望む相手と家族になるために必要な制度である結婚。
世界28の国や地域で、すでに同性同士での結婚はできるようになっているものの、日本で結婚は異性間に限られている。
2019年には、日本弁護士連合会が「同性婚ができないのは重大な人権侵害」という意見書を提出したが、1年半たった今でも状況は改善されていない。
平等な婚姻を実現するために必要なのは、国会議員による法整備だ。
1日も早く法整備をしてほしい――同性婚を求める院内集会が11月19日、衆議院第1議員会館で開かれた。
2019年に続き2回目となる院内集会に参加したのは、国会議員や「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告や弁護士らだ。
YouTubeでも配信され2万7000人を超える人たちが視聴した院内集会で、当事者たちが国会議員に訴えたこととは。
「手をつないで歩くと、友人からも避けられることがあった」
同性婚の実現を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟は現在、札幌・東京、名古屋、大阪、九州の5つの裁判所で進んでいる。
熊本でパートナーのゆうたさんと暮らしている九州原告のこうぞうさんは、2000年代初めにゆうたさんと手をつないで歩いていた時のエピソードを次のように振り返った。
「当時19歳だった僕は、理解のある友人のおかげで、自分が同性愛者であることについて自己肯定もできており、仲の良い友人にはすでにカミングアウトをしていました。
ゆうたも友人にカミングアウトをしていて、ふたりとも当時としては地方都市では珍しく、比較的オープンな同性愛者でした。
関係をオープンにしていたので、よくふたりで手をつないで街を歩きました。
しかし、街で手をつなぐ異性のカップルはたくさんいるのに、男同士では珍しいようで、異性のカップルに向けられる視線とは違うものを多く感じました。
好きな人と手を繋いで歩く時間は楽しいものですが、常に何かあれば身を呈して守らなきゃと強く意識していました。
今でこそ僕がオープンに生きていてもそこまで気にされませんが、当時は同じ同性愛者の友人も、手を繋いでいる僕らを避けることがありました。僕らと一緒にいると、自分も同性愛者だと疑われるからです」
情報が少ないことが無関心な人たちの偏見を大きくさせている、と感じてきたこうぞうさん。
偏見や差別を無くすために国は同性婚ができるようにする責任があると訴える。
「LGBTQの人々を異質で特別なものかのように思わせる原因が何かと言えば、いないものとして扱ってきた社会であり、同性愛者が好きな人と家族になるための法制度さえない国が大きく関係していると僕は思っています」
「好きな人が同性であると家族にさえなれない、これこそ国が率先して行なっている特別扱いであり、差別じゃなく何なのでしょうか」
「当たり前の選択肢がないことで、生きることに苦悩し、時間を費やさなければいけないようなことは、一刻も早く終わらせていただきたいと思います。国会議員の皆さん、どうか力を貸してください」
パートナーシップ制度のスピード感で、同性婚も実現して欲しい
香川県で暮らす田中 昭全さんと川田 有希さんは、2019年2月に同県三豊市に婚姻届を提出したが受理されなかった。
しかしそれから1年も経たないうちに、同市で同性パートナーシップ宣誓制度が作られた、と田中さんは話す。
「婚姻届は不受理だったんですけれど、それを受けて三豊市の市民課の方がパートナーシップ制度を作りますと言ってくれて、1年も経たない今年の1月に、三豊市パートナーシップ宣誓制度ができました。
三豊市長は、自分の自治体に制度を必要とする当事者がいるのだから、自分が制度を作るのが当たり前だと言って下さいました」
一方で、パートナーシップ制度には法的な効力がないため、田中さんたちの心中は複雑だ。
田中さんと川田さんは2014年に築40年の住宅を購入した。しかし結婚ができないため、田中さんが先に亡くなった場合は、田中さん名義で買った家を川田さんは配偶者として相続できない。
「僕が先に死んだ時に、配偶者として彼に自動的に家を残したいんだけれど、残せない。それが大問題だと思っていて、裁判に参加した理由もそれです。
パートナーシップ制度がそんなに早くできると思いませんでした。このスピード感を国会に求めたいと思っています」
人生を終える時には、家族として扱われたい
