ビルマの差別的な国籍法はロヒンギャ民族にビルマ国籍を認めないだけではない。数十年にわたって組織的な人権侵害を促してもいる。この法律を改正し、国際基準に合わせることは、長期化した過酷な人権侵害の解決に向けた第一歩となる。
■1982年法律による抑圧の激化 基本的権利を奪われるロヒンギャ民族ムスリム
(ニューヨーク)ビルマ政府は国連の要求を受け入れ、ロヒンギャ民族ムスリムにビルマ国籍を認めない差別的な法律を改正すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチはテイン・セイン大統領に宛てた本日付の書簡で述べた。
2014年12月29日、国連総会はビルマ政府に対し、1982年国籍法を改正し、ロヒンギャ民族への差別解消を求める決議を採択した。ビルマの歴代政権は、現テイン・セイン政権を含め、完全な国籍付与の対象となる公認135民族からロヒンギャ民族を除外し、この法律を根拠に推計80万~130万人とされるロヒンギャ民族にビルマ国籍を認めていない。
「ビルマの差別的な国籍法はロヒンギャ民族にビルマ国籍を認めないだけではない。数十年にわたって組織的な人権侵害を促してもいる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「この法律を改正し、国際基準に合わせることは、長期化した過酷な人権侵害の解決に向けた第一歩となる。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマのロヒンギャ民族への深刻な人権侵害を長年にわたり明らかにしてきた。その一部は民族浄化や人道に対する罪に該当する。
ビルマ政府は国連の支援を受け、国籍法を改正して国際基準に適合させるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。改正が行われれば、ロヒンギャ民族には差別されずに完全な国籍が与えられる。子どもたちが無国籍者になることもない。「準国民」といった二級市民を示すカテゴリーの存在は、地元当局者に対し、マイノリティ集団に完全な権利を認めない法的手段と官僚的な裁量権を与えている。直ちに廃止すべきだ。
「ロヒンギャ民族への劣悪な処遇は、ビルマ政府が取り組む人権改革に大きな影を投げかけている」と、前出のアダムス局長は指摘した。「政府のロヒンギャ民族政策が誘発した悲惨な事態が救済されないことは、抑圧が継続する1つの理由だ。」
アラカン民族仏教徒とロヒンギャ民族などムスリムとの宗派間対立は、2012年に2度起きた。約167人が死亡し、各地で建物が破壊された。2012年10月に起きた2度目の暴力事件では、政府の支援を受けて人道に対する罪が犯され、ロヒンギャ民族をアラカン州の都市部から追い出す民族浄化作戦が実施された。アラカン州各地の避難民キャンプでは、ロヒンギャ民族とアラカン民族14万人以上が今も生活する。多くのロヒンギャが受け取ることのできる支援はごく基本的なものだけで、しかも不十分だ。政府が支援を制限し、アラカンのウルトラ民族主義者が国際援助要員に対する脅迫を行っているからだ。
2014年3月から4月にビルマでは、国連人口基金の支援を受けて政府が国勢調査を行った。ただし自分の民族を「ロヒンギャ」と答えた人はカウントされていない。速報集計値が8月に発表されたが、109万人がカウントされていなかった。
元の土地に戻れない状況が長期化していることを受け、政府は「ラカイン州行動計画」の草案を作成していたことが、2014年9月にマスコミ報道で明らかになった。行動計画には差別的な条項が存在する。もし実施されれば、ロヒンギャ民族は長期的に隔離され、無国籍化が国の方針となる。公開予定から何ヶ月も経過している現在も、「ラカイン州行動計画」はまだ公開されていない。対象となる地域では懸念が高まっている。
テイン・セイン大統領は、避難民問題などアラカン州の人道問題を解決する「行動計画」を策定するにあたり、強制移住、民族集団の隔離など国際人権法違反の措置を含めないことを確約すべきだ。政府が行うべきは、避難民が、安全かつ尊厳を持って自宅や元住んでいた場所に自発的に帰還するか、国内の他地域に自発的に移住するための条件を整備し、移動に関する手段を提供することだ。
「ビルマ政府はロヒンギャ民族に関して、隔離の永続化と基本的自由の否定を正式なものとするような政策を検討している」と、アダムス局長は述べた。「関係各国はこうした茶番劇に付き合うのではなく、ロヒンギャ民族に法の下の平等に基づく完全な国籍を与えるよう強く求めるべきだ。」
(2015年1月14日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)