ドナルド・トランプ大統領の移民政策に関する大統領令は、大きな反発に直面している。司法の判断に委ねれば、憲法違反で差し止めになる可能性もある。
トランプ大統領が1月25日、国土安全保障省を訪問した時、ロサンゼルスや、ニューヨーク、サンフランシスコなど不法移民を保護する「サンクチュアリ・シティ(聖域都市)」に対し連邦資金を交付せず、速やかに不法移民を拘束し国外退去させるよう求める大統領令に署名した。
「これを実施する憲法上の権限を、大統領本人が有しているのかさえ疑わしい」と、移民研究の専門家や人権擁護団体は指摘するが、いずれにしてもこの大統領令は、既存の移民法に沿った形式にしている。
この大統領令の法的効力にかかわらず、サンクチュアリ・シティ出身の政治家たちは「意見を変えるつもりはないと述べており、司法専門家たちによる権利擁護団体は、来たるべき法廷闘争に備えている。
「大統領は異常な闘いに直面しようとしている」と、サンフランシスコ選出でカリフォルニア州議会上院のスコット・ウィーナー議員(民主党)は語った。
ボストンのマーティ・ウォルシュ市長(民主党)は、「不法移民の拘束に反対する市の方針から1インチも後退するつもりはない。この方針の下では移民税関捜査局(ICE)からの要請に基づく拘束はできない」と語った。
ボストンのマーティ・ウォルシュ市長
シアトルのエド・マレー市長(民主党)は、「シアトル市が、この権威主義的な命令に怯むことはないだろう」と述べた。
シアトルのエド・マレー市長
サンフランシスコのエド・リー市長(民主党)は、サンフランシスコは「何も変わらない」と述べ、大統領令は具体性に欠ける、と批判した。
エド・リー市長
ニューヨークのビル・デブラシオ市長(民主党)は25日の会見で、「私たちは、この大統領令と争うつもりだ。そしてアメリカ中の都市や州が、これと争うことになる」と述べた。
ニューヨークのビル・デブラシオ市長
ニューヨーク州のエリック・シュナイダーマン司法長官(民主党)はすでに、法的な異議申し立てを示唆している。「この大統領令は、憲法上の権限がない。大統領がこれを撤回しなければ、強制できると思い込んだ自分の権力を行使し、何でもし放題になるだろう」という声明を発表した。
ワシントン州のボブ・ファーガソン司法長官(民主党)も、法的な異議申し立てを起こす可能性を示唆した。「法律上重大な問題を引き起こしている。我が州の人々の憲法が保障する権利と人権を守るために、ニューヨーク司法長官室で詳細に調査するつもりだ」との声明を出した。
「サンクチュアリ・シティ」という用語には、正確な定義はない。サンフランシスコやニューヨークのような都市が、移民に寛大な政策を実施することを例えて、この用語を幅広く使っている。より一般的な意味として、この用語は移民税関捜査局 (ICE)の協力要請の全てを、すぐに履行しない都市や国家に適用されるものだ。このような地方自治体の多くが 、重大な犯罪者と疑われる、あるいは有罪判決を受けた移民を拘束し引き渡すためにICEと連携しているが、移民を拘束しておく理由が他にない場合、ICEが要求する優先順位の低い移民を釈放することが多い。
「地方自治体の法執行機関が拘束を引き受けない理由は、最高裁の判断として、不法移民の拘束・取り締まりは連邦政府の管轄であり、地方自治体が拘束するのは憲法違反となるからだ。そして憲法に違反した場合、地元自治体は連邦政府からの支出が受けられなくなり、財政的に追い込まれる」と、刑法と移民問題を研究するデンバー大学法学部のガルシア・エルナンデス教授は語った。
ロードアイランドの連邦裁判所は27日、他の連邦裁の判断にならい、ICEによる拘束は、たとえアメリカの市民権を持っている人でも憲法に保障された人権を侵害するという判断を下した。
しかしトランプ大統領の大統領令は、こうした司法の現実を見ていない。その代わり大統領選で不法移民の問題を大げさに煽り、サンクチュアリ・シティに責任を押し付けているように見える。
トランプ大統領は25日、複数の大統領令に署名した。この中には、「サンクチュアリ・シティ」に不法移民の国外退去を矯正する大統領令も含まれていた。
「アメリカ国内にあるサンクチュアリ・シティの司法権は、アメリカから外国人を排斥しようとしている連邦法を意図的に侵害している」と大統領令は宣言している。「このような司法権は、アメリカ国民と、我が連邦国家の仕組みに、計り知れない損害を引き起こしている」
