各党が公約に掲げる「教育の無償化」は、同時に「教育の質」の改善が不可欠

塾に行かなくても、学校で学力を保証できることは、家庭の経済格差による学力格差を生まないための基本です。

いよいよ始まった衆議院総選挙では、多くの党が「教育の無償化」や「大学生の奨学金拡充」など「教育改革」を公約に掲げています。

もちろん、幼稚園や保育園の費用が無料になることを反対するものではありませんし、大学生が多額の借金を抱えて社会に出て行かなければならない現状を変え、学費の問題から進学をあきらめることのないようにする制度が不可欠なことは当然です。

ですが、例えば幼稚園・保育園の質の向上や、幼稚園と保育園の環境格差の是正などが後回しにされているように思えてならないのです。

幼児教育の無償化で質の向上や格差の是正ができるとは思えませんし、無償化と共にどのよう保育の質の向上を行っていくのか?具体的な道筋が見えてきません。

都心部では、園庭のない保育園が増えています。

スポーツ庁の調査では幼児期によく外遊びをしていた子どもほど、小学校に入ってからも体力があるという傾向があきらかになっています。

(参照:朝日新聞記事 http://www.asahi.com/articles/ASKB646TVKB6UTIL02T.html )

厚労省は、園庭の代替えになる公園等が近くにあればと、園庭のない保育園を認めているものの、子どもたちが主体的に遊べるような外遊びの確保は、園の自己責任のような状況になっています。

また、幼稚園・保育園等の環境格差は園庭だけでありません。例えば、幼稚園は幼稚園施設整備指針で、障害のある子が「落着き取り戻すことができるよう小規模な空間」を設けることや、子育て支援の拠点として「保護者との個別相談に対応でき、プライバシーを守ることができる小部屋を計画する」ことの有効性を示唆していますが、保育園にはそうした指針はありません。園運営事業者や保育士等が必要性を認識していれば面談室やクールダウンの部屋が設けられますが、認識がなければ考慮すらされません。

文京区では、現在、保育園・幼稚園の建て替え計画が進んでいますが、現状の設計では、保育園の面談室やクールダウンの部屋は見当たりません。幼稚園と同様に子育て支援の拠点としての機能が求められる保育園に必要ないという理由は、どこにもありません。

待機児童問題や子どもの貧困問題等から、どうしても「機会の拡充=量の拡大」に目が行きがちですが、そもそもの目的は「教育の拡充」と考えれば、「質の改善・向上」とセットで進めなければ将来を誤ることになりかねません。今回の選挙では、ぜひそのあたりにもご注目いただきたいと思います。

教育における「質の向上」のひとつとして、「小学校の少人数学級の実現」にも言及しておきたいと思います。

文科省は、学校は小学校1年生の35人学級を除き、未だに40人学級を学級編成基準にしています。都道府県によっては学級編成基準を30人以下にする等、弾力的に設定しているところもあります。つまり実態は、子どもの学びの環境を本気で整備するかどうかという「自治体のやる気」にかかっています。

東京都は、小1の35人学級に加え、小2と中1に35人学級を実施しているものの、校長会からは、分数が入ってきたり勉強も難しくなったりしていく「小3の壁」があるとも言われる小学校3年生にも35人学級を広げる要望が毎年出されていますが、実現の兆しは全く見えません。子どもたちの実態をよく知る学校現場からの声になぜ答えないのか疑問を持ちます。

(参照:学級編制の仕組みと運用について(義務) https://goo.gl/NmKYGi )

フランスでは、マクロン大統領が大統領選で、教育水準を高める目的で一学級の人数を25人から最小で12人に縮小する少人数学級制度を公約の目玉の一つに掲げ、この9月にその制度がスタートしています。

日本も、平成23年度には、30年までの8ヵ年計画で小学1年生から中学3年生まですべの学年で「新学習指導要領の円滑な実施や教員が子どもと向き合う時間の確保による質の高い教育を実現するため、35・30人学級の実現」を目指し、少人数学級を推進するための教員確保の経費を予算に繰り込んでいました。

(参照:平成25年度概算要求資料 https://goo.gl/Co6n5e )

[教職員定数改善の必要性]

○ 教育は、一人一人の自己実現を可能にするとともに、今後の社会全体の一層の発展を実現するための基盤である。教育の充実により、社会を生き抜く力の養成や、未来への飛躍を実現する人材の養成などに取り組むことが必要である。

○ 学校がこのような社会的な期待に応え、学習指導、生徒指導に関する様々な課題に対応していくためには、地域・家庭との連携促進を含め、学校において教員が子どもたち一人一人に正面からしっかりと向き合い、行き届いた質の高い授業、生徒指導等を行うための教職員体制の整備が急務となっている。

(参照:文科省「少人数学級の推進など 計画的な教職員定数の改善について」~子どもと正面から向き合う教職員体制の整備~ P16-17 https://goo.gl/MZDDz3 )

ところが、残念なことに、文科省概算要求からは平成27年度以降、少人数学級の推進という文字は消えています。

ちなみに、内閣の変遷との関係を見てみると・・・

民主党政権、最後の平成25年度の予算要望と、自民党政権に変わったばかりの平成26年度の予算要望までは記載されていましたが、翌27年度から消えてしまいました。

学校は子どもの貧困対策としても、プラットフォームとしての役割が求められています。

子ども一人ひとりに向き合い、個々に応じてできること好きなことをよりできるように、できないことわからないこと苦手なことには手立てをもって教材を工夫し、授業を組み立てていく。

塾に行かなくても、学校で学力を保証できることは、家庭の経済格差による学力格差を生まないための基本です。

それには、丁寧に一人ひとりの子どもの気持ちに寄り添うために、教員一人が向き合う子どもの数を少なくすることが絶対条件です。

OECD加盟国の中で最も労働時間が長いのと裏腹に授業時間が少ないとされている日本の教員の実情を考えれば、先生方が気の毒だと感じる面もありますが、本質的に犠牲になっているのは子どもたちです。

教職員定数を増やし、少人数学級を実現することは、教職員の働き方改革に寄与するだけでなく、本来主役であるはずの子ども一人ひとりに対する「教育の質」の改善・向上のためにこそ、やらなくてはならない改革だと確信しています。