うわべだけの「SDGsウォッシュ」にご用心。「ウォッシュ」にならないために必要なこと

SDGsに取り組む企業が増えている。投資家からの評価を高める一方、うわべだけになっていないか、注意が必要だ。

SDGs」という言葉、最近よく聞きませんか?

「持続可能な目標(Sustainable Development Goals)」を表すこの言葉は国連が世界的に呼びかけ、企業も続々と取り組む姿勢をアピールしています。

SDGsでは、環境保護や飢餓対策など17の目標が掲げられていますが、それらの多くはこれまでもずっと世界的な問題として共有されてきました。

「古くて新しい」それらの問題を、国連はなぜ、SDGsという形で打ち出すことにしたのでしょうか。

そして、うわべだけの取り組みをする「SDGsウォッシュ」とは?日本で唯一の持続可能な社会の実現をテーマにした雑誌「alterna(オルタナ)」編集長の森摂(もり・せつ)さんに聞きました。

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雑誌「alterna(オルタナ)」編集長の森摂さん
YUKIKO OGA/HUFFPOST

――SDGsウォッシュとは何でしょうか?

  一見SDGsをやっている「ふり」をすることを「SDGsウォッシュ」といいます。

環境保護の分野で、うわべだけのエコを指した「グリーンウォッシュ」という言葉がありますが、そこから派生したようです。

――SDGsウォッシュの具体的な例はあるでしょうか。

日本で言えば、3メガバンク(三菱東京UFJ、みずほ、三井住友)による石炭火力への融資がまさに「ウォッシュ」だと言えると思います

ここ数年、世界では環境や社会的に不道徳なビジネスから投資を引き揚げる「ダイベストメント」が進んでいます。

最大のターゲットは「石炭火力発電」で、例えばアメリカのロックフェラー財団は2016年、石油メジャー最大手のエクソン・モービルの株式を売却しました。

しかしレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)など国際環境NGO5団体による「化石燃料ファイナンス成績表2019年版」では、日本の3メガバンクに対し次のような記述があります。

「日本の3メガバンクであるMUFG、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)が、国内外の石炭火力発電ブームに油を注いでいる。電源開発(J-POWER)は、国内最大の石炭火力発電所開発事業者で、メガバンク3行から多額の融資を受けている」

 ただ、MUFGは今年5月、「新設の石炭火力発電へのファイナンスは原則として実行しない」と表明し、脱炭素の意思を明確にしました。

みずほも、「石炭火力発電の新規建設を資金使途とする投融資は原則、世界最新鋭である超々臨界圧及び、それ以上の高効率の案件に限定する」と表明しました。

しかしいずれも「現在、進行中の融資案件は除く」としています。

SDGsバッジを胸に付けている金融機関が、石炭火力からの投資撤退に動かないのは矛盾しています。  

 SDGsが登場した背景とは

 ――SDGsはいつごろ登場したのでしょうか。

 2015年は「サステナビリティ元年」と呼ばれています。

SDGsが国連で採択された年です。

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SDGsの17の目標
国連広報センター

しかし、そもそもの背景は、1999年ダボス会議までさかのぼらなければなりません。

当時の国連事務総長であった故コフィ・アナン氏が道筋を作りました。

アナン氏は我々に3つの贈り物をしてくれました。

一つ目が、UNGC(United Nations Global Compact:国連グローバルコンパクト)、

二つ目が、SDGsの前進となったMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)

三つ目がPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)。

順を追って解説します。

アナン氏が国連事務総長に就任した1990年代は、途上国の貧困や貧富の格差、児童労働などの問題が顕在化していました。アナン氏は国連だけではこの問題を解決できないと考え、世界の経営者が集まる世界経済フォーラム(通称ダボス会議)に乗り込んだのです。

ダボス会議での彼の演説の一部を紹介します。

This year, I want to challenge you to join me in taking our relationship to a still higher level. I propose that you, the business leaders gathered in Davos, and we, the United Nations, initiate a global compact of shared values and principles, which will give a human face to the global market.

