虐待などにより親元で育てられない子供の養育里親について、大阪市が男性カップルを認定したことが、5日、市への取材で分かった。厚生労働省は同性カップルの里親認定について「聞いたことがない」としており、全国初とみられる。
国内7.6%(※2015年電通総研ダイバーシティー・ラボ調べ)、約13人に1人ともいわれるLGBT。今回のニュースの意義について、LGBTと社会的養護の課題に取り組む「一般社団法人レインボーフォスターケア」代表理事の藤めぐみさんに、このニュースについてお話をお伺いした。
■LGBTと社会的養護をつなげたい
「一般社団法人レインボーフォスターケア」は、LGBTが里親や養親として子どもを養育するための法制度等の課題の解決と、里親家庭や児童養護施設で暮らすLGBTの児童たちが直面する問題の解決を通じて、多様な大人と多様な子どもと多様な家族が生きやすい社会をめざす団体です。
2012年、アメリカの里親支援のソーシャルワーカーとの出会いがありました。アメリカでは、LGBTで里親になる方はとても多いんですね。LGBTや同性カップルは里親として貴重な人材で、ソーシャルワーカーも頼りにしていて、実際に活躍しているという話をお伺いしました。翌年には、任意団体としてレインボーフォスターケアを立ち上げ、実際にアメリカのレズビアンカップル里親を訪問しました。地域で信頼されている姿に感銘を受け、日本でも広げたいと思い、講演会やロビイングに取り組んでいます。
■国内約4万5000人の子供が社会的養護のもとで生活
社会的養護とは、保護者のない児童や被虐待児など、家庭環境上、親と一緒に暮らすことができず、養護を必要とするこどものために、公的な責任として、社会的に養護を行うことをいいます。
厚生労働省によると、国内では現在、約4万5000人の子供が社会的養護のもとで生活しているといわれ、そのうち児童養護施設で生活する子どもが約9割、里親家庭で生活する子どもが約1割です。日本の里親委託率はOECD諸国の中でも低く、国連からの勧告の影響もあり、厚生労働省も「家庭養護の推進」を掲げ、里親を増やす政策を推進しています。
■同性カップルが里親認定されるまでの道のり
国内では、法律上、同性カップルが里親になることは制限されていません。ただし、都道府県や政令指定都市が制度の運用主体であり、実際には、職員に断られた同性カップルがいるなど、職員の偏見によって断られたケースもあります。また、「法律上同性カップルが里親になれない」という間違った報道もあり、LGBTの人たちが自らあきらめるケースもあります。他にも、特別養子縁組では同性カップルが養親になれないため、混同されることで誤解が生じるケースもあります。
2014年5月、大阪市淀川区の榊区長(当時)がレインボーフォスターケアの活動に関心を抱いてくださり、懇談をしました。淀川区の働きかけで、2015年7月に大阪市にて職員との意見交換会が実現。その後、LGBT支援事業ニュースレター「虹色ニュース!」同年9月号に、大阪市こども相談センターより、「LGBT当事者の方を排除することはないのでぜひ里親登録してください。合うお子さんがいればマッチングします」とのコメントが掲載されました。
法律上制限がないとはいえ、こうした形で市がしっかりとメッセージしてくれたことが大きかったと感じています。
このような大阪市の動きによって、実際のゲイカップルが里親研修を受け、認定されて、お子さんが委託されたということは非常に大きな意味を持ちます。これまで、同性カップルが「単身者」としてそれぞれが認定された例があるとは聞いていますが、今回はそうではなくて、「行政が正面から同性カップルを歓迎した」「同性カップルとして認識されたうえで、彼らが研修を受けて認定された」という意味で非常に画期的だと感じています。
■「同性カップルが里親に登録するのは、エゴ?」
同性カップルが里親になるうえで反対意見や疑問視があるのも事実です。
例えば、「同性カップルが里親に登録するなんて、本人たちのエゴなのでは」というご意見をいただくことがあります。しかし、上記のように、子どもの権利のために、同性カップルも社会的養護の中で活躍するということが重要なのではと考えます。
他にも、「同性カップルが子育てをするなんて前例がない、危険だ」などの意見をいただくこともありますが、同性カップルで子育てしている人たちは国内外にすでにたくさんいらっしゃいます。また、「子どもが里親を選べない。同性カップルを嫌がったらどうするの?」とのご質問もいただきますが、里親委託する際にはマッチングなどの期間があり、また子どもへの意思確認があり子どもの意思が尊重される仕組みになっています。
■「お子さんが暮らす家庭が1つ増えたこと」が意義
同性カップルが里親になることは社会的にも子どもにとっても、大きな意義があると考えられます。
里親登録をみていると、不妊治療を経て40歳以上が希望される方が多いんです。しかし、欧米の状況をみると、同性カップルは20歳代から希望される方が多く、貴重な人材だと言われています。
また、同性カップルが里親になることの強みとして、例えばアメリカでは、男性恐怖症の女の子がレズビアンカップルに養育された例や、大人の女性を見るとすぐに乱暴なふるまいをするDV家庭で育った男の子が、ゲイカップルに育てられて、ゲイカップルが「女性に対等に接する大切さ」を男の子に教えて、養育した例など、「同性の組み合わせ」がプラス材料とされることがあります。
また、約13人に1人といわれるLGBTですから、社会的養護のもとで育つ子どもの中にもLGBTの子どもがいます。このような活動をする中で、さまざまなご相談もいただいています。例えば、児童養護施設の職員さんから「女の子が『自分は男の子だ。男の子の制服を着たい』と言っているのですが、どうしたらいいでしょうか」というご相談や、里親家庭では「思春期を迎えた女の子が男性ホルモンの投与をしたいと言い、どう対応したらいいか」などのご相談もありました。
このようなご相談が多く寄せられるなかで、レインボーフォスターケアでは昨年、「児童養護施設における性的マイノリティ(LGBT)児童の対応に関する調査」を実施しました。現在、統計をまとめているが、すでに100以上の事例を集め、今後聞き取りなどに進んでいく予定です。
社会的養護のもとで暮らす子どもたちがすでに多様だからこそ、多様な大人が子育てに関わることが必要だと考えます。また、多様な大人が子育てに関わることで、子どもが育つ家庭の選択肢を増やすことにもなるのです。同性カップルを里親の候補として認めないことはいわば「子どもが家庭で育つ権利の侵害」にもつながるのではないか、とも考えています。「同性カップルが里親になれた」ということもニュースですが、それ以上に「お子さんが暮らす家庭がまた1つ増えた」ということがなによりも重要なのではと考えます。
今回のニュースをきっかけに、各自治体でも「同性カップルの里親登録歓迎」のメッセージが広がることを願っています。また、LGBTに関わらず、多くの人に社会的養護の問題に関心を持っていただくきっかけになったら嬉しいです。
一般社団法人レインボーフォスターケアについて
お問い合わせ:
代表理事 藤めぐみ
rainbowfoster13@gmail.com