夜中に目が覚めるあなたへ。歴史的に見れば、それは自然なこと

ロジャー・イーカーチ氏が発見したのは、産業革命前の西洋人は夜に2回に分けて睡眠をとっており、その間の時間は起きていた可能性があるということだ。
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Jupiterimages via Getty Images
Woman sleeping in hotel bed

適度な睡眠は心身の健康維持だけでなく、毎日の生活を機能させるためにも必要だ。私たちは、8時間通して睡眠を取ることを健康なライフスタイルの指標と考えているが、その指標だけで「適切な睡眠時間」と言えるのだろうか。

科学者と歴史学者の間で議論になっていることがある。それは、私たちは長時間連続して睡眠をとるような体につくられていないかもしれないということだ。ある歴史学者の研究によると、私たちの先祖は、現代人とはかなり違う方法で睡眠をとっていたようだ。

■産業革命前、西洋人は夜に2回眠っていた?

バージニア工科大学の歴史学者で、「失われた夜の歴史」の著者ロジャー・イーカーチ氏が発見したのは、産業革命前の西洋人は夜に2回に分けて睡眠をとっており、その間の時間は起きていた可能性があるということだ。

イーカーチ氏がそのことに気がついたのは、2001年に彼が16年かかった研究をもとに、論文を発表した時だった。その論文が提示したのは、人々が2度に分けて睡眠をとっていたというものだ。その夜間の2回の眠りの間の起きている時間は、イーカーチ氏によれば「生活リズムの一部」だという。

彼は多くの歴史的文書に「ファースト・スリープ」「セカンド・スリープ」という用語があることに気づいた。その歴史的文書の中には、日記、医療記録、それに法廷文書も含まれていた。これらの報告書により彼が信じるようになったのは、彼が「分割睡眠」あるいは、2相睡眠と称した内容が、かつての毎日の生活中でも共通していたことだ。

「私は継続してファースト・スリープやカンド・スリープの記述に当たりました」と、イーカーチ氏はハフポストUS版に話した。「まず第一に私が驚いたのは、記述はあまりにも何気ない内容だったことでした。他の誰もが知っていることのように語られていました」。

■睡眠の合間に人々は何をしていたのか?

分割睡眠はこのような物だったと考えられている。暗くなって間もなく、だいたい人は午後9時か10時頃に床に就く。夜中付近で目を覚まし、だいたい1時間ほど起床し、夜明け付近でまた寝入る。

「眠りの間の時間は、雑用や日常の作業時間となった。さらに瞑想、内省、性行為そして祈祷などに充てられただろう」と、イーカーチ氏は言った。

「ベッドの中でも外でも、人々は最大1時間程度は起きていたということです。その時間では、思いつく限りのこと全てをしていたということです。ビール醸造などの雑用かもしれないし、隣人から薪を盗んでいたかもしれない」と指摘する。

「寝床から離れない人もいました。彼らは、この起きている間を神聖な時間と捉え、その日に起きた出来事を振り返ったり、瞑想したり、祈祷したりする時間と位置づけました」

医者でさえ彼らの患者に、この時間帯に薬の服用をするよう指示していたほか、女性が妊娠するのに理想的な時間とも考えられるようになった。

しかしながら、社会の産業化が人々の睡眠パターンを変えてしまった。電気的な光の利用によって1日の活動時間を延長できるようになり、各家庭は遅い時間まで起きるようになった。

時計が発明され、人々が農場ではなく工場で働き始めるようになってからは、自然の光に合わせてというより、時間厳守の生活を過ごすことになった。効率ということが生活の中の物事を組織する上での原則になった。睡眠についてもそうだ。

■人間は2回に分けて睡眠をとる方が自然かも?

睡眠学会誌に掲載された論文で、イーカーチ氏は先行研究に疑問を呈した。その研究では、産業革命以前の3つの社会で、1時間の合間を挟んで、おおよそ6.5時間の睡眠をとっていたことがわかった。その研究の著者グループは、分割睡眠は産業化以前のヨーロッパ固有のものだったと結論付けていた。ヨーロッパの冬の夜は長かったからというのが、その理由だ。

しかし、分割睡眠はこの研究が提示するよりも、もっと広い地域で一般的だったとイーカーチ氏は論じた。ヨーロッパのみならず、ラテンアメリカ、中東、そしてオーストラリアを含む地域などである。2相睡眠は全ての文化の特徴にはならないかもしれないが、産業化以前の文化の大半で確かに存在していただろうと想像できるという。

また科学的証拠もある。それは、分割睡眠が人間にとって自然な様式かもしれないという考えを裏付けている。1990年代に実施された実験では、テクノロジーに囲まれない状態になった人間が自由に生活するようになると、人々は好んで分割睡眠をするという結論に至った。

産業革命以前の人々がしていたように、1日14時間暗やみの中で1か月間過ごした後、研究グループのボランティアスタッフは、自然と眠りはじめ、2回に分けてそれぞれおおよそ4時間ずつ眠った。そのシフトの合間に起きて、約1時間から2時間活動した。

産業革命後の時代である今日、人々は睡眠するべき時間に、まだ昼間の時間であると脳をだましている。電気の光や画面から発するブルーライトで、寝なきゃいけない時間に、まだ昼間の時間であると勘違いしてしまっているのだ。

■夜中に目が覚めるのは実は自然なことだった

イーカーチ氏の研究は睡眠学者に広く取り入れられており、不眠症の理解を助けるかもしれない。

歴史学の研究結果が示すのは、なかなか眠りに就けない不眠症とは対照的に、睡眠障害というよりもむしろ、早朝の不定時間に目が覚める早期覚醒不眠症に対する解決策だ。この不眠症の場合には、昼間になっても睡魔が続く傾向にある。

このタイプの不眠症は概日リズムがさらに過敏になっている恐れがあり、光に非常に過敏になっているため、1夜を通した連続睡眠ではなく、むしろ分割睡眠の方がより適しているのかもしれない。

「睡眠維持困難不眠症は、今日最もよくある不眠症のタイプですが、19世紀末期以降になってから、病気であると認定されました」、とイーカーチ氏は話した。「それ以前は、真夜中に目が覚めてしまうことは、まったく自然のことだったのです」。

どのように私たちはこの知恵を活用して、産業化後の現代の中でさらに良質の睡眠をえることができるだろうか。「時間を戻して、産業革命以前の睡眠パターンに戻しても、それはこの質問の答えにはならない。しかし、光への露出を制御することは重要なステップだ」と、イーカーチ氏は話す。

たとえば、電子機器を寝室の中には置かない、就寝時間の少なくても1時間前にはテレビの電源は切っておく、また、ブルーライトを抑えるアプリをスマートフォンにインストールするのも手だ。

もし不眠症で悩んでいたとしても、それは、自分の睡眠パターンが異常ではないということを理解する助けにもなるだろう。寝床で寝返りを打ったり、向きを変えたり、Facebookを見る代わりに、イカーチ氏が薦めるものがある。それは不眠症患者が寝床から出て、寝床に戻りたくなるまで弱い光の下で読書などのリラックスできるようなことをすることだ。

「私が望むのは不眠症患者が、自分の睡眠は正常であると理解することです。少なくても歴史的史観からですが」と、イーカーチ氏は話す。「そういった認識によっていくらか精神的に楽になっていくものと思います」

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。

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