ロヒンギャの女性、7年の投獄をへて社会起業家になる。「特定の少数民族だけ支援しても平和は来ない」

ロヒンギャのウェイウェイ・ヌーさんは、父親がアウンサン・スーチーさんと行動をともにした理由で家族もろとも逮捕され、18歳からの7年間を刑務所で過ごした。そこで悟ったのは、「特定の少数民族だけを支援していても、そこから平和は生み出されない」ということだった。
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ウェイウェイ・ヌーさん
Earth Company

ミャンマーの少数民族ロヒンギャ族出身で、世界が注目する女性がいる。社会起業家のウェイウェイ・ヌーさん(32歳)。

ヤンゴンに設立した教育施設では、約6年間で2500人を超える若者や女性、少数民族らに教育を提供してきた。

社会変革を起こす人や団体を支援している一般社団法人Earth Company(アースカンパニー)は、毎年一人選出している「IMPACT HERO」にウェイウェイさんを決定。

3年間の包括的なサポートを実施するプログラムだ。その一環としてクラウドファンディングを通じて、彼女の活動への支援を呼びかけている。

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食料や住宅用資材を運ぶ難民たちが行き交う=2018年8月、バングラデシュ南東部コックスバザール、朝日新聞社撮影
朝日新聞社

焼き打ち、略奪、レイプ......

ミャンマーは135もの少数民族で構成され、独自の言語を話す民族も多い。

1948年の独立から1989年までは、国名をビルマ連邦とし、長いあいだ軍事政権が続いていた。

2010年以降にようやく民主化が進むが、現在もまだ少数民族への弾圧は続いている。

ロヒンギャ族はミャンマー西部のラカイン州で暮らしている、イスラム系の少数民族。ミャンマーでは国民の90%が仏教徒であるため、政府は彼らをミャンマーの国民と認めていない。

そのためにロヒンギャ族の人々はミャンマーで生まれたにも関わらず無国籍となり、長い間差別や他民族からの迫害に苦しんできた。

2017年になると、さらに状況は悪化。ロヒンギャ系の武装勢力の襲撃に対するミャンマー軍の報復をきっかけとして、迫害が劇化した。

村が焼き尽くされる、略奪、レイプ、撲殺など……これまでにない命の危機がせまり、彼らの多くは生まれた国から離れることになった。

隣の国であるバングラデシュに逃れたロヒンギャ族は、2018年1月の時点で100万人を超えた。

自分の国を出て難民になってしまうと、安住の地を見つけるまでとても長い時間がかかる。

世界では難民の5人に4人が5年以上の避難生活を送っており、5人に1人が20年間以上の避難生活を強いられているという(「UNHCR Global Trends 2018」より)。

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起伏の激しい土地に簡易住居が密集して立てられている難民キャンプ=2018年8月、バングラデシュ南東部コックスバザール、朝日新聞社撮影
朝日新聞社

7年間の刑務所暮らしで悟ったこと

ロヒンギャ族に生まれたウェイウェイさんの運命が一転したのは2005年のことだ。

「父親が議会で、アウンサン・スーチーさんと行動をともにした」という理由だけで家族全員が逮捕され、18歳からの7年間、自由がまったくない劣悪な環境の刑務所で過ごす。

大学生だったウェイウェイさんは勉強ができる場に復帰できることを願いながら、共に暮らすことになった異なる文化をもつ女性たちと対話を重ねた。

彼女の思いについて、アースカンパニー代表の濱川明日香さんはこう指摘する。

「そこには彼女がこれまで接してきたロヒンギャ族だけでなく、さまざまな宗教的バックグラウンドを持った多くの女性たちがいたのです。この出会いによって彼女は『対立や憎しみから、平和が生まれることはない』『変わるのを待つのではなく、私がこの国を変えたい』と決意しました」

数年にわたって多民族の人々と共に過ごした経験から、ウェイウェイさんは「民族間の争いが起きるのは、お互いを理解し合う教育が不足しているためであり、教育こそが自由と平和、民族間の信頼関係を築く」と確信。

2012年の釈放後、ミャンマーの平和構築のための教育施設ヤンゴン・ユース・リーダーシップセンターを設立した。

「100人の女性」に選ばれる

ウェイウェイさんが刑務所で学んだことは、「特定の少数民族だけを支援していても、そこから平和は生み出されない」ことだった。

そこでユース・リーダーシップセンターでは、少数民族だけでなく国内の多数派である仏教徒も対象にして、民族を超えた平和構築を行える政治・リーダーシップ教育を提供。

この教育施設は2013年の設立から6年が経過し、民族や宗教観による偏見や差別をもたない16〜30歳の新しい時代のリーダー候補が2500人も誕生している。

 濱川さんは言う。

「ミャンマーにおいては、単独の民族だけで構成された教育施設はあっても、ロヒンギャ族と仏教徒が同じ場所で過ごす学びの場は存在していませんでした。敵対していた関係性から実現に至ったのは、危険を顧みず仏教徒にも教育の必要性を伝え、ついに彼らからも信頼を獲得したウェイウェイだからこそです」

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ウェイウェイさんがヤンゴンに設立したユース・リーダーシップセンター
Earth Company

さまざまな部族から平和に対する共通の認識をもったリーダーを育成するプログラムは、世界から認められ、ウェイウェイさんは注目を集めている。

2014年には「英国BBCが選ぶ100人の女性」、2017年には「米国TIME誌の次世代リーダー」に選ばれた。

2018年には「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出され、世界中のトップリーダー達が集まるダボス会議で登壇。現在では、ホワイトハウスや国連でも定期的に講演を行なっている。

難航する資金集め 

だが、活動資金の確保は難航している、と濱川さんは明かす。

「それほど有名であるなら、資金は豊富でスポンサーも多くついているのでは?と思われるかもしれません。確かにこれまでは海外の助成団体が複数、彼女の活動を支援してきました。しかし、ウェイウェイ自身の安全を確保するために拠点をアメリカに移したことをきっかけとして、居住地が助成金の基準から外れ、今年の活動に必要な金額を確保できなくなってしまいました」

「活動の一部では彼女の個人資金が充てられていますが、ユース・リーダーシップセンターの運営費用は個人で対応できる額ではありません」

迫害の対象であったはずの少数民族でありながら、敵対していたはずのミャンマー人仏教徒からもリスペクトされ、活動を尊重される指導者は貴重な存在だ。

さらに国際的にも信頼を集めている。トップダウン&ボトムアップの双方向からこの問題に対してアプローチができる若きリーダーは彼女しかいない。

アースカンパニーは、IMPACT HERO支援事業として、今年度から3年間にわたり彼女の活動を支援していくことにしている。短期的な資金援助にとどまらず、活動や団体の運営を継続して続けていくためのノウハウ提供や、継続して活動をしていくための運営資金をつくる仕組みづくりなどを通じて、精神的にも寄り添い、支えていくという。

 濱川さんは、「今回のクラウドファンディングで一時的な資金援助を行うだけでなく、継続して安定した収益事業を行えるよう環境を整えていきます」と話す。

 クラウドファンディングによる支援の受け付けは、8月12日まで。詳細はこちら

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ウェイウェイさん(左)とアースカンパニー代表の濱川明日香さん
Earth Company

(取材・執筆=小松田久美 /story’s base Inc.)