近頃、研究者向けの巨大なソーシャルネットワークが急速に拡大している。ほんの数年前には想像できなかったような活況の理由を探るため、Natureはアンケート調査を実施した。
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(前編からの続き)
共有をめぐる対立
ハワイ大学ヒロ校(米国)の生態学者Laura Warmanは、多くの人と同じように、自分の論文がどのくらいの頻度で、いつ、どこでダウンロードされているかを追跡するために、Academia.eduに論文をアップロードしている。
「面白いことに、私の論文の中で最もダウンロードされているものは、最も引用されているものではないのです」と彼女は言う。
「正直なところ、こうしたサイトが私のキャリアに影響を及ぼすかどうかは分かりません。ただ、誰かが自分の研究を検討してくれていることを知るのが楽しいのです」。
Priceは、Academia.eduには300万編の論文がアップロードされていると話す。一方Madischは、ResearchGateを通して1400万編の論文にアクセスできると言う(その中に、他のサイトにある無料でアクセスできる論文を自動的に収集したものがどれだけ含まれているかは言わなかった)。
ペンシルべニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)のコンピューター科学者Madian Khabsaとウルヴァーハンプトン大学(英国)のコンピューター科学者Mike Thelwallが行った未発表の研究によると、2012年に出版された分子生物学分野の全論文の約4分の1の全文が2014年8月までにResearchGateから入手可能になったという。
実際、最近の論文は多くのサイトで容易に見つけることができる。2013年に欧州委員会のために行われた研究によると、2008~2011年に出版された生物学論文でオープンアクセス方式で出版されたものは18%だが、この分野の論文の57%は2013年4月にはインターネット上で読めるようになっていたという(Nature 500, 386-387; 2013)。
出版社は、これらのサイトが違法にアップロードされたコンテンツの公開コレクションになってしまうことを懸念している(Nature ダイジェスト 2017年8月号「著作権侵害に対して新方針を打ち出す学術出版社」参照)。
2013年末、エルゼビア社は自社が著作権を持つ論文を掲載しているAcademia.eduなどのサイトに対し、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除を要請した。その数は3000通に上る。Academia.eduはそれぞれの通知をユーザーに転送し、この決定に多くの人々が激しく抗議した。
削除要請通知を受け取った研究者の1人は、匿名を条件に本誌に、「著作権法に違反していない科学者を、私はほとんど知りません。出版社に気付かれないように用心するだけです」と語った。
Priceは、研究者向けの巨大SNSだけでなく、大学のオンラインリポジトリに投稿されたコンテンツにも同じ懸念があると指摘する(エルゼビア社は2013年に、後者に対してもDMCAに基づく削除要請通知を送付している)。
「この問題は、執筆した論文をインターネット上で自由に共有したい研究者と、彼らの論文を『有料コンテンツの壁』の向こうに隠して利益を上げたい出版社との多岐にわたる戦いの一部なのです」と彼は言う。
なお、多くの出版社は、研究者が最終的に受理された版の論文原稿をアップロードすることは許可しているが、最終版のPDFをアップロードすることは許可していない。
データの行方
巨大SNSサイトは、他の公開コンテンツを取り込むことで、研究をめぐる状況を大きく変える可能性がある。2014年3月には、ResearchGateがユーザー向けにOpen Reviewという機能を立ち上げ、既存の出版物に対して掘り下げた評論ができるようにした。
Madischによると、会員が投稿したレビューは、ほんの数カ月で1万件を超えたという。彼は、他に発表する場がないような否定的な結果を含め、生データもアップロードしてほしいと考えていて、今では毎日700件ずつ、そうしたデータがアップロードされているという。
Academia.eduのPriceは、出版後査読機能の立ち上げを計画している。「『信頼性の高い研究はどれか』ということをはっきりさせるためには、より良いフィルターシステムを構築する必要があります」と彼は言う。
この目標に異論を唱える人はほとんどいないだろう。だが研究者たちは、自身の研究データやレビューを新設SNSサイトに投稿しても、インターネット上の他の場所、例えば、自分自身のウェブサイトや、大学のリポジトリ、Dryadやfigshareなどの専門のデータ貯蔵サイト(figshareはシュプリンガー・ネイチャーと提携している)には投稿しない。
それはなぜだろうと、多くの人が不思議に感じている(Nature 500, 243-245; 2013)。Madischは、その答えはSNSのユーザーコミュニティーの急拡大にあると考えている。かの有名な「ネットワーク効果」だ。「ResearchGateに論文を投稿すれば、重要な人々の目にとまることができます」と彼は言う。しかし、ミシガン州立大学(米国イーストランシング)の計算科学者Titus Brownは、SNSサイトの生き残り戦略に不安を感じている。
「ResearchGateが収集した情報が、将来、ユーザーが不快に感じるようなやり方で同社の利益のために利用されてしまうのではないか、あるいは、そうしたもくろみを持つ人々に売却されてしまうのではないかと心配なのです」。
この懸念に対しMadischは、ResearchGateはユーザーのデータを売るつもりはなく、今でも求人情報を掲載することで利益を得ていると反論する(Academia.eduも同様)。ユーザーの28%が企業に所属する研究者であるため、将来的には、検査サービスや製品の市場をサイトに追加し、企業やその研究者を学者と結び付けたいというのが彼の希望だ。
Priceは、大学に組織分析を提供したいと言うが、Auclairをはじめとするアナリストたちは、研究者向けSNSはFacebookやTwitterよりはるかに狭い範囲の人々を標的にしているため、高収益を上げる見込みは小さいと考えている。
「最もあり得そうなのは、一定の規模まで成長したネットワークは買収され、その規模に達しなかったネットワークは消えてなくなるという未来です」と彼女は言う(これに対してMadischは、「ResearchGateが買収されたら個人的には失敗」だと言う)。
一方、Reicheltは、Mendeleyが研究協力のための世界的プラットフォームになったのは、2013年にエルゼビア社に買収され、Scopus(研究論文のデータベース)をはじめとする同社の他の製品と関連付けられて地位が向上したためと考えている。
Madischは、「将来、このレースを勝ち抜けるSNSは1つだけだと思います」と言う。あるいは、本誌のアンケート調査の結果が示しているように、分野ごとに異なるサイトが好まれるようになるのかもしれない。一部のアナリストは、数百万人のユーザーがいるにもかかわらず、研究者向けSNSは、その本質的な価値を立証できていないと考えている。
「あったら便利なツールですが、なくてはならないツールではありません」とAuclairは言う。これに対してPriceは、研究者向けSNSは無視できないトレンドの最前線にあると反論する。「市場は変化し、学者たちは論文をオープンに共有することを望んでいます。その潮流は、私たちが進む方向に影響を及ぼし始めています」。
Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | : 10.1038/ndigest.2017.170924
原文:Nature (2014-08-14) | : 10.1038/512126a | Scientists and the social network
Richard Van Noorden
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