(今年、私は皆様に、我々の関係性を更に高いレベルに持っていくことを提案させていただきたい。ダボスにお集まりのビジネス界のリーダーの皆様、そして私たち国連で、始めようではありませんか。共通の価値観と原則のグローバルコンパクトを、そして国際市場を「人間の顔」を持つものにしていくことを)

(中略)

Our challenge today is to devise a similar compact on the global scale, to underpin the new global economy. If we succeed in that, we would lay the foundation for an age of global prosperity, comparable to that enjoyed by the industrialized countries in the decades after the Second World War. Specifically, I call on you ― individually through your firms, and collectively through your business associations ― to embrace, support and enact a set of core values in the areas of human rights, labour standards, and environmental practices.

(現代の課題は、世界経済を支えることを目的とした、世界共通の約束を交わすことです。それが成功すれば、第二次世界大戦後の数十年間に先進国が経験したような、繁栄を時代の土台を作ることができます。みなさんには特に――企業として、そして業界として―― 人権、労働基準、そして環境への取り組みの核となる価値観を受け入れ、支持し、実行することを呼びかけています。)

アナン氏はグローバルリーダーたちに人権、労働基準、環境という普遍的な価値観を支持し、企業活動に取り入れるよう呼びかけました。

まさにグローバルコンパクトの始まりを告げる、歴史的なスピーチです。

そして2000年7月UNGC(国連グローバルコンパクト)が発足します。署名する企業・団体は、人権の保護、不当な労働の排除、環境への対応、そして腐敗の防止に関わる10の原則に賛同する企業トップ自らのコミットメントのもとに、その実現に向けて努力を継続していかなければなりません。

グローバルコンパクトの最初の加盟企業の多くは、アナン氏のスピーチを直接または間接的に聞いていたと思われます。

――なぜ企業はグローバルコンパクトに署名したのでしょうか。

それまで石油会社のロイヤル・ダッチ・シェルが、老朽化した石油プラットフォームを海洋投棄しようとしたことに端を発する不買運動や、1997年ナイキの児童労働問題に対する不買運動などが起こってきました。

そのためグローバル企業に対する批判の高まりがあり、国連の枠組みの下で自らも起因となっている「社会課題」に取り組んでいかないと、企業ブランドに対しネガティブな評価が起きかねない、そうなると事業やブランドを存続させることは出来ないという危機感があったと思います。

――SDGsの前身であるMDGsはどのような文脈で登場したのでしょうか。

MDGsは2000年9月、アナン氏が主導して国連で採択されます。

しかしこちらはダボス会議より数年ほど前から準備はしていたと思われます。

MDGsは21世紀の国際社会の開発における共通目標を示したもので、極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つのゴール(目標)を掲げています。

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MDGsの8つの目標。順に①極度の貧困と飢餓の撲滅②初等教育の完全普及の達成③ジェンダー平等推進と女性の地位向上④乳児死亡率の削減⑤妊産婦の健康の改善⑥HIV/エイズ、マラリアその他の疾病の蔓延の防止⑦環境の持続可能性確保⑧開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

MDGsは一定の成果を上げた上で、達成期限である2015年、SDGsという新たな目標が採択されました。ここにサステナブルの大きな潮流が出来たのです。

なぜ今SDGsが注目されるのか

 さて最後のPRI(責任投資原則)について説明するには、最近注目されているESG投資について触れる必要があります。

ESGとは、環境(Enviroment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance:企業統治)のこと。

