【ウクライナ情勢】ロシア国際放送局のアメリカ人女性キャスター、番組で抗議の辞任表明

ロシア政府が運営する国際放送局「ロシア・トゥデイ」のワシントン支局員、リズ・ウォールさんが3月5日の放送で、ロシアによるウクライナへの軍事介入への抗議を表明し、辞任することを明らかにした。
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ロシア国営の国際放送局「ロシア・トゥデイ」のワシントン駐在、リズ・ウォールさんが3月5日の放送で、ロシアによるウクライナへの軍事介入への抗議を表明し、辞任することを明らかにした。

「私たちの国際ニュースのヘッドラインでアンカーが何と言おうと、ロシアのクリミア半島への介入は間違っています。この局のリポーターとして、私は道義的、人道的な問題に直面してきましたが、最も重要なこととして、私の家族に関することが頭に浮かびました。

私の祖父母は(1956年の)ハンガリー革命(ハンガリー動乱)のときに、皮肉にも旧ソ連の軍事介入を逃れ、難民としてアメリカに亡命してきました。私はここアメリカに生まれ育ったことを幸運に思います。私の父は退役軍人ですし、私のパートナーは基地で働く内科医です。

だから私はこれ以上、プーチン大統領の行動を正当化する、ロシア政府出資の放送局で働くことはできません。私はアメリカ人であることを誇りに思い、真実を広めたいとの信念を持っています。だからこの放送のあと、私は辞めます」

ウォールさんはツイッターでも祖父母のことについて言及している。

「さっき、ハンガリー革命の時期に旧ソ連から難民として逃げてきた祖父母と話した。新たな冷戦の恐怖を聞くことになるなんて、と驚いていた」

ウォールさんの辞任は、ロシア・トゥデイのアンカー、アビー・マーティンさんが放送でロシアのウクライナ軍事介入を批判してから2日後のことだった。

ウォールさんは辞任後、アメリカのウェブメディア「デイリー・ビースト」のインタビューで心境を語った。

彼女は、職員を意のままに操ろうとする局側の姿勢を批判し、そのために働くことが嫌になったと話した。「成功するためには、疑問を持つことは許されなかった。噓や意図的にねじ曲げた事実を伝えるのは、誰にとっても得することはない。アメリカを悪者に見せるのは、健全な報道機関ではない」

デイリー・ビーストのインタビューの中で、ウォールさんは以下のような体験を語っている。

ウォール氏は昨年(2013年)、フランスがイスラム過激派のアル・カイダ制圧のため、アフリカ中西部のマリに軍事介入したときのことを回想した。インタビューしたマリ人の男性が語ったのは、こんなことだった。「イスラムの戒律のもとで暮らすのがどんなことか。人々は手足をもがれ…そして私は、過去の自分のインタビューで最もいい出来だと思った。まだ誰も報じていなかったし。しかし彼は、フランス軍がどれほど歓迎されているか、もっと早く来なければならなかったか、国民の大部分がどれほど感謝しているかについて語った。人々は文字どおり虐げられ、手足をもがれていたからだ」

しかしこのインタビューはロシア・トゥデイには合わなかった。ロシア・トゥデイにとって、欧米の軍事介入はすべて帝国主義的な策動であり、ロシアのそれは現地住民を「保護する」ための人道的措置でなければならなかった。クリミア半島についても、ロシア・トゥデイはロシア政府の役割について何度も報じている。言うまでもなく、フランスに感謝するマリ人のインタビューは放映されなかった。「あとであれは『弱い』と言われた」とウォール氏は話す。

一方、ロシア・トゥデイはネットメディア「バズフィード」に寄せた 声明文で、ウォールさんの行為を「自己宣伝的」と批判した。

「ウォール氏の辞任は、彼女の同僚であるアビー・マーティン氏が最近、ロシア政府の複数の施策に同意しないことを表明し、編集権の独立を強く主張した直後のことでした。両者の違いは、マーティン氏は彼女自身のトークショーの中で、何年も彼女の意見を聞いてきた視聴者に対し、最近の出来事についてほとんどのメディアが2日前まで関心を示さなかったという意見でした。何年もの間、マーティン氏はアメリカ軍の軍事侵攻に反対してきましたが、ニュースの主流からはことごとく無視されてきました。しかしこの批判コメントによって、彼女は一夜にして注目を浴びることとなりました。

ジャーナリストが所属組織の見解に反対するとき、通常とるべき方法はその不満を編集長に表明すべきで、それが解決されないならプロとして辞職すべきです。しかし誰かが公衆の面前で個人的な決めごとをするならば、それは自己宣伝的な道化にすぎません。

我々はリズが選んだ道の幸運を祈っています」

[Katherine Fung(English)]

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