「逃げちゃいけない」。その思いからふたりは原告になった。同性カップルが置かれている不平等な状態を変えたい

「気持ち悪い」と言われる社会で感じた生きづらさ。帯広の男性カップルが、同性婚訴訟で変えていきたいこととは?
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ご本人提供写真 / 撮影 JUN TSUBOIKE/HUFFPOST JAPAN
たかしさんと国見さん

19年前の新聞の切り抜きを、たかしさんは大事にとっておいている。

人物紹介欄に載っているのは、北海道でLGBTの活動をしている男性。自分がゲイだと誰にも言えなかったたかしさんにとって、顔を出して活動する彼は、憧れの存在だった。

今、たかしさんはその男性・国見亮佑(くにみ りょうすけ)さんと帯広で暮らす。

国見さんの個人サイトにたかしさんがメッセージを送ったのがきっかけで出会い、付き合うようになった。それから16年。憧れだった人は“家族“になった。

そして2018年、国見さんとたかしさんは大きな決断をした。全国13組の同性カップルとともに、日本初となる同性婚訴訟の原告になることにしたのだ。

ふたりの名前、国見亮佑とたかしは仮名だ。2月14日に始まった裁判にも仮名で臨む。

そこには、まだセクシュアリティをオープンにして生きにくい、今の社会の実状がうつしだされている。

同性婚が認められていない社会で、大切な家族を隠さなければいけなかった16年を、ふたりが振り返ってくれた。

■ 学校ではアライとして活動する国見さん

国見さんは公立学校の教諭だ。今も昔もLGBTの発信をしている国見さんだが、30代で教諭になってからは、本名で発信するのを止めた。学校では親しい人にしか自分がゲイだと伝えていない。

オープンにしない理由は、セクシュアリティを問題視されて仕事に影響したくないからだ。

「5、6年で異動があるし、先生たちも毎年変わります。微妙な空気になるくらいなら、言わずに仕事に集中したいと思っています」

オープンにはしていないが、サポート役である「アライ」として関わっていると話す。

以前、職員会議で「ある男子生徒が、別の男子を好きなようだ」という話が出た。「病院に連れて言ったほうがいいんじゃないか」と言う年配の先生に、国見さんは「同性が好きだというのは病気じゃない。同性を好きということへの偏見は、持たないほうがいいですよ」と、はっきり伝えた。

「LGBTに対して偏見のある発言や行動があれば、黙っていません。自分がゲイだと言わなくても、LGBTの人たちをサポートできる。学校では当事者よりアライの立場を取っています」

一方で、オープンにできないことを少し寂しくも感じている。

学校では先生たちが結婚するとき、みんなでお祝いをする。自分にはパートナーがいるけれど祝ってもらうことはない。同僚が家族の話をしている時に、自分もたかしさんのことを話せたらいいなと感じたこともある。

自分に何か起きた時の第一連絡先をたかしさんにできないことにも不満を感じる。普通、結婚している教員の連絡先は配偶者だが、国見さん場合は両親。本当はたかしさんに真っ先に連絡して欲しい。自分たちの関係がもっとオープンに話せたらよいのに、とも思う。

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旅行先で撮影した写真(ご本人提供写真 / 撮影 JUN TSUBOIKE/HUFFPOST JAPAN)

■ たかしさん 「気持ち悪い」と言われる社会で感じた生きづらさ

たかしさんは働きながら創作活動をするアーティスト。東京を中心に、年に数回発表活動をしている。

たかしさんには、忘れられない苦い思い出がある。国見さんと旅行する時に、ホテルのダブルルームを予約した時のことだ。

チェックインの時にフロントスタッフがいぶかしげな表情で二人を眺め、「お二人でお泊まりになるんですか」と尋ねた。「朝早く出発するので大丈夫です」と返事をしたが、スタッフはちょっと待ってください、と上司を連れてきた。上司は二人を見ると「今回だけ、特別に広めの部屋をご案内します」と、ツインルームにアップグレードした。

たかしさんはホテルで働いた経験がある。普通、カップルがダブルルームを予約した時は、ツインルームにアップグレードはしないという。一緒に過ごしたいだろうと配慮するからだ。

「あれは、『アップグレードしてもらってラッキー』ではなく、屈辱的な扱いなんです」

実際に、職場で同僚がダブルルームに男性ふたりで泊まるお客さんを見て「気持ち悪い」と影でこそこそ話すのも聞いてきた。自分たちも同じように思われたのではと嫌な気持ちになった。

