在日ベトナム人を支える「レスキューコールセンター」開設へ。NHKドラマ「ベトナムのひかり」のモデル、服部匡志医師も協力。

身寄りもなく、単身で日本にやってくるベトナム人の悩みごとや質問に母国語で対応し、適切なケアを行う。
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HuffPost Japan

慢性的な人手不足の日本。外国からの労働者は、なくてはならない存在となっている。しかし、希望を抱いて来日した外国人労働者たちを待っているのは、低賃金、劣悪な労働環境という厳しい現実だ。

そんな中、外国人労働者の中でも大きな割合を占める在日ベトナム人をサポートしてきた人たちが中心となり、「レスキューコールセンター」を開設する準備が進んでいる。母国語でいつでも相談できる態勢を整え、日本での暮らしに安心・安全を感じてもらうのが狙いで、クラウドファンディング「A-port」(https://a-port.asahi.com/projects/vietnam-aid/)で支援を募っている。

■憧れの地・日本で体験する厳しい現実

現在、日本で働く外国人は、中国を抜いてベトナム国籍者が最も多くなっている。

「ベトナム人にとって、日本は憧れの地です。戦後、日本人がアメリカやヨーロッパに感じていたような気持ちで、日本に行ってみたいと思っているのです」

というのは、レスキューコールセンター開設に取り組む「一般社団法人在日ベトナム共済会」の理事で、在日ベトナム人二世の山本美香さんだ。

「ベトナム人は温厚で従順、シャイな国民性です。日本人には親近感を持っていて、豊かな国、憧れの日本で働きたいと希望を持ってやってくるのです」(山本さん)

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ベトナムと日本の架け橋として活躍する山本美香さん

しかし、その実態は、「ベトナムの年収分の金額を1ヵ月で稼げる」などという悪徳ブローカーの言葉に騙されて、というケースが多い。

貧しい暮らしから抜け出したい。その思いから多額の借金と親族一同の期待を背負い、語学留学生や技能実習生として来日し、聞いていた話とはあまりにも違う厳しい現実に直面する。低賃金や劣悪な労働環境に耐えきれず、職場から逃げ出して不法滞在となったり、犯罪に手を染めてしまったりするベトナム人もいるという。

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希望に胸を膨らませて来日するも、劣悪な労働条件や低賃金で働くことに

「通訳として入国管理局などで仕事をする中で、そのようなベトナム人の若者に数多く出会いました。もし、彼らに正しい情報をアドバイスするような場所があれば、という思いから在日ベトナム共済会を立ち上げました」(山本さん)

山本さん自身も、母親がボートピープルとして日本に定住した在日ベトナム人二世。2005年、7歳のときに来日。高校卒業後、アルバイトとして始めた通訳が評判を呼び、現在は本業として官公庁、民間企業、翻訳など多方面で活躍している。

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日本に来日した頃の山本さん(右)

■盲目のベトナム人を救ってきた眼科医・服部氏が名誉会長に

在日ベトナム共済会の設立には、山本さんの夫の山本恵氏、代表理事の山下茂氏、映画プロデューサーの竹本克明氏のほか、多数の仲間が賛同した。

名誉会長の眼科医・服部匡志氏は、ベトナムを中心に20年に渡り、盲目の少年少女たちを無料で手術。2万人以上の瞳に光を取り戻してきた人物だ。その偉業はドラマ化されるほどで、1月12日午後9時から、NHK土曜ドラマスペシャル「ベトナムのひかり~ボクが無償医療を始めた理由~」(濱田岳さん主演)として放映されることが決まっている。

「私が必死に眼に光を取り戻させた少年・少女たちが、20年の月日を経て、日本に渡り、同じ日本神によって偏見や搾取・詐欺に遭い、また社会の闇に陥ることは何がなんでも許せない」(服部医師)

と同会の趣旨に賛同し、名誉会長への就任が実現したという。

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ベトナム政府からその功績を讃えられ、「友好勲章」を受賞している服部医師(左)

■24時間・365日母国語対応のセーフティネット

今回のレスキューコールセンター設立に関して、山下代表理事は、

「身寄りもなく、単身で日本にやってくるベトナム人にとって、生活上でさまざまなケアが必要になるのは当然です。そんな彼らの悩みごとや質問に母国語で対応し、適切なケアをするのがレスキューコールセンターです」

と説明。どんな相談にも24時間・365日対応するセーフティネットといえる。

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母国語で対応するので、言葉に不安のあるベトナム人にとっても心強い

例えば、法定在留期間を超えて滞在してしまったベトナム人のケース。友人に相談して警察に自首をし、結局、逮捕されて強制国外退去に。もちろん、逮捕・勾留歴もつき、再来日は長期に、ほぼ難しくなる。しかし、もしこの人物が警察ではなく、入国管理局を訪れていたら、結果的に同じ強制国外退去処分になるとしても、逮捕勾留の前歴はつかず、退去までの準備期間が与えられたり、再来日できたりする可能性もあるという。

「もしコールセンターにこのような相談が寄せられたら、警察ではなく入国管理局へ行くように勧めることができます」(山本さん)

労働問題、不法な賃金支払いや搾取などについても、それぞれの監督官庁と連携し、解決の道を探っていく。もちろん、生活習慣の違いによる基本的なマナーやエチケットなど、生活にまつわる細々したことへのアドバイスも。

「ベトナム人からの相談に応じるだけでなく、日本人からベトナム人へ伝えたいこと、守ってほしいことなどの要望も伺って、彼らに伝えていきたいと思っています」(山本さん)

■日本とベトナムを結ぶ、支え合う心の絆

在日ベトナム人の安心・安全のための活動をしていくという、レスキューコールセンター。将来的には、就職やアルバイト先、学校の紹介なども手がけていきたいという。さらに特殊な技能を習得したい人向けに、「専門的な日本語ワークショップ」の開設も検討している。

「夢と希望を持って日本にやってくるベトナム人の若者に、日本は安心で安全な国だと感じてもらえるようになってほしい。同じアジア圏で暮らす人間同士として、自分たちにもできることがあるのではないでしょうか」と山本さん。

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日本に住むベトナム人が笑顔で働けるように

希望と共に大きな不安を抱えて来日するベトナム人にとって、安心の拠り所となる「レスキューコールセンター」。その開設は、日本とベトナムというふたつの国の友好を深める小さな一歩となるだろう。私たちにもできる支援を考えていきたいものだ。(工藤千秋)

     ◇

在日ベトナム共済会はレスキューコールセンター開設の資金を調達するため、2月15日までクラウドファンディングで支援を募っている。詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/vietnam-aid/