民の目から隠してしまえるということです。

 

例えば、国民の関心が高い、普天間基地に関する情報や、自衛隊の海外派遣などの軍事・防衛問題は、「防衛」に含まれます。また、今私たちが最も不安に思っている、原子力発電所の安全性や、放射線被ばくの実態・健康への影響などの情報は、「テロリズムの防止」に含まれてしまう可能性があります。これらが、行政機関の都合で「特定秘密」に指定され、主権者である私たち国民の目から隠されてしまうかもしれません。

(日本弁護士連合会「秘密保護法の問題点は?」より)

1972年の沖縄返還を巡る密約問題で、外務省職員から情報を入手したとして逮捕された元毎日新聞記者の西山太吉氏は、以下のように疑問を投げかけた。

米国の公文書公開にあわてた外務省は(密約に署名した)吉野文六・元外務省アメリカ局長に口止めし、1200トンの外交文書を焼却した。機密の処理なんて、外務省は恣意的にどんなことでも処理できる。30年たったら開示するなんて、だれが証明できる。途中で不都合なものは全部破り捨てる。これが自民党政権下における秘密の処理の実態だ。日本の現実としてよく知っておかなければいけないことだ。

(ハフィントンポスト「秘密保護法で『日本の秘密国家は完成』西山太吉さん訴える」より 2013/11/15 20:53)

このほか、特定秘密を取り扱う公務員や民間人に「適性評価」として、外国への渡航歴やローン返済状況、精神疾患の通院歴などを調査することが盛り込まれており、プライバシーの侵害ではないかと批判されている。

■国会はなぜ迷走したのか?

与党の自民・公明両党は、2012年12月の衆院選、2013年7月の参院選で続けて過半数の議席を獲得しており、与党単独でも法案を可決・成立させることができるが、野党から「強行採決」との非難を避けるため、野党の一部と修正協議に応じ、みんなの党、日本維新の会を含めた4党で修正案をまとめた。

修正協議では閣僚らによる秘密指定が妥当なのか、検証できる第三者機関の設置が焦点になったが、「設置を検討」との文言にとどまったことや、秘密の指定期間が実質最長30年から「60年」に後退した。

合意したはずの維新、みんな両党も、合意内容などを巡って党内で反発が強まり、維新は11月26日の衆院本会議の採決を棄権。みんなの党も衆院本会議で賛成したが3人の「造反者」を出したため、分裂を避けたい思惑もあり参院から棄権に回った。「慎重審議」を求める声もあるが、与党は法案を巡る混乱を年明けからの予算案審議に持ち込みたくないため、会期延長を2日と小幅にとどめ、会期内に確実に成立させる方針をとった。