PRIとは、このESGに配慮した責任投資を行うことを宣言したもので、2006年にこちらもコフィ・アナン氏が金融業界に対して提唱しました。

――PRIという概念はなぜ生まれたのでしょうか。

PRIは投資する側に対するイニシアチブ(提案)です。アナン氏は、世界のビジネスのあり方を変えるには、投資する側の姿勢が変わることが大事と考えていたようです。 

これは同時にサステナブルに配慮した経営を行っている企業に、投資家が投資する動機付けを行ったことを意味します。

 それまでは投資は利益が出る企業に対して行うものでした。

市民や社会が声を上げなければ、企業は動きません。

コフィ・アナン氏は投資の世界に手を付け、株主を動かすことで企業を動かそうとしたのです。

  以上のようにアナン氏の提案は、GCで企業行動を変え、MDGsで各国政府を変え、PRIで投資側を変えるという3点セットだったのです。

――日本でもこのESG投資が最近注目されていますね。

契機は2015年、GPIFがPRIに署名したことです。

GPIFとは何かというと、年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)で、厚生年金と国民年金の運用を行っている日本最大の機関投資家です。

世界の様々な巨大企業の株主となっており、日本でもトヨタや、三菱UFJフィナンシャルグループ、NTTなど大企業の株主となっています。

もはや日本企業の筆頭株主とも言えるような存在が、PRIに署名すると言うことは、日本企業にとってものすごいインパクトだったのです。

――日本の経済界にどのような影響があったのでしょうか。

この署名のすぐ後、トヨタは「環境チャレンジ2050」を打ち出し、2050年までに車のCO2排出量を90%削減することを発表するなど、SDGsへの企業活動は加速していきます。

企業などがSDGsに熱心になり始めた背景には、こうした事情があるのです。

消費者が企業を動かす

――SDGsの考え方は企業だけでなく、社会に浸透しているのでしょうか。

企業活動が環境破壊などにつながっている場合、世界では消費者による不買運動がたびたび起こってきました。

有名なところだと、2010年、アブラヤシから取れるパーム油の調達が、熱帯雨林を破壊しているとして、ネスレの「キットカット」不買運動が起こりました。事態を重くみたネスレは調達先を変更。

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2010年4月15日、スイスのローザンヌで行われたネスレグループの株主総会の会場にて、パーム油問題に関連して環境保護団体が抗議活動を行った様子
FABRICE COFFRINI via Getty Images

 またスポーツブランドのナイキも、90年代に児童労働や強制労働に対して、世界的な不買運動が起こりました。ナイキが失った売上高は、5年間で1.3兆円にのぼると言われています。

日本でも最近は、パワハラを行う企業に対する風当たりが強くなったり、日清カップヌードルのアニメCMで大坂なおみ選手の肌の色が「ホワイトウォッシュ」だと批判され、公開中止になりました。

ブラック企業やジェンダー、人種差別などへの問題意識が高まり、企業が追随せざるを得ない状況になってきました。

ピンチをチャンスに

――企業が「SDGsウォッシュ」にならないためには、何が必要なのでしょうか。

日本の企業は、消費者などから批判を浴びると「貝」のようになりがちです。

しかしそんな時こそだんまりを決め込むのではなく、ピンチをチャンスに変えることは可能と言いたいです。

ヤシノミ洗剤で有名な「サラヤ」は、パーム油問題が騒がれた際、自ら問題意識を持ってあえてテレビの取材を受けたところ、消費者から猛烈な批判にさらされました。

食品業界の方がパーム油の使用量ははるかに多いのですが、一様に取材を断ったのです。

しかしサラヤはそこから環境保全の活動に積極的に取り組み、消費者の信頼を取り戻しました。ヤシノミ洗剤はいまだにロングセラー商品です。

日本には社会的課題が山積しています。

SDGs達成のための取り組みはビジネスチャンスにもつながります。

企業トップはSDGsのバッジをつけているだけでなく、意識を変え、トップとしての責任を果たすべきです。

健康な地球で、みんなが平等に平和に生きる。

2030年に、それを実現するための目標がSDGs(持続可能な開発目標)です。
ハフポスト「はじめてのSDGs 」では、日本をはじめ世界中の問題や取り組みを紹介。

私たちに何ができるんだろう... みんなで一緒に考えてみませんか?