ラッセル-アインシュタイン宣言60周年にあたっての呼びかけ

ちょうど60年前、バートランド·ラッセルとアルバート·アインシュタインをはじめとした指導的知識人たちが共産主義陣営と反共産主義陣営による世界戦争へと向かう歩みを非難する宣言を作成し、これに署名するためにロンドンに集まった。
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Earl Bertrand Russell, the philosopher, reads Albert Einsteinâs last message to the world at a press conference in Londonâs Caxton Hall on July 9, 1955. It is a statement on nuclear weapons, sponsored by Einstein and signed by eight scientists of international repute. Earl Russell told reporters, âThe statement makes clear that neither side can hope for victory in a nuclear war, and that there is a very real danger of the extermination of the human race, by dust and rain from radioactive clouds.â (AP Photo)
ASSOCIATED PRESS

ちょうど60年前、バートランド·ラッセルとアルバート·アインシュタインをはじめとした指導的知識人たちが共産主義陣営と反共産主義陣営による世界戦争へと向かう歩みを非難する宣言を作成し、これに署名するためにロンドンに集まった。この宣言の署名者の中にはノーベル賞受賞者の湯川秀樹とライナス・ポーリングも含まれていた。

彼らは当時、アメリカとソ連を席巻していた核兵器使用についての無謀な議論、そして戦争へとむかって突き進むことが全人類の脅威であるとすることに躊躇しなかった。そして、宣言に技術の進歩、すなわち原子爆弾の開発が人類の歴史を変えたと記したのである。

「ここに私たちが皆に提出する問題、きびしく、恐ろしく、おそらく、そして避けることのできない問題がある――私たちは人類に絶滅をもたらすか、それとも人類が戦争を放棄するか?」

ラッセル - アインシュタイン宣言は、当時、米国が向かっていた危険な方向に対して真摯な再考を迫り、1968年の核拡散防止条約の締結と1970年代の軍縮交渉へとつづく安保概念の変化の出発点となった。

しかし、その成果によって、今日の私たちは安らぎを得てはいない。米国は核拡散防止条約の義務を完全に忘却していて、「軍縮」という言葉は、安保対話から消えた。昨年、米国はウクライナの問題と関連して、ロシアとの核戦争の危険を云々するほど対立を深めた。

その結果、今年の6月16日、ロシアは過去2年間、米国が核兵器の性能を向上させたことに対する対応として、40個の新しい大陸間弾道ミサイルを追加すると公表した。

似たような緊張状態は尖閣諸島をめぐる日中、あるいは南シナ海をめぐる米中間においても見られる。西側メディアでは中国との戦争の可能性について討論が頻繁におこなわれており、アジアとアメリカとの関係において誰の目にも明らかな武装強化推進は地域の緊張をより深刻なものとしている。

しかし、今回は、核戦争の危険に対応する、あるいはそれより大きな脅威である気候変動が加わったのである。サミュエル・J・ロックリア米太平洋軍司令官も2013年のボストングローブ紙で、気候変動は「おそらく、我々はしばしば取り上げるいくつかのシナリオよりも安全保障環境をおびやかす可能性が最も高い」と述べた。

さらに最近では、教皇フランシスコが気候変動による生存の危機についてさらに具体的かつ直接的な回勅を公表した。

教皇は回勅で、「国際的に気候変動に対する政治的対応がいかに弱いものであったのかには驚くばかりである。そのため、ほとんどの人たちは表面的な美辞麗句、散発的な慈善活動、うわべだけの環境問題についての意思表明には関心をもつが、気候変動を社会に紹介するという本当になされるべき試みは、非現実的な幻想にもとづいた迷惑行為、あるいは関わるべきでない障害物だとみなされてしまう」と指摘した。

ラッセル - アインシュタイン宣言60周年が近づくにつれ、私はますます不安になり始めた。ラッセルとアインシュタインが直面していたよりもはるかに暗鬱な、現代史の中で、おそらくは全人類史の中で最も危険な瞬間に直面していながら、最もよく教育を受け、最もよくつながっているはずの知識人の集団から何の行動の兆しもなかったからである。

私たちは、核戦争の可能性の増大に直面しているばかりではなく、気候変動が過去に予測していたよりもはるかに速く進展しているという兆しにも直面している。最近発刊された科学雑誌の調査によると、現在の状況が続けば、大規模な海洋破壊が予想され、一時最も安定していると思われていた南極大陸の氷河も急速に溶けているという。しかし、われわれ主要国には、これらの脅威に対処する表面的な努力さえみられない。

私はこのような私の懸念を、アジア·インスティチュートのメンバーであり、Foreign Policy in Focus所長の私の友人ジョン・フェッファーに相談した。彼は、気候変動を最優先の安全保障の脅威とみなす必要性について長い間、文章を書いてきた。米国が軍事経済から脱却するためにInstitute for Policy StudiesのMiriam Pembertonとともに多くの努力をしてきた人物である。

