児童養護施設退所者支援の給付型奨学金に5カ月で1359万円

「児童福祉というのは、終わる福祉なんです」
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Tama River, Futakotamagawa
Atsushi Yamada via Getty Images
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「児童福祉というのは、終わる福祉なんです」

児童養護施設の現場を預かってきた施設長が言った言葉が耳に残っています。高齢者福祉も、障害者福祉も支援を始めたら多くは中断というケースは少ない。ところが、児童福祉だけは18歳で高校卒業したとたんに「終わる」ことになっていることを指しています。

18歳の春、児童養護施設や里親のもとを離れ社会にはばたく若者たちに、国の支援は驚くほど薄く、施設を出る時に国から、ただ一度だけ、生活支援費として8万1260円と保護者の養育・支援がない場合に19万4930円、計27万6190円が支払われるだけです。

高校生の時からアルバイトを重ねて、アパートを借りる資金を貯めて一人暮らしの準備をします。また、大学や専門学校に進学しようとすると、生活費や入学金や授業料を調達しなければならず、ハードルが高いのが現実です。バイト先や進学に比較的に恵まれているはずの世田谷区内の児童養護施設でも、大学・専門学校の進学率は3割程度、しかしながら進学しても中退してしまう子がそのうち7割というのが現状です。

そこで、世田谷区では「せたがや若者フェアスタート」という支援事業を、今年度(2016年)から開始しました。第一の柱は「住宅支援」です。

児童養護施設を出る「18歳の春」を孤立させない住宅支援を開始

世田谷区内で、児童養護施設を退所した若者たちに向けて、高齢者用区営住宅の空室(旧管理人室)を5ヶ所、月額1万円程度の低廉な家賃で提供する住宅支援を開始することを決めました。 (2015年9月29日)

「月1万円程度の低廉な家賃」とすることで、生活基盤にいくらかのゆとりが生まれます。その上で、第二の柱として「大学・専門学校進学時に給付型奨学金制度」を創設しました。

児童養護施設からの進学時に「基金で給付型奨学金」を創設へ

世田谷区の児童養護施設や里親のもとを巣立つ若者たちが、大学・専門学校に進学する場合に利用できる「月額3万円の給付型奨学金」をスタートさせる準備が整いました。「貸与型」と違い、「給付型」は返済の必要がありません。(2016年2月2日)

給付型奨学金の財源は、区の一般会計から5000万円の基金を拠出してつくりました。しかし、支援対象の若者が増えることで、時間の経過と共に底をつくのではないかという心配もありました。そこで、「世田谷区児童養護施設退所者奨学基金」を創設し、幅広く寄付をつのることにしました。

「児童養護施設を巣立つ若者への奨学基金」の募金を始めます

日本の社会が、長いこと注視せずに具体策を持たなかったのが、児童養護施設を巣立つ若者たちの進路を広げ、フェアなスタートラインを築くことでした。いよいよ、「住宅支援」「居場所支援」「給付型奨学金」をセットにして始まります。まずは小さく細い流れであっても、後に太く力強い流れとなるように、皆さんのご参加をお待ちしています。 (2016年4月1日)

こうして、「基金」への募金が始まったことを「区のお知らせ」や記者会見で紹介したところ、幸いにしてテレビや新聞で多く取り上げてもらいました。その結果、世田谷区の内外の178人の個人、8の法人から計1359万6545円(2016年9月9日現在)の寄付をいただきました。給付型奨学金の対象となったのは、初年度は11人で、総額372万円でしたから、想定していたよりもずっと多い反響がありました。当初の区の拠出金を取り崩すことなく来年度にも継続して支援が続けられる基盤ができました。また、第三の柱として地域の人たちと若者たちが集うことのできる「居場所支援」も盛り込みました。

取り組みが広がったのは、心ある協力者、団体の応援があってのことですが、とりわけ大きな役割を果たしたのが、公益社団法人東京青年会議所世田谷区委員会です。JCの皆さんは、「児童養護施設支援」を活動テーマとして、過去3年間にわたって世田谷区内の児童養護施設・福音寮に通い、多摩川で行われるイカダレースに出場するイカダを子どもたちと制作して応援したり、子どもたちと向き合ってきました。

そして、児童養護施設支援を通して「夢をかなえる力」という事業をつくりあげていきました。「一般の家庭で養育されている子どもたちと同等の安定的な生活基盤を築き、若者に対して地域の大人による精神的な支援をつくろう」と考えたそうです。そして、子どもたちと継続的に関わって、企業の職場体験や就業機会をつくったり、行政とタイアップして住環境のサポートや雇用支援を進め、支援の輪を広げようと活動を続けました。

区長である私にとっても大きな気づきになった場が、JCが活動報告と課題認識を深めるために開催するシンポジウム「夢をかなえる力」でした。児童養護施設出身の社会人から、また施設長から、現場での話を聞くうちに、次第に「児童養護施設退所者の迎える18歳の春」に具体的な政策が打てないものかと、たくさんのヒントをもらったのです。

JC世田谷区委員会の西宮英彦委員長は、4年目を迎えた「夢をかなえる力」の事業を次のように語ります。

「私たちは、児童養護施設を巣立った若者たちの精神的孤立に対して、自分たち民間として何ができるかを考えました。商店街での就業体験や、アルバイトを通した継続的な支援の仕組みの導入を行なうとともに、地域団体や地域の大人による支援参加の促進を目的として一年間活動をしてきました」

そして、2016年9月24日(土)午後1時から3時 北沢タウンホールにて、「第4回夢をかなえる力シンポジウム『地域でつながる子ども達の未来』 」が開催されます。

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「シンポジウムでは、児童養護施設を巣立った若者が抱える経済的困窮や精神的孤立の問題を改めて発信すると共に、民間である地域団体や地域の大人にどのような支援が可能なのかを考えます。そして、行政、地域団体そして地域の大人達が一体となって、児童養護施設を巣立った若者を支援する「世田谷モデル」を、全国に発信していきたい」(西宮英彦委員長)

行政に対して提案をしていくという姿勢は、素晴らしいと思います。世田谷区では若者支援担当課を創設して、「せたがやフェアスタート」事業を開始しました。参考→「児童養護施設出身者」への支援策は、「若者支援担当課」から生まれた

小さな試みも、やがて大きな力となって、これまで「児童養護施設退所者支援」に感度の鈍かった社会を変えようとしています。これから、継続的ないっそうのご協力と、シンポジウムへの参加をお待ちしています。

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