「ふくぎょう」という言葉を耳にしたとき、みなさんの頭に思い浮かぶのはどんな漢字でしょうか?「副業」と「複業」。似ているようで大きく異なるこの2つのうち、後者の「複業」が今回のテーマです。
本業のかたわら、サブ的に別の仕事をする「副業」と違って、「複業」とは「本業としての仕事を複数持つ」こと。
そんな風に仕事をしながら自己実現をしているサイボウズの若手社員4名に、それぞれ「複業」のリアルを語ってもらいました。
「頼まれてはじめた」のか、「自発的に行動を起こしてはじめた」のか?
熱田:さっそくですが、みなさんが複業をはじめたきっかけって、なんだったんですか?
安藤:スポーツ系YouTuberの、DAISUKEさんのきっかけがまず気になります(笑)。
DAISUKE:幼い頃から大学を卒業するまで、ずっと真剣にあるスポーツを続けていたので、社会人になってからも「コーチとして教えてください」と言われることが多かったんですよね。
その様子を見ていた上司が、「俺がプロデュースするから、YouTuberにならない?」って(笑)。
深澤:直属の上司が複業でも仕事のパートナーって、かなりめずらしいパターンですよね。
DAISUKE:そうなんです。なので、自発的に複業をはじめたというよりは、周りからの要望がきっかけでした。
熱田さんとは多分、真逆ですよね。
熱田:そうかもしれません。私は社会人1年目から、みずから行動して複業をしているので。
そもそもそれ自体が稀(まれ)だとは思うんですが......(笑)。
安藤:本当にすごいですよね。その原動力ってどこからきてるんですか?
熱田:そもそもの原体験は、大学生の時の人間関係なんですよ。
DAISUKE:なにそれ、気になります。
熱田:大学生の頃、仲が良かった男の子に「俺よりもお給料高くなっちゃいそうで辛い」という理由で距離を置かれてしまったことがあったんです。
彼の中には、「男性は女性よりも稼がないといけない」というプレッシャーがあったみたいで。私は全然気にしないのに、もどかしく思いました。
そのときに、世の中には男女関わらず「こうあるべき」という呪いに苦しんでいる人たちがいることに気づいたんです。
安藤:うん、うん。
熱田:その経験から、「誰もが自分らしい選択や生き方をできる社会をつくりたい」と思うようになり、企業の働き方に対して問題提起をしているサイボウズで働くことに決めました。
でも、企業の働き方以外にも、社会課題はたくさんあります。自分が理想とする社会を実現するためには1社で働くだけでは足りないことに気づき、複業では育児課題に取り組むWebメディアで、編集やライティングをしています。
「あいつは複業をしている」というイメージが、本格的な複業のきっかけになった
安藤:深澤さんは?
深澤:僕はけっこう現実的な理由からでした。結婚するので結婚式の資金を貯めようと思ったんですが、節約したくなかったから、増やしたいなと思った。
そこでゴールデンウィークにちょうど地元に帰るので、リゾートバイトでもしてみようかなと思ったのが最初でした。
安藤:社会人でリゾートバイトしてる人って、そのとき他にいたんですか?
深澤:いないいない(笑)。でも、結構楽しかったですよ。
それからは、運動不足を解消するためにUberEATS(ウーバーイーツ)で配達員をやったり......。
DAISUKE:めちゃめちゃ合理的ですね(笑)。
深澤:そんな風に過ごしていたら、サイボウズの製品カスタマイズなどの開発をしてくれているパートナー企業さんが、「ウチにもおいでよ」って声をかけてくれて。
今はそのパートナー企業さんにも常駐するという形で複業をしています。
話をいただいたときに直感的に「チャレンジしたい!」と思って、チームメンバーにも相談したり、自分自身のキャリアについて考えた上でやってみると判断をしました。
DAISUKE:なるほど。
安藤さんは、ご自身でお店を経営されていますよね。
安藤:はい。今は、奥さんと高円寺でカレーとビールを楽しむお店をやっています。
もともとスリランカで出逢ったカレーの美味しさに感動して、学生時代からライフワーク的に間借りでカレー屋さん開いていたんだけど、縁があってちゃんとしたお店をオープンすることになりました。
もはや、自分のお店の方がサイボウズの仕事よりも優先度が高くなってきていますね。
熱田:ひとくくりに「複業」とはいえ、きっかけや理由はそれぞれですね。
複業は「単なるオフの日」と似た感覚。複業することで息抜きになっている
深澤:僕は複業をはじめてからのほうが、タスクや時間を調整することをすごく意識するようになったんだけど、みなさんはどうですか?