「見ず知らずの人とはいえ、宿泊して顔を付き合わせる相手に気持ち悪いって思われるのは、やっぱり嫌です」

たかしさんはそれ以降、国見さんと旅行する時にダブルルームは予約しない。

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ご本人提供写真 / 撮影 JUN TSUBOIKE/HUFFPOST JAPAN
こちらも旅行先で撮影。

 ■ 「逃げちゃいけない」と思った。ふたりが原告になった理由

ツインルームに変えられたのは差別に当たると思う、とたかしさんは話す。それでもホテルのスタッフに抗議はしなかった。「ありがとうございます」と言って、ツインルームに泊まった。

たかしさんはこれまで、自分の生きづらさを話したり、声をあげたりしてこなかった。それは逃げることで、“乗り越えてきた”からかもしれない、と振り返る。

「長く人生を生きる中で、問題に向き合うのではなく、逃げる術を身につけてきたと思うんです。社会のあり方を受け入れる術も。受け入れないと、生きていけないから」

「そうやって問題をどこかで内面化してしまうと、差別されていることが麻痺してわからなくなることがあります。だから嫌だなと思っても、それが差別なのか差別じゃないのかうまく話せない部分もあるんです」

そんなたかしさんが、同性婚訴訟の原告にならないか、と国見さん持ちかけられた時、「やる」と即答した。「ここは逃げちゃいけない」と感じたからだ。

「やっぱり、生きやすい世の中にしなきゃいけないという思いが、自分の中にあったと思います。生きづらさって、一人一人違います。自分自身もうまく表現できずモヤモヤしてた。でも訴訟と聞いた時に、やっぱりこのままじゃだめだ、理不尽なことはなくなっていかなきゃいけないって感じたんだと思います」

一方、国見さんを原告へと駆り立てたのは、同性カップルが置かれている不平等な状態を変えたいという思いだ。

付き合って16年、自分たちの関係は結婚している夫婦と何も変わらないと国見さんは話す。喧嘩する、腹を立てる、自分が悪かったと反省する、歩み寄ったり離れたり。そうやって築いていく時間の中で、男女カップルには「結婚」という選択肢があるが、自分たちにはない。

2年前、台湾で同性婚の活動をしている人から、台湾では「平等」を活動の中心に据えているという話を聞いた。

「異性同士でも同性同士でも、結婚したい人が誰でも平等に婚姻を選べるものにする、という話にすごく共感しました。自分も平等が大事だと思っていましたから」

「今、同性カップルは結婚の土台にも乗せてもらっていない状態。まずはそこを解消したい」

■ 16年の月日が家族

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ご本人提供写真 / 撮影 JUN TSUBOIKE/HUFFPOST JAPAN
旅行先のビーチで撮った、ふたりの影(左)。親族が集まって撮った写真には笑顔があふれる(右)。

同性婚を認めると伝統的な家族が壊れる、と懸念する声もある。

しかし、国見さんとたかしさんが語ってくれたふたりの家族のかたちは、幸せいっぱいだ。

たかしさんと会うまで、自分はゲイだから家族は持てないだろうと思っていた国見さんは、たかしさんと暮らし始めて「自分にも家族ができる」と思ったそうだ。

たかしさんも国見さんと出会って「この人と一緒にいれば自分は大丈夫だ」と感じたという。

お互いの家族とも仲がいい。それぞれ両親を連れてお互いの実家を訪ねたり、一緒に旅行に出かけたりしている。

たかしさんの高校生の甥っ子は、小さい頃からたかしさんより国見さんになついていて、今でも悩みがあれば国見さんにLINEする。

国見さんは、たかしさんと自分の母親が台所で並んで料理しているのを見て、家族だなあと思う。

二人にとって家族とは?と尋ねると、たかしさんはふたりが大好きな歌手、矢野顕子さんの「ホームスイートホーム」の「たとえ一人きりになったとしても Home Sweet Home」という歌詞を挙げた。

「家族は過ごした記憶かな。一人になっても、遠く離れてても、ともに過ごした大事な記憶が家族なんです」

「死別や離婚、これから何かあっても、記憶はもう動かしようがないもの。私たちでいえば、16年の月日が家族としてか呼べない記憶になっています」

家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭に浮かぶのはどんな景色ですか?

お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?

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