地球温暖化による影響は年々、深刻化しており、それに伴う気象災害が国内外で増加している。企業はいまや、産業や規模を問わず、地球規模の温室効果ガスの排出量削減の動きに参画する必要がある。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の勧告により、世界の平均気温が今後10年間に1.5度以上、上昇しないように取り組まなければならないからだ。(翻訳=梅原洋陽)
しかし、サステナビリティに注目する企業は多いものの、カーボンニュートラルを完全に達成するという目標については、小さな企業の経営者のほとんどが「成し遂げられない」と考えているようだ。背景には、コスト面での懸念がある。しかしカーボンニュートラルに取り組むことは、経営を妨げるものではなくむしろ役に立つものだ。今回は、カーボンニュートラルに積極的に取り組むメリットについて説明する。
カーボンニュートラルな企業を目指すというのは、カーボンフットプリントゼロを達成するということだ。そのためには、有害な温室効果ガスの排出量を「ネットゼロ」(差し引きゼロ)まで削減するための対策を講じる必要がある。自社が排出する量と同じ量の排出量を削減する活動に投資するか、そういう投資と自社での対策の両方を行うかだ。
小規模事業者にとってのメリット
多くの企業が地球環境に対してそれぞれの役割を果たす時代を迎えている。グリーンウォッシュを行う企業もある中で、力を入れて本格的に活動をすれば、他企業との大きな差別化を図ることができる。消費者の目は肥えてきており、これからは、ネットゼロに取り組む企業が消費者を魅了していくだろう。
カーボンニュートラルを目指す場合、初期投資の時点で諦めてしまう企業も多い。例えば、グリーンエネルギーの料金は往々にして割高で、ソーラーパネルや二酸化炭素の排出量を相殺する持続可能な取り組みのためには、大規模な資本投資が必要になる。
しかしながら、それは長期にわたって節約ができないという意味ではない。ソーラーパネルを例にすると、最初に設備費用がかかったとしても毎月の光熱費は減り、余剰分の電力があればその分を売ることもできる。企業は副収入を得ることも可能だ。
企業は電力を切り替える際にコストの削減を行える。Smarter Businessといったコンサルティングサービスを利用すると、電力を供給する企業を比較することができるし、廃棄物を減らしてより効率化する可能性を探ることもできる。それによって、多額のビジネスの支出を抑えることが可能だ。専門家に助けとアドバイスを求めることで、ビジネスをより持続可能にするための最適な方法を見つけられる。こうして市場性が高まり、支出を抑える機会が増えると、ビジネスの収益性が高まる可能性もある。事業活動をはるかに超えるメリットを地球環境にもたらすため、企業にとってカーボンニュートラルへの移行は最大のインセンティブになるかもしれない。
カーボンニュートラルを達成するには
リサイクルするためにゴミ箱を設置したり、使い捨てプラスチックを廃止するといった取り組みは確かに手軽だ。しかし、カーボンニュートラルを達成するには、経営陣によるもっと大規模で戦略的な決断が求められる。それゆえに、この難しい挑戦が小企業のネットゼロへの取り組みの出鼻をくじくことがある。しかし、どんな企業でも手始めに採用できる実用的な取り組みはたくさんある。
1.クリーンエネルギーを選択
クリーンエネルギーとは、太陽光や風力といった再生可能なエネルギー源から供給される電力のことだ。
企業には2つの選択肢がある。クリーンエネルギーを提供する業者に依頼するか、自社にソーラーパネルなどを導入するかだ。
再生可能エネルギーを直接供給しなくても、使用する量と同じ量の再生可能エネルギーを購入したり、太陽光発電や風力発電に投資するなど、持続可能な取り組みを支援する電力会社もある。
2. 無駄を減らし、効率性を高める
小規模でも戦略的な変化によって、排出量を減らし、より効率化させることができる。そうすることで、カーボンフットプリントも大幅に削減できる。
例えば、「夜間に照明を消す」「消費電力の少ない設備に移行する」「空気フィルターを清掃する」といったシンプルな方法を導入することだ。光熱費を節約できるだけでなく、ネットゼロを達成するために相殺する排出量を減らすことができる。そうすれば、このカーボンオフセットのための投資額自体を減らすことにつながるのだ。
3. カーボンオフセット・イニシアティブへの投資
どんなにさまざまな取り組みを行なっていても、二酸化炭素の排出量をどうしてもゼロにできないビジネスもある。このような場合、地球規模で二酸化炭素による影響を減らすイニシアティブに投資することで、排出量を相殺することができる。これによって、企業はネットゼロを達成することが可能になる。
カーボンオフセットについては、ゴールド・スタンダードを筆頭にいくつもの認証基準がある。企業は、信頼できる機関を通して、影響力のある公認のカーボンオフセットのイニシアティブに投資することができるだろう。例えば、森林再生や安全な水の促進、そして、貧しい地域でのクリーン・クッキング(環境や健康に害がある燃料を使った料理方法を改善する活動)などがある。
企業は投資の見返りとして、排出削減量の証明であるカーボンクレジットを受け取れる。これがカーボンオフセットへの貢献度を示す指標となる。このカーボンニュートラルを目指す方法は地球規模でインパクトを与えられる可能性がある。これはどんな小規模企業にとっても大きな成果となる。
カーボンニュートラルを簡単に達成する方法はどこにもないが、目指すだけの価値はある。なぜならそれに伴うコストや試練を乗り越えることで、企業は将来的に成長することができるからだ。企業の規模に関係なく、ネットゼロというとっかかりをなかなか見いだせないような目標に近づくための確かな方法は存在する。
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