集団的自衛権はどう変わる? 安保法制懇の報告書と政府方針の行方

安倍首相が設置した有識者による安保法制懇は、これまでは憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使の解釈変更を求める内容を報告書に盛り込む。具体的にどのように変わるのか。
Open Image Modal
時事通信社

安倍首相が設置した有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」は、連休明けに提出する報告書の中で、これまでは憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使について、解釈変更を求める内容を盛り込む。

行使にあたっては、首相の総合判断や国会承認など6つの条件が必要としているが、報告書は多国籍軍への燃料補給などにも言及されるとみられており、自衛隊の海外派遣に歯止めが効かなくなると懸念する声も出ている。4月27日、47NEWSが報じた。

(安保法制懇の)報告書は中国の海洋進出などを念頭に、アジアの安全保障環境の変化を指摘し、現行憲法解釈の変更を要請する。

 

行使条件として(首相の総合判断や国会承認の他に)①放置すれば日本の安全に重大な影響が出る場合②日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合③同盟国など連携相手から明示的な要請があった場合④第三国の領域を通過する場合には許可を得る―を挙げる。当初は、首相判断と国会承認を同一項目で扱い「5条件」としていたが、切り離して強調する方針に転じた。

 

(47NEWS『【集団的自衛権】 行使容認へ「文民統制」強調  法制懇5月中旬に報告書 憲法解釈変更へ作業加速』より 2014/04/27 10:57)

■集団的自衛権とは何か、これまでの制限は?

集団的自衛権は、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていなくても武力を用いて阻止することができる権利のことで、国際法で認められているものである。

日本も主権国家であるとして集団的自衛権を保有しているが、これまでの政府は「我が国は国際法上、集団的自衛権は保有するが、行使することは憲法上許されない」としてきた。自衛権の行使は、日本に対する武力攻撃が発生したことが第一条件とされているためだ。イラク等に自衛隊を派遣する場合も、自衛隊の活動を「非戦闘地域」のみに限定するなどの特別な法律を作って、武力の行使を行わないとするなどとしてきた。

この政府解釈を見直すべきかどうかを議論するために、安倍首相が設置したのが「安保法制懇」だ。会合では、時代とともに刻々と変わる安全保障環境を見据えて「日本の領海で潜没航行する外国潜水艦が、退去命令に従わない場合にどうすべきか」、「事態認定や命令に必要な手続を経る間に、事態の収拾が困難になる場合も考えられるがどうすべきか」など、という他国からの武力攻撃に至らない「グレーゾーン」と呼ばれる事態についても議論が行われた。

安保法制懇は連休明けにも、これまでの議論をまとめた報告書を提出する見込みで、日本の公海上で自衛隊と並走するアメリカ艦船の防護に関する規定や、日本の医療NGOが難民キャンプで物資を強奪され、動きがとれないときなどの対応に関する規定なども盛り込まれる。

■多国籍軍に参加? 集団的安全保障の議論も

また、報告書では、憲法が武力行使を禁じる「国際紛争」についても、「日本が当事者となる場合」と限定する新たな解釈を政府に要請する。

国際紛争における武力行使の放棄について、現在の政府は「全ての国際紛争」が該当するとしている。これが「日本が当事者となる場合」に変更されれば、日本が当事国にならない限り、国外の離れた場所への自衛隊派遣も「非戦闘地域」に限らず可能となり、自衛隊の海外派遣に歯止めがかからなくなる恐れもある。

安保法制懇は、国連決議がある多国籍軍ならば戦闘地域でも支援できるよう提言する。ただし、自衛隊による直接の武力行使は示さず、兵士や武器の輸送、負傷兵の治療などの後方支援活動のみを例示するという。

■報告書提出後の政府方針の動き

政府はこの報告書提出を受け、憲法解釈変更の原案となる「政府方針」を策定。与党協議を経て、夏以降に閣議決定する方針だ。

政府は政府方針に、集団的自衛権の行使容認に関係する5法案を先行して改正することを明記する方針を固めているが、集団的自衛権に慎重な公明党へ配慮して「集団的自衛権」という文言は使わない方向で調整しているという。MSN産経ニュースによると、先行して改正する5つの法律は、次の通り。

複数の政府関係者によると、政府が先行して法改正を進めるのは、自衛隊法と周辺事態法、国連平和維持活動(PKO)協力法、船舶検査活動法、武力攻撃事態対処法の5改正案。

 

これらのうち自衛隊法は他国による組織だった武力攻撃に至らない場合でも、自衛隊による領域警備を可能にすることが主な改正内容。PKO協力法の改正ではわが国の領域外での武器使用基準の緩和を目指す。船舶検査活動法は、米国を攻撃する国に武器を持ち込む船への立ち入り検査を可能にするよう改正する。

 

(MSN産経ニュース「集団的自衛権の行使容認 5法案先行改正 政府方針に明記へ 与党間調整にも配慮」より 2014/04/27 07:59)

4月に訪日したオバマ大統領が集団的自衛権に関する日本の取り組みを支持したことを受け、安倍首相は集団的自衛権の議論を加速させるとみられる。しかし「国際紛争」の定義変更などは、政府内でも慎重論が強いという。そのため、今後は与党間の調整が焦点になるとみられている。

関連記事