メキシコ系アメリカ人法的擁護・教育基金のトーマス・A・サンス代表は、この大統領令が署名されても、トランプ大統領には、本人が主張しているようなサンクチュアリ・シティを取り締る権限は与えられない、と語った。
「これはでたらめな大統領令ですが、極めて危険な大統領令ではありません」と、サンス代表はハフィントンポストUS版に語った。「これは自治体への脅しを狙ったものでしょう」
「ICEの指示でサンクチュアリ・シティが司法権を行使して移民を拘束するには、議会で新しい法案を通過させる必要がある。しかし2016年に、議会は類似した法案をすでに否決している」と移民の権利の専門家で、アメリカ自由人権協会のセシリア・ウォン副法務部長は語った。
「連邦政府、具体的に言えば大統領が、在留資格に関係なく憲法で保障された権利を守り、サービスをしてきた州や地方自治体を脅迫しようとしているのです」と、ウォン氏は批判した。
「それとは違うことをやっているんだとトランプ大統領本人が思っているのかどうかはわかりませんが」と、サンス代表は語った。もしも政府が実際に、あるいは意図して、既存の法律の範疇を越えるのであれば、大統領としての自分の権限の範疇を越えることになります。これは深刻な問題です」
これまでも、法律的なねじれが生まれて憲法上の問題が起きた事例がある。2012年6月28日、最高裁は医療保険制度改革法(オバマケア)を合憲とする判断を下した。しかし最高裁は同時に、連邦政府がメディケイド(州政府運営の低所得者層を対象とした健康保険)プログラムの拡充を拒否した州に補助金を交付をしていないと強く非難した。ジョン・ロバーツ最高裁主席判事は判決で、「議会は州の頭に銃を突きつけることはできない」と言及している。
ウォン副法務部長はこの言葉をそのまま繰り返し、どんな結果がサンクチュアリ・シティに訪れるのか見守っていると語った。「トランプ大統領は彼らの頭に銃を突き付けて、自分の優先事項に従うことを強制しているのです」
サンフランシスコ市のエド・リー市長は、サンフランシスコ市の移民政策を支持すると誓っている。
移民が人口のおおよそ3分の1を占めるカリフォルニア州は、法廷での異議申し立てを待たず、独自に対処する意向だ。
ケビン・デ・レオン州上院議長代行は25日の会見で、カリフォルニア州議会は大統領令に対応し、地元の法執行機関は移民法を執行するために人的資源を割かない法案などを迅速に通過させると述べた。
「今回の大統領令は、税金を支払い、我が国の経済と我々の生活に貢献している数百万人の移民の心の中に恐怖心のみを植え付ける、悪意に満ちた卑劣な命令だ」と、レオン州上院議長代行は語った。「私たちは大統領令のの履行に、一切関与しない。私たちは大統領令に、1セントたりとも支出しないし、労力を使うつもりは一切ない」
州議会はトランプ大統領に対抗するため、すでに先制攻撃の措置を講じている。12月に州の上院と議会は2016年12月、数百万人の不法移民を強制送還する公約を破棄するようトランプ氏に要求する決議案を通過させた。州議会はまた、強制送還に直面している人々への法的な援助基金を設立する法案と、移民法に基づく合法的な労働者を教育する訓練所をつくる法案も検討している。
「トランプ大統領が、こうした大統領令でアメリカがさらに安全になると考えているのは残念なことだ」と、州議会のアンソニー・レンドン広報官は声明で語った。
「今日は我が国にとって恥ずべき日だが、ホワイトハウスから生まれた驚くべき偏見と憎しみに立ち向かう決意を新たにするのみだ」と、サンフランシスコ選出のウィーナー州上院議員は語った。「もしトランプ大統領が、1秒間で紙切れ一枚に署名しただけでサンフランシスコ市やカリフォルニア州が移民を保護する政策が変わると信じているなら、彼は私たちの強さと精神力を過小評価している」
カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は施政方針演説で、移民の貢献を称賛し、トランプ大統領の政策を非難した。
「移民は私たちの州、そして私たちが目指す州のあり方を考える時に必要不可欠な存在だ」と、ブラウン知事は語った。「はっきりと言わせてもらう。私たちは男性も女性も全員、より良好な生活を求めてここにやって来て州の幸せに貢献しているあらゆる人々を守るつもりだ」
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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