DAISUKE:たしかに、効率化して短時間で作業を終わらせようという意識が強くなったので、仕事の生産性は上がりましたね。
精神的にも、複業をはじめてからのほうがラクになりました。複業することで息抜きになっているというか。
安藤:それって、単なるオフの日と似た感覚ですよね。
たとえば、休みの日に遠くまで自転車で行って、ビール飲んで、みたいなことを僕はけっこうやっちゃうんですが。体力的には疲れていても、しっかりリフレッシュになっています。
DAISUKE:そうなんです。複業も仕事と考えるなら、プライベートの時間はあまりないんですけど。
会社員としての自分と、YouTuberとしての自分は別なので、仕事のオフがYouTube、YouTubeのオフが仕事、みたいな感じになっています。
熱田:私は、社会人として未熟な部分も多い1年目から複業をしているから、スキルが「1」のままアウトプットしている状態に不安を感じることもあります。
休日の時間を上手く使わないと、インプットの時間がなくなっちゃうんじゃないかって......。
深澤:めっちゃ忙しいと思うんですけど、熱田さんはどんな時間の使いかたをしているんですか?
熱田:基本的に、サイボウズで働いている平日のお昼休みに複業関連のメールを一気に返し、土日のどちらかは複業の作業、どちらかはオフとメリハリをつけています。
複業しているとはいえ、プライベートの時間も大事ですしね。
複業をしようと思ったときに禁止されていたら、会社を辞めていた
DAISUKE:今の働き方って、わりと自由に働けるサイボウズだから実現できているんですかね?
深澤:それはあるかもしれないです。
複業先が本業でもおつきあいのある企業だから、サイボウズで働いていることとの相乗効果もあるんじゃないでしょうか。
熱田:私は、サイボウズじゃない会社でも、複業OKだったら同じようにしていると思います。
DAISUKE:仮に、社内規定で複業が禁止されていたら?
熱田:私は「自分の仕事が理想の社会を創ることに繋がっているか」を重要視しているので、それが社内ですでに達成できているのであれば、複業が禁止されていても問題ないです。
もしそうじゃなかったら、その会社にはそもそも入社しないかも。
安藤:僕は、複業をしようと思ったときに禁止されていたら、会社を辞めてたと思います。
実は店をはじめるときは会社を辞めるつもりだったんですが、サイボウズは仕事にコミットする量を柔軟に決められるので。それなら、どっちも本業としてやればいいやって思ったんですよね。
DAISUKE:僕は、複業している人が周囲にいる環境じゃなかったら、そもそも「複業しよう」という発想にならなかったと思います。
入社したときには複業のことはなんにも考えてなかったので......。会社の風土は大きいなって思いますね。
結局は、自分のやりたいことが実現できているかどうか
安藤:大事なのって結局は、さっき熱田さんが言ったみたいに、「複業ができるかどうか」じゃなくて、「自分のやりたいことができるか」じゃないでしょうか?
深澤:そのとおりだと思います。複業って、無理にすることではないですよね。
結局僕たちは、自分のやりたいことを実現するための一つの選択肢として「複業」を選んでいるだけなんだと思います。
熱田:そうですね。というかそもそも、「複業」の字を使うときって、お金を稼ぐためが第一の目的ではないと思うんです。
会社員としての自分とは別に、やりたいことを実現するための方法ですよね。
DAISUKE:確かに「副業」だと本業の他の収入源というニュアンスがあるけど、「複業」の場合は自分の可能性を広げるっていう"マルチ"の意味合いが強い気がします。
これからは、こっちの複業をする人口が増えそうですね。
>>後編では、4人が考える「複業」と「副業」について、より詳しく話してもらいます!
執筆・山越栞/撮影・橋本直己/企画編集・明石悠佳