「戦争は若者の人生を奪っていくことを伝えたい」
2012年5月、カナダのトロントで開催されていたHot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭でドイツの名物映画・テレビ番組プロデューサーハンス・ロバート・アイゼンハウアーさんが熱く語っていたそうだ。
ハンス・ロバートが当時企画していたのはシリア内戦に巻き込まれる若者たちをテーマとしたドキュメンタリー映画で、後にサンダンス映画祭2014 ワールド・シネマ ドキュメンタリー部門 グランプリ(審査員賞)を受賞した「Return to Homs」(邦題:それでも僕は帰る ― シリア 若者たちが求め続けたふるさと(仮))だった。
人生を懸けるほどの想いで語りかけて来たというハンス・ロバート。その場に居合わせた関係者からその時の様子を聞くことが出来た。
私が完成した作品を観たのは今年に入ってからだった。アラブの春が吹き荒れるまではアジアで2番目と評されたこともあるほど将来を待望されたシリアサッカーユース代表選手、バセットが、戦闘員になり戦う姿や彼の故郷、ホムスの街が廃墟と化していく様子に衝撃を受けた。サッカーのゴールキーパーからスナイパーに。やがては戦闘員を任される武装勢力のリーダーへと転身していく...。
これまで観たどんな映画よりも衝撃を受けた理由は、シリア出身のタラール・デルキ監督自身がバセットと行動を共にし、真横で戦闘シーンを撮影しているからだろう。目の前で銃撃戦が繰り広げられる様子は、この上なくリアルだ。
この作品を配給すべきかどうか、随分と迷った。
国際映画賞をいくつも受賞するほどの作品だ。しかし、絶望したくなるほど暗い作品を日本で公開する意味はどこにあるのか?
自問自答をしばらく続けた後、「やってもいいかもしれない」と思うに至った理由は、平和国家日本の変わりゆく姿を危惧してのことだった。「武器輸出三原則」が「防衛装備移転三原則」となり原則禁止だった武器輸出が条件を満たせば認められるようになった。自衛隊は他国軍の後方支援のため随時海外派遣されることになる見通しだ。そして、来年の参院選後には憲法改正議論が活発化することがほぼ間違いない。憲法9条はどうなってしまうのか?
第二次世界大戦終結から70年。戦争の悲惨さを語れる体験者も少なくなりつつある今、リアルな今起きている戦争のドキュメンタリー映画を届け「決して戦争はしてはならない」という日本国憲法の誓いを再共有したいと思う。