子ども・子育て支援新制度×生活困窮者自立支援制度
4月1日、「子ども・子育て支援新制度」、「生活困窮者自立支援制度」の2つの新制度がスタートした。いずれも全世代支援型社会保障へのモデルチェンジの柱として検討され、社会保障・税一体改革の中で実現したものだ。連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」を具体化する「安心の橋」を架ける第一歩でもある。新制度を生かしていくために、その意義と取り組みのポイントを整理しておこう。
連合の取り組み
「働くことを軸とする安心社会」へ2つの新制度の確実な実施を
子ども・子育て支援新制度、生活困窮者自立支援制度の実現に連合は深く関わってきた。2つの新制度をどう評価し、どう生かしていくのか。職場や地域で取り組むべきことは何か。平川則男連合生活福祉局長に聞いた。
財源確保と当事者参画を求めて
─連合は新制度にどう関わってきたのか?
かつて、「少子化対策」として2007年に社会保障審議会少子化対策特別部会が設置されたが、財源の裏付けがなく、規制緩和を中心としたものであったたため、検討が頓挫した経過がある。しかし、2009年に「チルドレン・ファースト」を掲げる民主党政権が誕生し、翌年1月「少子化対策大綱」が策定された。さらに2010年秋から社会保障・税一体改革の議論が本格的に始まり、ここで最優先の政策課題に位置付けられたことが制度化を大きく前進させた。
連合は、すべての子どもの育ちを社会全体で支えることを理念とし、利用者本意の切れ目のないサービス、ステークホルダーの政策プロセスへの参画、安定財源の確保を実現する新システムを求めて積極的に働きかけを行った。2012年6月には、「子ども・子育て」新制度について、民主・自民・公明の3党で合意され、8月には子ども・子育て関連3法が成立。
また、財源については、消費税率の引き上げによって、新たに年7000億円を確保することとされた。その後、内閣府の「子ども・子育て会議」で詳細な制度設計が行われ、スタートを迎えた。さらなる保育の質の改善や市町村の実施責任の実効性、私立幼稚園の新制度への参加が少数であること、幼保一体化など課題は残るが、理念や財源確保において画期的な新制度であり、連合のねばり強い運動が実ったものと受け止めている。特に、放課後児童クラブや社会的養護という、これまであまり注目されてこなかった分野も充実がはかられつつあることは成果と考えている。
生活困窮者自立支援制度も、社会保障・税一体改革で「法整備も含め検討する」とされたものだが、きっかけは2008年のリーマンショックだ。多くの派遣労働者が仕事と住まいを失い困窮した。福祉事務所のケースワーカーから、生活保護に至る前にトランポリン型の第2のセーフティネットが必要との声が上がり、連合は、より包括的な生活支援の仕組みを求めていった。具体的には、総合的な支援体制の構築を求め、相談・就労・居住・家計相談・健康面の支援、多様な就労機会の提供等を行う制度とされたことは大きな前進だと評価している。
「利用者」「提供者」「拠出者」として
─新制度を生かす取り組みは?
地方版「子ども・子育て会議」は、多くの自治体で設置されている。地方連合会は、この会議に「利用者」「提供者」「拠出者」である働く者の立場から参画しているところだ。そこでは、安心して産み育てられ、すべての子どもが健やかに育つ環境の整備は社会の責任であるという理念を共有し、その上で、新制度の進捗や予算確保の状況をチェックしていく必要がある。保育や幼児教育の専門的な議論についていけるのかという不安の声も聞くが、労働組合として提起すべきなのは、人材確保と保育の質の改善だ。公立保育所では、職員の6割が臨時・非常勤職員であり、その雇用の安定と処遇改善が大きな課題になっている。民間保育士は、給与改善費が10年から11年に延長されたが、その期限が来ると肩叩きにあう事例が報告されている。3歳児の職員配置加算措置や処遇改善加算給与もチェックするなど、拠出者として費用の使途を監視する役割も重要である。
連合東京では、「連合東京子ども・子育て情報交換会」を設置して政策要請を行い、保育人材確保などの予算が、昨年度6億円から今年度217億円に増額されたという。連合大阪では、各地協で会議設置を要請するとともに新制度の取り組み状況一覧を作成して対応を進めている。連合群馬では、今年2月に新制度の勉強会を開催したが、地方議員を含め多数の参加があり好評だった。
生活困窮者自立支援制度は、事業が必須と任意に区分され、任意事業は国の補助率が低いため実施にばらつきがある。連合は4月1日、事業の確実な実施と財源確保について民主党に緊急要請を行った。地方連合会としても、地方自治体の取り組みのチェックが重要である。また、単組としても、青年部などがボランティアとして学習支援に関わることも検討できるのではないか。そこで子どもたちの話に耳を傾け、悩みを聞く。ひとり親家庭で母親はダブルワーク、家では幼いきょうだいの面倒を見なければいけない。そんな子がたくさんいる。子どもを通して地域が抱える問題が見えてくる。それを「子ども・子育て会議」で提起することも可能だ。
連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」とは、誰もが働くことを通じて社会に参加し、居場所がある社会。その実現のために、2つの新制度をしっかり根付かせていく必要がある。
平川則男
連合生活福祉局長
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年5月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。