フリーランスの書店員って? それは「本の思い」を代弁するお仕事です

フリーランス書店員の久禮亮太さん。本屋というメディアをプロデュースする手法とは?
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本と人を結ぶことで、未知の自分を知るためのきっかけづくりをしているブックコーディネーターがいる。

現在は「本のにほひのしない本屋 神楽坂モノガタリ」を中心に、カフェや書店で本の選書から、仕入れ、販売、棚づくりまで一手に引き受けているKUREBOOKSの久禮亮太(くれ・りょうた)さんだ。

自分のことは自分が一番よくわかっていると思っている人は多い。しかし人間は複雑かつ多様な生き物だ。たとえば本、音楽、映画、絵画といった芸術作品との出会いで、今まで気がつかなかった潜在意識を揺さぶられ、自分の新たな一面を知る人もいる。

最近は、「自分に合う本を選んでほしい」というオーダーメイド選書の依頼も舞い込んできているという久禮さんに、「フリーランス書店員」の可能性と醍醐味について話を聞いた。

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久禮亮太さん。選書を手がける「神楽坂モノガタリ」にて

■こちらから働きかけていかないと、書店の状況は変わらない

――独立する前は、あゆみBOOKSに18年間勤めて最後の4年ほどは小石川店店長をされていました。フリーランスで書店員を続けようと思ったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

もともと自分の目が届く小さな本屋をやるのが夢でした。でもひとりで書店を開くのは非常にハードルが高くてお金もかかることがわかって、開業は棚上げにしてあゆみBOOKSで書店業務を基礎から身につけていくことにしました。

あらためて独立を思い立ったのは小石川店店長になってから。ひとつのお店を自分の思い通りにやらせていただいたことで、チェーン書店の画一的に効率を求めるやり方に限界を感じはじめたのです。

書店に通う習慣のない人々のなかにも、潜在的な「良い読者」はたくさんいます。本にばったり出会うチャンスや買う気をそそる棚の魅力といった、書店の役割に期待している人は増えているとはっきり実感できる。なのに、現場はどうしても目先の雑務に忙殺されてしまって、本質的なニーズから乖離していくとも感じました。

こちらから本屋の外にいるお客様に働きかけていかないと、これ以上は顧客の裾野が広がらないし、書店の状況は変わらないだろうなぁと。

40歳になったら何か面白いことをしたいという漠然とした希望もあったので、39歳になった月の店長会議で経営陣と議論がまるでかみ合わなかったことも引き金になって、ほとんど衝動的に独立しました(笑)。

そのとき娘はまだ3歳でもっと一緒に過ごしたかったし、漫画家の妻も仕事に復帰したいと考えていた時期だったので、夫婦で時間を融通しあって2人ともが仕事も家事もできる生活をしたいという考えもありました。

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久禮さんの個性ある選書が光る「神楽坂モノガタリ」

――それからすぐに昭島のカフェの書棚づくりや熊本の書店リニューアルの仕事など、フリーランス書店員としての活動がはじまります。2015年には「神楽坂モノガタリ」新規オープンの立ち上げから参画したわけですが、どれも人づてに紹介されたお仕事ですね。プロのフリーランス書店員を必要としている時代のニーズを感じます。

どれもはじめての経験で、思い返すと反省点ばかり(笑)。今も気をつけているのは自分の趣味が前面に出ないようにすることです。

その点では、今までの経験が活きています。書店の現場でさまざまなお客様に出会ったおかげで、選書における多様な視点が自分の中に織り込まれていると感じます。

たとえば小石川店で店長をしていたときは、子育てしながらバリバリ働いている奥さんが小室淑恵さんのワークライフバランスの本を買う流れで、暮らしの実用書や女性作家の小説、そしてちょっとオタクな漫画を買ったりするわけです。

そうすると“働くママはこんな本が好きだろう”というステレオタイプなイメージしかなかった自分の見立ては甘かったなぁと思ったり。

そういう風に自分の思い込みを捨てて人物像を掘り下げながら書棚づくりをして、売れ行きから結果を検証するという作業を繰り返してきた経験が、いまとても役立っていますね。

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真剣な面持ちで本棚に向かう久禮さん

■本の思いを代弁して、一冊一冊が一番面白そうに見えるよう配置する

――久禮さんの書棚は目に止まった本の周りに気になる本がいっぱいあって、自分の潜在意識を揺さぶられたり好奇心をくすぐられます。書名ひとつひとつが語りかけてくるようで衝動買いしたくなる(笑)。久禮さん自身もお客のそういう反応を楽しんでいらっしゃるのかな?と。

僕は連想ゲームが好きなので、まさにそこがこの仕事の面白いところですね。

「神楽坂モノガタリ」はもともと、製本会社フォーネット社が「大人がゆっくり本に向きあう空間を演出したい」という思いでオープンしたブックカフェです。

「慌ただしい日常では気づかない意外な本との出会いをここで体験してほしい」というテーマを、いつも意識しています。

アマゾンのレコメンド機能だと、傾向の似過ぎた本がベタベタと並ぶことがあります。書店の棚は、お客様がご自身の足で意外な本や新しい興味を発見する体験を、意図的に仕掛けることができます。

また、本の著者や編集者の思いを代弁するつもりで、ときにはジャンルに関わりなく、一冊一冊が一番面白そうに見えるような自然な並べ方や積み方をすることもできます。

そんな意図通りにお客様が本を買ってくれると「思いが届いた!」という達成感がありますね。

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大人が落ち着いて本に向き合えるカフェスペースも充実している「神楽坂モノガタリ」

■本棚の前に立つのは、自分に向き合う濃密な時間

――お互いの想像力をかきたてる本を介したお客様との無言のやりとりは、SNSやチャットのようなダイレクトなやりとりにはない贅沢で豊かなコミュニケーションだと思います。

本と本とのつらなりや組み合わせのなかで何かを発見する喜びや楽しみが生まれるところが、本屋というメディアの魅力になるだろうと思っています。

本棚の前に立っている時って、本をみながら自分に向きあっているんですよね。インターネットでの情報収集が当たり前になってそういう濃密な時間が減ってきた反動で、魅力ある書棚のある本屋のニーズが高まってきているはずです。

一方で、「神楽坂モノガタリ」は講演、セミナー、ライブなどイベントにも力を入れています。本好きに限らず人が集い、出会い、語らうサロンとしてお客様に気軽に立ち寄っていただきたいからです。そういう多角的な展開も、書店にはこれからますます求められると思います。

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「本棚の前に立つことは、自分に向き合うこと」だと久禮さんは言う

――情報過多の時代、本当にいいものを目利きの人に選んでほしいと思っている人も増えているように感じます。本も自分仕様にカスタマイズしてほしいと思っている方もいるのでは?

そういえば先日、オーダーメイドの紳士服をつくっているお客様から、「今度うちのサロンで開く採寸会でお客様に合わせた本のオーダーメイド会をやってみない?」と声をかけていただきました。このお店でも「自分に合う本を選んでほしい」という依頼を受けることもあります。

面と向かって「さあ、私に合う本を選んで」と言われたらかなり緊張しますけど(笑)。その方のお仕事やご興味、読んだご本など、簡単にでも教えていただけたら、選書できる知識と経験もある程度は持っているかと思うので、将来的にはそういうサービスも展開していきたいですね。

(取材・文 樺山美夏

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