定年後の3大リスクは、「お金」、「健康」、「孤立」ではないだろうか。高齢期の暮らしを支えるために経済面では年金制度が、健康面では医療・介護保険制度がある。もちろんそれで十分とは言わないが、3つ目の「孤立」に関しては支援する社会制度がほとんどないのが現状だ。
定年後も社会とのつながりを保ち、社会的に孤立しないためにはどうすればよいのだろうか。誰もが永遠に生きられるわけではないが、死後数週間も発見されないような「孤立死」だけは避けたいと多くの人が願っているだろう。
今年1月、イギリスのメイ首相が「孤独担当大臣」(Minister for Loneliness)を新設した。イギリスでは、年齢に関わらず900万人以上の人たちが「孤独」に陥り、多くが生きづらさを感じているという。
「孤独」であることは、一日にたばこを15本吸うのと同程度の健康被害をもたらし、そのためイギリスの国家経済に与える損害は年間320億ポンド(約4.7兆円)にのぼるという。
高齢化により一人暮らしの人が増える中で、高齢者の「孤独」や社会的孤立を防ぐ方法が模索され始めているのだ。
内閣府『平成29年版高齢社会白書』では、2015年の高齢者のいる世帯は全世帯の約半数にのぼり、単独世帯は624万世帯と高齢世帯の26.3%を占める。一人暮らし高齢者は男性192万人、女性400万人、各高齢人口の13.3%と21.1%を占めている。
地域での付き合いの程度をみると、男性の4人に1人、女性の5人に1人は『付き合いがない』状況にある。60歳以上一人暮らしの人の4割以上が「孤立死」(誰にも看取られることなく、亡くなったあとに発見される死)を身近な問題と感じているのだ。
一方、社会的な「孤立」に対して主観的な「孤独」を恐れる必要はない。
作家の五木寛之さんは、近著『孤独のすすめ~人生後半の生き方』(中公新書ラクレ、2017年)の中で、『歳を重ねるごとに孤独に強くなり、孤独のすばらしさを知る。孤立を恐れず、孤独を楽しむのは、人生後半期のすごく充実した生き方のひとつだと思うのです』と述べている。自律した人間は「孤独」も楽しめるのだろう。
子どもが遊ぶ公園などの遊具には、必ず「ケガ」という「リスク」が潜む。まったくリスクがなければワクワクする冒険体験はない。
定年後の「孤立」リスクも、適切にマネジメントすることで幸せな人生に変わる。哲学者・三木清の『人生論ノート』(新潮文庫、1954年)には、『孤独が恐ろしいのは、孤独そのもののためでなく、むしろ孤独の条件によってである。(中略)孤独は山になく、街にある。
一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の「間」にあるのである』と記されている。定年後の「孤立」リスクを避け「孤独」を愉しむためには、現役時代から自律した「個」に立脚した「個立」が重要ではないだろうか。
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(2018年3月20日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員