東京に住む西川 麻実さんと小野 春さんは、16年間一緒に子育てをしてきた。
結婚できないことで、子ども達には「認められない家族」「格下の家族」という思いをさせないように育ててきた、と小野さんは振り返る。
周りには、子育てをするLGBTQファミリーがたくさんいる。小野さんは彼らの写真を掲げ、LGBTQファミリーに、目を向けて欲しいと訴えた。
「日本にはもう、こんなにたくさんの子育てをしているLGBTの家族がいます。皆、ごくごく普通に子育てを頑張っている家族です。
家族を語る時に、私たちのような家族のことを、ここにいる原告たちのような家族のことを、そして今中継で見てくださっている方の中にもいる家族のことを、どうか見えないものにしないでいただきたいのです。
私たちは異性カップルと同じように、みんなでご飯を食べたり、当たり前のように暮らしています。差をつけないで欲しい」
同性婚はまた、病とともに生きるLGBTQの人たちが安心して生きるために欠かせないものでもある、と小野さんは強調する。
「私は4年前にがんが見つかり、今も治療を続けています。もう治るということはありません。ずっとがんと暮らしていきます。
死のことを考えることも度々あります。私たちはずっと家族として暮らしてきたのだから、人生を終える時に、自分たちが家族と扱われないようなことには決してなりたくありません」
「同じようにガン患者であるレズビアンの当事者の人たちと、緩やかな患者会をやっていますが、ステージ4の人が複数人おり、その友人たちのことを思うと、胸が潰れそうになります。
1日も早く、同性婚を実現してください。日本中ですでに暮らしている家族が、安心して暮らしていけるようにしていただきたいと思っています」
求められているのは、国会議員のアクション
院内集会には党派を超えた20人近い国会議員が参加し、55人の国会議員がメッセージを寄せた。
集会に参加した議員の中には、LGBTQ当事者の議員もいる。
その一人、レズビアンを公表している立憲民主党の尾辻かな子議員は、パートナーと一緒に議員宿舎に入所できないなど、国会議員としても異性婚の人たちとの違いを痛感していると話す。
一緒にローンが組めない、家族として病院で認めてもらえない、相続ができない。ただでさえ不安の多いLGBTQ当事者の生活をさらに不安定にさせているのが新型コロナウイルスだ。
一般社団法人「Marriage For All Japan」が実施したアンケートでは、多くの人たちがパートナーとの関係が保証されていないために、困難や不安を抱えていると回答した。
そういった不安や不平等を無くすためにも必要な同性婚。そのために国会議員の行動が求められる。
院内集会に参加した日本維新の会の梅村みずほ議員は「地方自治体ではパートナーシップ制度が広がっており、ここから先は国会議員の仕事。判決を待つのではなく出来ることから進めていきたい」と述べた。
立憲民主党の小宮山泰子議員は「(家族になるための)障害があるのは、本人たちの問題ではなくて社会の問題。障壁をなくすのが政治の役割、責任だと思う」と、同性婚実現に向けた決意を口にした。
また、自民党の牧島かれん議員は「みんなそれぞれ何かにおいてマイノリティであったり、マジョリティであったり…だからこそ多様性がゆるされる社会であることが誰にとっても幸せなことだと思っています」というメッセージを寄せた。
さらに、立憲民主党の辻元清美議員は「立憲民主党で婚姻平等法の法案を作り、国会にも提出しました。これに菅総理に賛成していただきたい。菅総理は『悪しき前例主義の打破』『規制の緩和』と言っている。結婚の規制の緩和をやってもらおうじゃありませんか」と、すでに提出されている婚姻平等法案の法制化を菅総理に強く訴えた。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、2021年3月17日に北海道で最初の判決が出る予定だ。
勝訴した場合、具体的な法整備は国会に委ねられる。
また敗訴した場合でも、国会議員が法律を整備することで、平等な婚姻実現は可能になる。
つまりどちらの場合でも、国会議員のアクションが重要になる。
「同性同士でも結婚ができるように、法律を整えてください」。院内集会で届けられた切実な声を形にすることが、議員たちに求められている。
※院内集会は、「Marriage For All Japan」のYouTubeから視聴できます。