「手書き履歴書で人柄がわかる」という勘違いへの対策(増沢隆太 人事コンサルタント)

これまで何万という採用の場面に関わり、採用する人事側、応募する側、いずれの立場も理解しているつもりですが、手書き履歴書の価値を検証することで、この論争の答も出せると思います。
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ネット上でたびたびホットな論争となる、履歴書は手書きで書くべきか、パソコン作成が良いかという論争は、オフィスにパソコンが普及したころからある対立意見です。先日もホリエモン氏が「今どき手書き履歴書なんて!」と否定的発言をして、また盛り上がりました。これまで何万という採用の場面に関わり、採用する人事側、応募する側、いずれの立場も理解しているつもりですが、手書き履歴書の価値を検証することで、この論争の答も出せると思います。

■手書きが評価される理由

ホリエモン氏のいうとおり、データでの取り扱いが容易なPC作成の履歴書は、IT企業やいろいろな意味で若い企業で重宝される傾向があるのは確かです。手書き履歴書でも、スキャンしてPDF化は可能ですが、ひと手間ふた手間めんどうが加わります。一方、手書きを評価する理由の多くは、「ていねいに書かれた履歴書は、それだけでていねいな人柄が感じられる」「仕事への取り組みへの真摯さがわかる」というような意見です。

確かにきれいな文字が好印象を呼ぶことは間違いありませんから、手書きが良いという理由は、正確には、美しい文字で手書きされた履歴書が評価されるからだということでしょう。小学生のころから習字が下手だった私は、中年の今でも文字には全く自信がありません。手書きをサポートする意見では、文字の上手下手ではなく、ていねいさを見ているのだと解説されることが多いのですが、下手な側からいえば、イケメン・美人に「人間は顔じゃない」といわれているようで、ちっとも納得感はありません。

そんな私も手書きで履歴書を書くことがあります。なぜか? 私が履歴書を求められる先のニーズが手書きだと判断したからです。国や地方自治体、公的組織、財閥系・大企業といったところの仕事で必要な場合、手書き必須と指定されなくとも、手書きが好まれるだろうという判断の下、そうしています。私と新たな契約をする側にとって、労働力や役務の提供ではなく、アイデアや原稿、トークのようなソフトとしての成果を求められる仕事をしている人間を採用する場合、その採否を判断する立場の方は、恐らく手書き履歴書を好む可能性が高いだろうと推定するからです。

■「文字を見れば人柄がわかる」幻想とその逆用

長年採用する側に関わってきましたが、企業の面接官をトレーニングする場合、一番困るのは「眼を見ればわかる」「顔つきが違う」といった、勘に基づく見た目だけで判断される経営者・幹部の方です。そういった方に、具体的にどんな目の色や顔つきが評価できるのか説明を求めても、一度も詳しい説明を聞いたことがありません。これは要するに雰囲気や外見の印象によって、勘で人物評価をしているのだと私は思います。

好ましい外見的印象は高収入につながるという説を唱える、テキサス大学のハマーメッシュ名誉教授の調査がよく紹介されますが、心理学的にも理にかなっています。ハロー効果といい、目につきやすい印象によって、全体の印象がゆがめられてしまうという現象があります。外見・身長・体格と収入の関係も、目につきやすい好印象は、その人のキャリア形成において相対的に好影響を与えていると考えられます。

人事コンサルティングの立場からは、少なくとも採用において勘だけによる判断は避けるべきだと述べています。ただ実際には見た目が良いことと収入が結びつくという調査があるように、印象の影響は絶大です。そうであれば、その幻想も利用すると考えてはどうでしょう。手書きで履歴書を書くのが正しいからではなく、自分が採用されるチャンスを拡大するためという目的ととらえ、手書き履歴書を好むであろう相手の求めそうなことを、履歴書記入でも徹底的に追及するのです。

履歴書は修正してはならないというのが、一般的ビジネスプロトコールですから、めんどうでもエンピツで下書きをして、ていねいに仕上げます。下書きをすることは、誤字が防げるだけでなく、ある程度の文字のクオリティも補正できます。達筆な人の倍以上の時間がかかっても、それが攻略の突破口になる可能性があるなら、時間とエネルギーをかけるに値する行為だといえます。写真を貼る場合も、貼り方だけでなく、写真そのもののクオリティにこだわるべきでしょう。

■手書きならオールマイティとは限らない

ホリエモン氏に代表される、手書き履歴書に否定的な経営者はいくらでもいます。実際に手書き履歴書を一切使わずに就職や転職に成功した人も、山ほどいることでしょう。手書きを好む採用者であったとしても、履歴書が手書きだから採用するわけではありません。しかし手書きであることに価値を感じる人が、一定層の経営幹部にいる以上、応募するポジションによっては、そこを読んで手書きかどうかを判断する必要があります。それが正解かどうかは誰にもわかりません。しかし大切なことは相手の求めることを読み、それに沿って対策を打つ思考過程にあります。

相手が手書き履歴書を好むかどうかの判断ポイントはいくつかあります。その応募する組織・企業・業界の歴史や経営者の年齢はかなり重要です。伝統がある、重厚長大な組織で手書きが求められる可能性は高まります。逆に応募プロセスが郵送ではなく、メールやデータアップロードでの提出を義務付けているのであれば、わざわざ手書き履歴書をPDFや画像で送ることを望んでいるとは考えにくいでしょう。

履歴書は採用選考の入り口に過ぎません。中途採用であれば、職務経歴書の方がはるかに選考上は重要です。採否が決まるのは通常複数回行われる面接においてです。面接におけるダイレクトなコミュニケーションを通じて、一般論での正解ではなく、その組織が求めている解を導き出せるかどうかという思考能力と判断力が測られています。しかし履歴書がその入り口を通らなければ、当然ゴールは無いのです。採用というゴールに至れた手法が正解です。それは一般論や声の大きい言説に乗ることではなく、しっかりとした思考と判断力の発揮によってなされるものです。

【参考記事】

(2015年5月6日「シェアーズカフェ・オンライン」より転載)