現代アートからエンターテインメント、マンガやアニメなど幅広いジャンルの作品を集めた第20回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展が16日から28日まで東京・新宿で開催されている。NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)と隣接する東京オペラシティアートギャラリー(東京・初台)がメイン会場で、入場は無料。
メディア芸術祭はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門があり、優れた作品を顕彰する。20回目となる今回は世界88の国と地域から4034作品の応募があったうち、受賞作品展では、入賞作品など150作品以上が紹介されている。受賞作品には、映画「シン・ゴジラ」や「君の名は」、スマホゲーム「ポケモンGO」など、昨年ヒットした作品がずらりと並ぶ一方で、最先端のテクノロジーを活用した作品も多く、作品展では誰でもこれらを体験できる貴重な機会でもある。ここでは、ぜひ体験したい、最先端のテクノロジーを活用した作品を紹介する。
カーブしているのに真っ直ぐ歩くーー空間知覚をハックするVR
ICCと東京オペラシティアートギャラリーが入る東京オペラシティビルに入り、エスカレーターを2階へ上がると、まず目に入るのが、エレベーターホール前のスペースに置かれている、こちらの作品だ。
写真左側の人のように、壁に手を添えながら歩いて体験する。
エンターテインメント部門優秀賞を受賞した「Unlimited Corridor」というVRシステムで、東京大学の廣瀬・谷川・鳴海研究室とUnity Technologies Japan合同会社との共同作品だ。VRヘッドセットを被り、壁に手を添えながら歩く。視界に入る映像では、高いビルの上を真っ直ぐに歩き、風船を取りに行くという設定。実際は、円柱の壁に沿ってカーブして歩いているにも関わらず、体験すると主観では真っ直ぐ歩いているようにしか感じられない。
この作品では、こうした自身の空間知覚がハックされたような状態を体験できる。筆者は仕組みを知った上で数回体験しているが、それでも今回も真っ直ぐ歩いているとしか感じられなかった。人が認識する知覚はあいまいなものだ。
VRヘッドセットにモーショントラッキング用のマーカーを付けたものを装着し、PCを背負って壁に沿って歩く。
Unlimited Corridorの動画はこちらで公開されている。
生命のような動きのロボット
エスカレーターを4階まで上がると、ICCの入り口だ。そのままICCに入り、左手の階段を上がり5階へ。右手奥の部屋に入ると、少し不思議なロボットが現われる。
これは、アート部門優秀賞を受賞した「Alter(オルタ)」。アンドロイド開発に取り組む大阪大学教授の石黒浩さんと、人工生命の研究を進める東京大学教授の池上高志さんによる作品だ。
機械の部分がむき出しになり、一見機械的な印象が強いが、特徴的なのはその動きだ。不規則ながら滑らかな腕や手、首などの動きから、見た目が明らかにロボットであっても生命を感じられるようにするのが狙いだ。この動きは、ぜひその場で体験して欲しい。
産業機械と地史学をつなぐ機械
オルタが生命を目指したロボットならば、いかにも機械らしい作品が、アート部門優秀賞の「Jller(イラー)」という、東京大学でロボット工学を学んだドイツのBenjamin MAUSさんと、チェコ出身のProkop BARTONÍČEKによる作品だ。
右側にひとつひとつ並べられた小石を、中央の機械が移動しながら形や色を認識して分類していく。
ここに並んでいるのは作品名にもなっているイラー川から採取した小石。これを、機械が画像認識をして、見た目に応じてそれに対応する地質年代別に分類して並べ直すというシステムだ。もともと産業オートメーションと地史学をつなぐ研究プロジェクトから発表されたという。
Jllerの動画はこちらで公開されている。
いつまでも眺め続けていたくなる。
ポケモンと記念撮影、ポケモンGOをVRで
昨年7月に公開されるやいなや、世界的な大ヒットとなったポケモンGOはエンターテインメント部門優秀賞を受賞。東京オペラシティアートギャラリー3階へ移動して、ぜひ体験したいのが、「ポケモンGO VR」とも言えるインスタレーション「Pokémon GO 相棒ポケモンと記念撮影!」だ。ナイアンティックとライゾマティクスリサーチが開発した。
床と壁2面に映像が投影されている。ミュウツー(左)と前出のUnlimited Corridor制作チームの鳴海拓志さん(ポケモンGOはレベル38)。
一緒に撮影できるポケモンはピカチュー、ヒトカゲ、ゼニガメなど6匹から自由に選べる。
スタッフが持っている自撮り棒につけたiPhoneで撮影した画像。自撮り棒には、モーショントラッキング用のマーカーがついており、自分のスマホで自動的に位置を合わせてポケモンと一緒に撮影ができる。
49日をロボットと過ごす、デジタルシャーマン
東京オペラシティアートギャラリー3階をさらに奥に進むと、ロボットのPepper(ペッパー)にお面をかぶせた展示がアーティストの市原えつ子さんによる「デジタルシャーマン・プロジェクト」だ。エンターテインメント部門優秀賞を受賞した。
市原さん(左)と市原さんのお面を被ったペッパー。
仏教では、故人の魂は死後49日の間は現世とあの世の間を漂っているとされている。デジタルシャーマン・プロジェクトは、この49日間の間に、ロボットに故人を「憑依」させ遺された人たちが一緒に過ごすというコンセプトの作品だ。3Dプリンタで作ったお面をかぶったペッパーが、生前に録音した音声で話しかけてくれる。
ここでは、(まだ存命だが)市原さん自身のほか、数人の音声とお面でデジタルシャーマンの世界を体験できる。
アートもテクノロジーも、言葉にしにくい人間や社会の実体や未来を感じさせてくれる。ここで紹介した作品は、他ではあまり体験できる機会がない。ぜひこの機会に、未来を感じさせてくれる最先端のテクノロジーの世界を楽しんで体験してみてはどうだろうか。