「写真-1」は、高さ21.5センチメートルの遠隔操作型の小型ロボット「OriHime(オリヒメ)」である。開発者はコミュニケーションを支援する「分身ロボット」、または「こころを運ぶ道具」と表現している。また、最近では企業でのユニークな活用も始まっているようだ。その特長を簡略に述べる。
<OriHimeは簡単な操作でユニークな特長を発揮>
初めて「OriHime」と対面すると、まずその特徴的な少し怖可愛いとでも表現するツルリとした顔が目に飛び込んでくる。このデザインの意図は、無表情でも音声表現や上体の動き、ポーズなどで色々な表情に見える「能面」を参考にしたという。
本体にはカメラ(眉間上)、マイク、スピーカーを内蔵し、インターネットを使い遠くの相手とビデオ通話ができる。さらに、操作者はスマホやPCで専用アプリを使い遠隔操作でOriHimeの首を上下左右に自由に動かし、内蔵カメラで操作者の見たい周囲の様子や話し相手の表情を見ることなどができる。
さらに、アクションボタン(写真-1参照)による簡単な操作で、例えば「喜ぶ」「照れる」「困る」などの感情表現(写真-2参照)を可能とでき、ビデオ電話のコミュニケーションにリアルタイムで付加し対応できる。
この事によってOriHimeを前にした遠方の話相手は、まるで操作者がOriHimeに一体化したような感覚でコミュニケーションが取れるという。また、操作者は家族や友人などの協力を得てOriHimeを目的とする場所や友人達との旅行に同行させてもらえれば、この機器の持つユニークなポーズなどの機能を活用して、友人達との楽しい時間を共有することもできよう。
<活用例>
次にOriHimeのその他の活用方法をオリィ研究所のホームページやヒアリング内容をヒントに想像してみよう。
例えば、風邪を引いた祖母が、自分で散歩できないので孫にOriHimeを持って外出してもらい、祖母と孫はOriHimeを通して会話しながら、あたかも祖母が散歩していうような感覚を味わうことができた。
あるいは、学校の責任者にOriHime活用の了解が得られれば、怪我で長期入院中の児童が、OriHimeを通じて、学校で授業を受けたり、昼休みに友人たちとコミュニケーションすることも可能になる。
この他にも、遠方に住む高齢の祖父母が孫の結婚式と披露宴に参加を希望するものの、距離と体力の問題で移動が難しい場合などにOriHimeで参加することも可能になる。今後、さらに高齢化が進行する日本において、とても価値あるサービスとなろう。
また、最近では企業におけるテレワークの分野で活用が始まっており、在宅の管理職と若手社員のミーティングにこのOriHimeを活用するような事例も登場しているようである。
このほか、同研究所では2017年度に厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業(平成29年度)」の採択事業で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの重度肢体不自由者に対する視線入力型オフィス業務補助ツール(デジタル透明文字盤(OriHime eye))の開発などをも進めている。
筆者はOriHimeの応用分野や需要はまだ数多くあると思っており、それらサービス提供環境の充実やOriHimeの需要拡大と共に同研究所の今後の取組に注目したい。
[コミュニケーション分野の新たな動き]
以上、遠隔操作型の小型コミュニケーションロボットであるOriHimeの特徴や活用シーンを解説してきた。一般的にコミュニケーションロボットと言うと、人とロボットがコミュニケーションするシーンを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし、この「分身ロボット」はそうでなく、「ロボットを使って人とコミュニケーションする。(開発者)」というコミュニケーションロボットである(傍点は筆者)。
しかし、OriHimeにしても様々なタイプの介護ロボットにしても、分類上はサービスロボットに属していることには間違いないだろう。そして、そのサービスロボットの活用で最も重要な点は、提供するサービス(コト)の内容である。
だからと言ってロボット(=モノ)を軽視しているのでなく、サービスを生み出し提供する上で、ロボットの重要性は普遍である。
この質の高い"コト"を継続して生み出し"人"と"人"の結びつきを支援していけるかどうかが、色々あるコミュニケーションロボットの役割の一つではないだろうか。
今後とも様々なタイプのコミュニケーションロボットが登場してこようが、少子高齢化社会の様々な局面で広く役立つロボットの登場に期待する。
関連レポート
(2018年3月27日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 准主任研究員