外食市場に「プチぜいたく」志向、低価格は苦戦も
株価上昇をもたらしたアベノミクス相場が始まって1年が経過し、外食市場にも大きな変動のうねりが押し寄せている。
「280円」の価格に代表される牛丼では、「低価格」に対する消費者の感応度が下がってきているのに対し、2000円前後のステーキや相対的に価格の高い焼肉などに人気が集まる傾向が鮮明になっている。来年4月の消費増税を前に外食各社は、商品構成や価格設定をより柔軟に変更し、消費者の「プチぜいたく」志向に対応しようとしている。
<円安・光熱費上昇、安値維持に打撃>
「牛めし(牛丼)280円という価格は大変なことだし、儲からない」―――。松屋フーズ
デフレ下で成長し、価格競争を繰り広げてきた牛丼各社。円安や原材料高騰、電気代上昇などのコスト高に見舞われるものの、「ウリ」にしていた低価格を止める決断にはなかなか踏み切れない。
ただ、企業体力を削ってまで提供する「280円」では、消費者は踊らなくなっている。松屋も期初の既存店の入店客数計画は前年比1.0%減だったが、中間決算時には同3.2%減に引き下げた。
2010年3月期に過去最高の売上高・利益を記録した「餃子の王将(王将フードサービス
牛丼の「すき家」を展開するゼンショーホールディングス
「すき家」は今月15―20日の5日間限定で、牛丼全品30円値下げを実施する。既存店売上高が10月まで26カ月連続で前年を下回る状況を打破したい考えだが、消費者にどこまで響くかは不透明だ。小川社長は、牛丼の値下げについて「デフレ・インフレ関係なく、ひとつのプロモーションのあり方」と割り切っている。
<ステーキや焼き肉が好調>
苦戦する牛丼とは対照的に、ゼンショーが展開する焼き肉店や寿司店の既存店売上高はプラスで推移しているという。
ステーキ・ハンバーグ店を展開するブロンコビリー
日本フードサービス協会の統計でも、9月は「焼き肉」が9.2%伸びるなど、高価格帯の外食が比較的好調になっている。業界関係者は「景気回復が最も顕著に出るのは外食。高額品が売れているとの報道などで世の中の空気も変わり、少しぜいたくをしようという流れになっている」とみている。
一方、フードビジネス総合研究所の山縣英起代表は、外食チェーンでの高級志向・高単価メニュー導入が相次いでいることは事実としながらも「消費者ニーズが高まったというよりも、報じられているアベノミクス効果も見込んで、期待して、企業側から仕掛けていったという側面が強い」とし、期待先行の面が強いとみている。高級食材・メニューを掲げた「俺のフレンチ・俺のイタリアン」が話題となり、行列ができたことも、高単価メニューブームに影響しているという。
<強まる高付加価値化の流れ>
消費者の目線が本当に切り上がったのか―――。確信は持てないながらも、高価格帯メニューの投入で品揃えに幅を持たせ、利益率も向上させようという流れは強まっている。
12年3月期、13年3月期と2年続けて100店舗以上の新規出店を行ってきた松屋は、今期、期初の50店舗の出店計画を引き下げ、25店舗にとどめる。25店舗の内訳は、牛めしの松屋6店舗に対し、とんかつ業態などを19店舗出店予定だ。注力するとんかつ業態は「競争が激しくない。昔はご馳走だったとんかつをいかに低価格で提供するかだ。客単価を引き上げて原価率を下げる」と、緑川社長は意気込みを語る。
ファミリーレストランでも高価格シフトの動きが出ている。ロイヤルホールディングス
日本フードサービス協会によると、2012年の外食産業の市場規模は前年比1.6%増で、大震災の影響を抜け出し、2年ぶりに増加に転じた。足元で株価上昇は一服しているものの、冬のボーナスは2年ぶりに増加が見込まれるなど、環境は悪くない。一方で、今回の「食品偽装」問題が、消費者の行動にどの程度影響を及ぼすか、高価格メニューに期待を寄せる企業の懸念材料となっている。[東京 15日 ロイター]
(清水律子 編集:田巻一彦)