私たち二人は、1955年には認知されていなかった問題である気候変動を強調するラッセル - アインシュタイン宣言の新たなバージョンを作成した。また、ノーベル賞受賞者であるエリートグループではなく、全世界の誰もが署名できるように文書にした。

私はまた、2004年に米国民主党のデニス・クニシッチ議員の大統領予備選挙キャンペーンで一緒に働いていたデビッド・スワンソンとも相談した。彼は現在、World Beyond War所長として、戦争は人類社会ではもはや必要ではないという合意を引き出すために各方面で努力している。彼は私たちのこの宣言を活動家の幅広いグループに紹介し、新研究所であるForeign Policy in Focusとthe Asia Institute、World Beyond Warをこの新宣言の共同後援者とすることにした。

最後に、私はノーム·チョムスキーにこの宣言草案を送った。彼は快く署名するとともに、以下のようなコメントを送ってきた。

「今年1月、有名な「地球終末時計(Doomsday Clock)」が深夜0時の2分前を指した。30年前の世界大戦の危機以来、地球が終末に最も近づきつつあるのだ。継続する核戦争の脅威と「放置されている気候変動」が人類の文明を脅かしていることを警告する「戦争と気候変動の未来に関する宣言」は、ちょうど60年前の「ラッセル-アインシュタイン宣言」、つまりバートランド·ラッセルとアルバート·アインシュタインが世界の人々に「冷酷で恐ろしいが、避けられない」選択を直視するよう促したあの暗鬱な警告を思い出させる。「私たちは、人類の終末を迎えるのか?それとも戦争を放棄するのか?」今日、私たちに突きつけられているこのような選択肢は、人類の歴史をつうじてこれまで無かったものである」

ラッセル- アインシュタイン宣言60周年声明は以下のとおりである。

ラッセル-アインシュタイン宣言60周年声明書

戦争兵器と核、そして気候変動が将来的にもたらすリスクは増大しており、人類生存の脅威となっている。このような認識のもと、われわれは、みずからの目的のために戦争を手段として用いないこと、および国家間のすべての紛争を平和的な手段により解決することを世界の各国政府に求める。われわれは、また、世界のすべての政府がこれまで武力紛争に備えて費やしているあらゆる資源について、その目的を転換し、気候変動を緩和させ、持続可能な新たな地球規模の文明を創造するという、新しい建設的な目的のために活用するよう求める。

Foreign Policy in Focus、the Asia Institute、World Beyond Warはこの声明を支持し、2015年7月9日、共同で発表する。

どなたでも下のリンクからこの声明を支持する署名をすることができます。お知り合いにも勧めてください。

この声明はなぜ重要か?

ちょうど60年前の今日、バートランド·ラッセルとアルバート·アインシュタインを中心とした世界の指導的知識人たちがロンドンに集まり、水素爆弾の時代における共産圏と反共産圏とのあいだの紛争は、人類を全滅させるという警告を中核とした、いわゆる「ラッセル – アインシュタイン宣言」に署名した。

今日まで当時の知識人たちが憂慮した核戦争は勃発していないが、その危険性はたんに先延ばしになっているに過ぎない。最近のウクライナと中東における紛争によって核戦争の危機がより悲惨な形で再現されている。

さらに技術の急速な発展で核兵器だけでなく、同様の火力を持った大量破壊兵器を確保しようとする国と非国家活動勢力(non-state actors)が増加している。同時に、すでに核保有している国も核拡散防止条約(Non-Proliferation Treaty)において約束した備蓄核兵器破棄を実行できずにいる。

そして、私たちは現在、核戦争に匹敵する破壊的な結果につながりかねない気候変動(climate change)という生存の危機に直面している。貪欲な資源開発と化石燃料への過度の依存は、前例のない破壊的とも言うべき気候の変動を引き起こしている。目先の利益のためにおこなわれる森、湿地、海そして農地の継続的な破壊と一体となった持続不可能な経済膨張は、私達を地獄へと誘(いざな)おうとしている。

1955年の宣言には、「私たちが今この機会に発言しているのは、特定の国民や大陸や信条の一員としてではなく、存続が危ぶまれている人類、いわば人という種の一員としてである」と記されている。

今、私たちを魅了しつつ破滅へと導いてきた進歩と開発という歪曲され、誤解された考え方から脱する時が来た。

科学、文化、歴史をリードする人びとが私たちをこのような苦境に導いたことを考えると、知識人たちには、それぞれの専門知識と見識を用いたこのような誤導について特に責任があるだろう。

すべての分野の専門と行動の領域において、知識人たちは結果を考えずに目先の利益だけを追求する打算性としばしば彼らに失望し、誤解をうけて時に冷淡でさえある市民との間に立っている。

無謀な軍備拡大と犯罪的な環境破壊に対して抗議するのは、われわれのつとめである。皆ともに心をあわせて、われわれが声をあげる時が来た。