ゲイライターとして活躍するサムソン高橋さん。もともとはゲイの中でも、太った中高年を性的な対象とする「フケデブ専」をターゲットにした『サムソン』の編集者だった。
ニッチなジャンルと向き合ってきたサムソンさんだからこそ、マイノリティの中のマイノリティの存在を気にかけている。
「きれいごと」ではないLGBTなど性的マイノリティの議論に一石も投じてきた。前編に続き、インタビューの詳細をお届けする。
キャプ:サムソン高橋さん
■マイノリティの中のマイノリティだった“フケデブ専”の目線
――現在、LGBTはちょっとしたムーブメントになっています。おしゃれな人やイケメンの当事者が出てきて、偏見を取り除くためパレードに参加したり、政治に働きかけて法律を変えようとしたりしています。こうした「シャイニー(リア充的)」なゲイが担ぎ出されている一方、そうじゃないゲイには光が当たらないという指摘をされていますね。
まず、あたしはもともと「フケデブ専」というところから始まってるんですけど……。
−−はあ……? フケデブ専というと、太った中高年に性的に魅かれるという意味ですよね?
小学生くらいの時に自覚して、オジサンとかデブの人なんかモテないだろうから将来的にオジサンやデブのホモをあたしが独り占めすることになるのかなって。ポジティブシンキングも良いとこだったんだけど。
フケとかデブっていうのは今でこそ割とね、ゲイの世界ではでかい顔してるんですけど、80年代から90年くらいまでは本当にマイナーな扱いで。
わりとゲイ全体からは卑下される感じだったんですね。80年代、90年代前半くらいは。社会全体に対してゲイがマイノリティである以上に、さらに、そのゲイの中でもマイノリティだったんです。
だから最初の出発点からして私はLGBTコミュニティに対してもひねくれた考えしか持つことが出来なかったんですよ。
−−そもそも『サムソン』の編集部はどうして入ったのですか。
エッセイの投稿だったんです。90年代にあった女性誌発のゲイブームで、ゲイがおしゃれでかっこいいみたいな風潮があったんだけど、それについて「しゃらくせえ」みたいな、ことを書いた。スタンスはずっとブレてないのよ。
屋上でのガーデニングが趣味。たくさんの鉢植えが並ぶ。
■ハッテン場以外のゲイの世界には溶け込めなかった
――ご出身は鳥取で、おそらく周囲にゲイの情報っていうのはないわけですよね。
ないんですけど、ゲイっていうのが世の中にいるっていうのはなんとなく分かってて。駅前に鳥取市で一番でかい本屋さんがあって、そこに一冊だけ『薔薇族』があったんですけど、もちろん買うことはできずに、主に三島由紀夫と橋本治で情報を得ていた感じです。
ほんのりと『薔薇族』っていう雑誌が存在する、ゲイシーンっていうのがあるっていうのが高校生くらいになると分かってきた。
で、早く大学に行ってゲイ活動して太ったオジサンを独り占めしようという野望に燃えてました。
−−実際、大学に入ってどうでしたか?
それまで、自分が世の中に溶け込めないのは、ゲイだからだと思っていました。ゲイ界にデビューしたらそういう内面的な面倒も雲散霧消するもんだと思ってたんですよ。
そしたら意外とそれ以前の根本的な問題なんだっていうことに気づきました。「ゲイの世界でも溶け込めないじゃん」って。大阪の大学に入って、最初に行ったゲイバーで1時間放置とかくらいましたからね。
――ゲイバーってお店によっては常連以外、相手にしないような接客しますもんね。
けっこうめんどくさいんですよ。それをなぎ倒せるのはルックスがいい子か、ほんとに性格よくてコミュニケーション上手な人かどっちかなんですけど、いかんせんどっちでもなかったんで。
――はじめて行った大阪のゲイバーで疎外感を味わった。
てか、一番、最初に行ったのはね、東梅田ローズ(大阪市内にあるゲイ映画専門の映画館)っていうのがその頃ありまして……。
――ああ、映画館。
数年前に閉館しちゃいましたけどね。ゲイが集まる映画館ですよ。18歳の子にはね、ゲイサウナとかゲイバーは入りにくい。で、まず映画館に行った。
――昭和のゲイには映画館がゲイデビューっていう人は多いですよね。
その後のゲイバーデビューで挫折して、文通欄でもうまくいかず、自分にはハッテン場(映画館や公園などゲイが出会いを求める場所)に行くしかなかったんです。
サムソンさんの自宅屋上にあるにぎやかなカラーリングのベンチもDIY。「夏はここでビールを飲みたい」
■真っ白なLGBTムーブメントの人たちだけで進んで行くのは不健全
――最初ゲイの世界に溶け込めなかったサムソンさんはそこから這い上がったけど、挫けちゃう人もいるわけですよね。
いや、今も挫け中ですよ。いまだにゲイバーは馴染めないし、ハッテン場だけだったんですよね、受け入れてくれたのは。誰と会話をしなくても存在できるのはそこだけだったんで。
――そういう意味ではハッテン場によって救われてる人もいっぱいいるという。
