ロヒンギャ難民キャンプに差す一筋の光。自ら行動し始めた避難民ボランティア(現地ルポ)

避難民自身が、そして赤十字にも変化が起きた。

少数派のイスラム教徒ロヒンギャへの迫害が続くミャンマー。8月に西部ラカイン州でロヒンギャの武装集団が治安当局と衝突を起こして以来、隣国バングラデシュへ避難する人々は60万人を越える。

国連人権高等弁務官事務所の報告などによると、銃の乱射や居住地の破壊などのほか、女性への性暴力も多数の証言がある。国際社会からの批判を受けても、ミャンマー当局はロヒンギャを「不法移民」として扱い、国籍も与えていない。

苦境に立たされるロヒンギャ避難民。しかし、仲間の窮状を救おうと、避難民自らがボランティアとなって立ち上がった。バングラデシュ南部の避難民キャンプを訪れた、日本赤十字社の青木裕貴さんが、現地の状況をレポートする。(ハフポスト日本版編集部)

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私は10月初めから11月下旬まで、バングラデシュ南部のミャンマーからの避難民支援のため日本赤十字社ERU(Emergency Response Unit)の一員として活動していました。

ERUとは、緊急事態に被災地に迷惑をかけることなく対応できる人員・資材を保有した、赤十字の有する自立した部隊です。私は第二班で、主に日赤の支援を支えてくれる現地の協力者を募り、関係を構築することを任務としていました。

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JRCS

バングラデシュという外国では、日本人はその土地のことを知らない外国人にほかならないため、現地の人々の中から支援活動への協力者を見つけることは必要不可欠です。日赤もバングラデシュ赤新月社をサポートする形で現地活動を展開しましたが、避難民が話す独自の言語やキャンプ内での安全面の制約などから、バングラデシュ赤新月社だけでなく避難民自身の協力も得ることになりました。

当初は荷物運びや英語から避難民の言語への通訳、診療所に並ぶ患者の整列など限定的な形での協力でした。ところが、毎日のように日赤チームと巡回診療に帯同して支援活動にともに従事し、「より良い支援を届けるためにはどうすればよいのか、明日はどのように活動を展開するか」と話し合って解決していくにつれて「My team」や「Our team」といった呼び方で日赤ERUチームのことを指す避難民スタッフが次第に増えてきたことを私は鮮明に思い返します。

彼らが日赤の行う人道支援活動を自分たちの活動として捉え、自らの気づきや考えを他の避難民のために行動に移してくれる『ボランティア」に変わったのはこのころだったと思います。 

アブドゥル・ゴニさんは避難民スタッフの一人。日赤の診療所建設や安全情報の調査、地域への活動のお知らせなどにリーダーとして尽力してくれています。日赤の一員として活動に参加できることをとても誇りに思っています。「いろいろなことを相談してくれ、自分たちの声をより支援の必要な人に届くために活用してくれる。」と言います。

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避難民スタッフのゴニさん(右)
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そして「私たちは常に人々からの注目を集めており、私たちの行動は他の避難民に真似されてしまうことを私はいつも意識しています。だから避難民であろうとも身なりをきちんとして、地域から尊敬される行いを常に心がけるように他のスタッフにもよく言っているんです。」と続けました。私はこの言葉を聞いて胸を打たれました。

日本人である私たちの支援は、あくまでも日本人の経験と知識を頼ってバングラデシュ赤新月社の活動を側面支援しているにすぎませんが、ゴニさんのような避難民の協力者が、実は、誰よりも強く日赤チームの一員だということ自覚し、状況をより良くすることを最も願っているということに改めて気づかされました。

その後、私は活動のエンブレムである赤十字・赤新月の標章を彼らにも身に着けてもらい、れっきとした赤十字・赤新月ボランティアとして「気づき・考え・実行する」ことを実践してもらえないかと考えるようになりました。

日赤事業地を起点として、地域に拡がる清掃活動や自然災害への備えとして、防災組織の設置や避難計画の周知など、避難民の中でより脆弱性を軽減するようなコミュニティーをつくっていくことはできないか志向するようになりました。

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大谷看護師(右)
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当時、バングラデシュ赤新月社では避難民の中からボランティアを組織することを許されていませんでした。赤十字ボランティアやスタッフはキャンプ内に24時間留まることが安全管理上、許されていなかったことも一因でした。

また、避難民との協力関係はあくまでも資材の運び入れや通訳に限定されていたため、赤十字・赤新月標章の使用基準に達していませんでした。赤十字・赤新月の標章は国際人道法にもその使用基準が定められており、命と健康、尊厳が脅かされる状況での「保護」を究極的に保障するものです。したがって、その使用には「誤用」や「不正」、「搾取」等を防ぐためにも慎重を期することが必要なのです。

私はバングラデシュ赤新月社の幹部も交えて協議を始めました。赤十字・赤新月運動の中でいかにボランティアがいかに大切なことか、避難民がいつまで続くかもわからない避難生活の中でレジリエンス(脆弱性を自ら軽減し、逆境に立ち向かう力)を高めることがいかに有効なアプローチか、赤十字・赤新月運動の一部を担う気持ちを彼らに抱いてほしいということを伝えました。

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日本赤十字の山田圭吾医師
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診療にあたるマウリツィオ医師
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香港からの日赤スタッフ、ペギーさん
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日赤には外国において避難民に身分証を付与する権限もないことや、今度はホストコミュニティー(避難民を受け入れているもともと存在していたコミュニティー)に対する差別につながらないかなど厳しい現実があり、バングラデシュ赤新月社との協議プロセスは必要不可欠でした。

日赤チームとしてのこうした打診は11月5日、これを受けてバングラデシュ赤新月社は11月19日に避難民の中から赤十字ボランティアを動員することを認めるなど規定したコミュニティーボランティアガイドラインを現地で活動するすべての赤十字・赤新月社に発布しました。

避難民のボランティア登録作業は私が帰国する時期に始まりましたが、ボランティアへの登録には、バングラデシュ政府発行の身分証明書番号や、「マジ」と呼ばれる避難民を統率する自治会長の承認、赤十字の行動規範への署名など一定の過程が必要で、日赤の避難民スタッフも現在登録手続き中です。

今日、私の後任者からメールが来ました。相変わらず英語のできる女性を探すのが難しいこと、そして「何をするにもゴニさんなくして進めることができないので、引っ張りだこです。早朝から夜遅くまで、お願いしたことは嫌な顔一つせずいつも助けてくれます。」と。ゴニさんのこぎれいな格好が目に浮かびました。

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日本赤十字社

青木裕貴(あおきゆうき)

日本赤十字社事業局国際部開発協力課 主事

1989年生まれ、香川県高松市出身。

香川県立高松高等学校、上智大学外国語学部ロシア語学科卒業後、2013年に日本赤十字社に入社。葛飾赤十字産院で病院勤務を経て2017年4月より現職。2016年熊本地震では葛飾赤十字産院の救護班として、熊本における救護班活動に従事。現在は国際部開発協力課で、発展途上国の赤十字・赤新月社を通じた開発協力事業の展開を担当している。