榊原定征・経団連新会長ってどんな人? 原発再稼働を強く提言

経団連の新しい会長に就任する東レの榊原定征会長とはどのような人物なのか。
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時事通信社

大手化学メーカー・東レの榊原定征(さかきばら・さだゆき)会長(71)が6月3日、日本経済団体連合会(経団連)の新しい会長に就任する。政治との関係悪化に苦しんだ米倉弘昌会長時代から一転して、安倍政権との連携を強める。

■東レを世界シェア首位に押し上げた敏腕経営者

榊原氏は1943年、神奈川県に生まれ、愛知で育った。1967年、名古屋大学大学院を卒業し、東洋レーヨン(現東レ)に入社。同社代表取締役社長を経て、2010年に代表取締役会長となった。今後は経団連会長の職務に専念するため、6月25日付で代表権を返上するという。

榊原氏は高校生の頃に読んだ科学雑誌で、「炭素繊維」が日本人研究者の手で発明されたことを知る。重さは鉄の4分の1、強さは10倍という炭素繊維は、将来、アルミに代わって飛行機の材料になるかもしれないという記事だった。「自分もこんな研究をしたい」そんな思いを、榊原氏は胸に抱いたという。

学校の図書館で雑誌をめくっていたら、その記事が目にとまったのです。

「アルミよりも軽く、鉄よりも強い『炭素繊維』は、将来、アルミ合金に代わって飛行機の機体の材料になるかもしれない!」

 

当時は太平洋戦争後の復興で、日本の経済がようやく活気を取り戻そうとしている時期でした。戦争に負けた日本人の発明が世界をリードする画期的な成果をもたらすかも知れないという記事に、とてもわくわくし、わたしも将来は、どの道に進めばそのような大きな仕事ができるのだろうと考えました。

 

(わくわくキャッチ!「My History〜飛んだ!黒い飛行機 榊原定之さん」より)

榊原氏はその後、東レで炭素繊維を主力事業に育てた。炭素繊維はボーイング737などに採用され、東レを世界シェア首位に押し上げた。

2002年、榊原氏は社長に就任すると、経営改革を実施。「困難な課題にも勇気を持って果敢に挑戦しよう」を合い言葉に、技術、経営などあらゆる領域でイノベーションを推進した。その中で大事にしたことは、雇用を守ることだったと言う。

私が社長に就任したのは2002年.ITバブル崩壊後,社会全体の景気が冷え切っていた市場において,私たちの業績も決して芳しいものではありませんでした.この状況が続けば2年で東レが破綻するかもしれない.そんな危機感の中で,私は社員に,「皆さんの雇用は絶対守る.ただし,それ以外は一切聖域を設けずに思いきった改革を行う.2年間は皆さんには厳しい試練を課すが,私を信じてついてきてほしい」と訴えました.

終身雇用の時代は終わった,考え方が古いなどと言われる昨今ですが,安心,安定した雇用の中でこそ人はその持てる力を発揮します.私は「人」を大切にすることが企業の発展につながり,社会貢献の姿勢を生み出す拠り所と考えています.

(NTT技術ジャーナル「[トップインタビュー]極限を追求するスピリットを受け継いで――先見性を持った経営と研究・開発の両輪で世界最先端を目指そう」より 2014年3月)

■原発推進派、消費税10%にも賛成

経団連では2007年5月から2011年まで副会長を務めた。政府の産業競争力会議では民間議員も務めており、安倍首相とも太いパイプがある。

産業競争力会議の中での榊原氏の発言を見ると、原発推進に熱心であることが分かる。民主党政権時代に決まった「2030年代に原発稼働をゼロ」の方針については、早急に見直すべきと繰り返し発言。「エネルギー安全保障、環境への適合、経済効率性などの観点から、原発を将来にわたって、日本の基幹エネルギーの一つとして位置付けることが必要」と訴えている

消費税率10%への引き揚げについては、「財政健全化や持続可能な社会保障制度の確立のためにも不可欠」と述べ、計画通りの実施を求めている。

中国や韓国との交流については最優先課題と位置づけ、現在、中断している韓国の経済団体とのトップ会談も再開するとしている。

――中国や韓国との交流をどう進めますか。

 

「最優先課題として取り組む。中国とは隣国として相互依存関係にあり、そうした関係をさらに深めていく。訪中団を派遣していくほか、2012年に上海での開催が決まっていながら中断した『日中グリーンエキスポ』の再開をめざす。韓国とも07年までやっていた韓国側の『全経連(全国経済人連合会)』と経団連の首脳会談をしかるべき時期に再開する」

 

(朝日新聞デジタル「榊原氏、経団連会長にきょう就任 政権と二人三脚目指す」より 2014/06/03 00:39)

榊原氏は今後、イノベーションを政策提言の柱に据え、1年かけて「榊原ビジョン」をつくる予定だという。運営方法の見直しなどを含め、経団連改革や発信力の強化に乗り出す。

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