いるでしょ! いっぱいいるでしょ! ゲイアプリでメッセージやりとりしてもうまくいかないって人いっぱいいるし、アタシも実際に会うところまでいけた人なんて、今まで2、3人しかいないですからね。ハッテン場がなくて生きられる人なんて、すごいコミュニケーション上手か、すごいイケメンかのどっちかですよ。
――LGBTムーブメントの枠組みの中では語られない部分ですよね。でもそこで救われる人もいる。
LGBTライツ(権利)みたいなことを言う、シャイニーで「真っ白な人たち」だけで進んでいくのは良くないと思うんですよ。振り幅がないと。アタシみたいに泥水とかゼニゴケのような存在もいないとね。どっちかだけになるのは不健全。東梅田ローズも必要だよ、と。
――「モテないゲイに光を」みたいな発想っていうのは、弱者への眼差しがベースにあるのでしょうか。
目線というより、自分も弱者だと思ってまして。アラフィフなのに時給1000円でバイトしてますし、貯金額も非常に少ないですし、男もいないですし。労働者ですよ。プロレタリアートですよ。蟹工船ですよ。
■どんなジャンルのゲイでも、緩く人様の目に付いて可視化される方がいい
――LGBTのブームで職場や学校で「カミングアウトする」人も多くなりましたが、まだまだ差はありますね。
確かに今、LGBTの雇用とか差別しないようにとか言ってるのはみんな大企業ですよね。ホワイトカラーの。まあ、そういったところからだんだんと変わっていくしかないんじゃないのかしらと。長い道のりだと。
だから、その一環で、どんなジャンルのゲイでも緩く人様の目に付く方がいいかなと思って。そういう安易な考えで『ダラケ!』と『クレイジージャーニー』などのテレビ番組に出てしまいました!
「本当はね、私は悪口言えない子なんですよ。人に対して怒ったりとか悪口とか全然言えない子で。文章で叩くのは出来るんですけど、実際に会うとね、“よろしくお願いします”みたいな感じになっちゃう子なんで、はい、もう、ぜんぜんダメですよ」
■一軒家を衝動買いしたワケ
――以前、お話を伺ったとき、「独身の方が寿命は短い」というお話をされていましたね。
そうなのよ。ホモって早く死ぬなって思って。なんでかなって考えて、ノンケでも既婚者と独身者では10歳くらい平均寿命が違うのかな。家族ってのは生命維持装置として大きいんだなと思って。
そしたら同性愛者にもそういう権利を与えるべきと思いますよね。個人的にはたぶんその恩恵にあずかることはないんで、まあ、基本的にはどうでもいいんですが。そしたら同性愛者にもそういう(同性婚などの)権利を与えるべきと思いますよね。
――ところで家を買われたとか。
衝動買いです。前に20年住んでたのは18平米の1Kで、引っ越したいなと思ってて、ある日、都内なのに3階建60平米800万円ていう物件広告を見つけまして。まあ、うっかり買っちゃって。
でもまあね、実を言うと仲のいいトランスジェンダーのお友達と住もうかって話があるんです。その子が「恋愛とか無理だから偽装結婚がしたい」なんて言ってるから「じゃあ(今の家で壊れている)風呂直してくれたら住んでいいよ」って言ったらけっこう乗り気なの。一緒に暮らせるかどうか試しに何度か泊まりに来てます。
■世の中は揺れ戻しがありながらも、全体的には良くなって行く
――やっぱりルームシェアとか、擬似家族みたいなのを作るって感じですか。
いやそこまでじゃなくて、風呂直るんならいいかなって。
――でも、ちょっと家族的なものがほしい、みたいな面はないんですか?
どうかねえ、そのへんは……。そうか、そうなのかなあ。まあ、でも一人で寂しいってことはないですけどね。
誰か他の人がいると生活が成り立つってことはあるよね。ご飯を食べた後にすぐ食器を洗うとか、家事がちゃっちゃと進むんですよ。掃除も、人が来ないとしないんだけど、誰かが来るとなるとキレイにする。
――さきほどおっしゃっていた家族が生命維持装置だっていう話と繋がってきますよね。
そうですね。だから同性婚も実現してほしいですよね。基本的に私は、世の中って揺れ戻しがありながらも、全体的には良くなって行くっていう考えなんですよ。アメリカもトランプ政権が誕生したり、今揺れ戻しがきてるけど、将来的にはよくなる方向だろうなと。単純にヨーロッパの中世とか日本の室町時代とか今よりもっと治安悪かったでしょっていう。世の中は良くなって行ってるんですよ。
――たしかに! トランプが当選した時にオバマが、国が進んで行く道はジグザグなんだって言ってましたね。
そうそうそう、だから、だいたいオバマと一緒なのよアタシ!
※前編「『番組炎上の舞台裏と成宮くんアウティング』の真意とは LGBT界のヒール役、サムソン高橋さんが語る」はこちら。
サムソン高橋(さむそん・たかはし)
ゲイライター。ゲイ雑誌『SAMSON』編集部を経てフリーに。『G-men』などのゲイ雑誌で連載。LGBTメディアサイト「Letibee LIFE」でも毒のあるコラムで人気を博す。著書に『世界一周ホモのたび』シリーズ(ぶんか社)などがある。
(聞き手・文:宇田川しい)
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