デンマークで結婚したロシア人のゲイカップルが、同性婚を認めていないロシアの役所から婚姻を認められ、関係者を驚かせた。ところが一転、警察が介入して強引な手口で手続きを取り消される事態に。2人は身の危険を感じ、国外に「脱出」する羽目になった。
ロシアLGBTネットワークによると、このカップルはパーベル・ストツコさんとエブゲニー・ボイツェホフスキーさん。ロシアのリベラル系ラジオ局「モスクワのこだま」は、2人が1月4日、事実上の同性婚が法的に認められているデンマークの首都コペンハーゲンで挙式したと報じた。
帰国後、2人は「ダメもと」で役所を訪れ、婚姻の承認を求める手続きを試みた。すると、担当の女性職員は必要書類がそろっているのを確認し、2人の身分証に家族関係(婚姻状態)を認めるスタンプを押した。
ロシアのリベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」によると、女性職員は2人に「海外で結婚する人の手続きはよくあり、もう慣れている」などと告げた。
ロシアは国内での同性婚は認めていない。一方で家族法は、結婚した当事者が一般的な判断力がある成人であれば、重婚や近親者との結婚などの阻害要因がない場合、外国で認められた婚姻はロシアでも認められると規定している。女性はこれを根拠に申請を受け付けたとみられる。
ロシアは法的にも社会的にも、同性愛者に対して厳しい国として知られる。それだけに、この出来事は関係者を驚かせた。ところが事態は急変。2人が申請が受理されたことを明かした翌26日、ロシア内務省が次のような声明を公式サイトで発表した。
男性国民同士の身分証に婚姻を認めるスタンプが押された件について関係機関が調査した。その結果、女性職員による違法行為が判明し、彼女とその上司を解雇することに決定した。当該2国民の身分証は無効な情報が記載されている。
27日には私服の警察官らが突然、2人が暮らすアパートを訪問。2人がドアを開けずにいると何度もノックし、最後には電気とインターネットを遮断したという。ノーバヤ・ガゼータはその時の様子を、2人の証言をもとにこう紹介している。
警察官は身分証などを提示することはなかった。同行した役所の人が紹介しただけだった。2人はパニックになり、ドアを開けずにいると、電気とインターネットを遮断された。ボイツェホフスキーさんの携帯に母親から電話があり、警察からドアを開けるためにここに来るよう脅されたと告げられた。
弁護士が駆けつけ、改めて29日に事情聴取に応じることになった。その際、警察側は2人に対し、逮捕をちらつかせたという。無効なスタンプを押したことで身分証という公文書を故意に傷つけ、放置する罪にあたるという理屈だった。最高300ルーブル(約580円)の罰金を支払う必要があるとも指摘されたという。
警察側は身分証の引き分しと交換を要求し、応じなければ同性婚に反対する人らが2人を襲撃しても守れないなどと脅した。
反政権的な姿勢で知られるテレビ局「ドーシチ」によると、2人は弁護士と話し合い、罪に問われないことや出国を許可されることを条件に身分証を渡したという。
この直後、2人はロシアを去った。一部始終を知るLGBT活動家のイーゴリ・コチェトコフさんは、現在2人がどこにいるのかは明らかにせず、「彼らは警察官の不適切な権力行使により、リアルな危険にさらされていた」と語った。