【神津里季生のどまんなか直球勝負!】
立憲主義の軽視に怒りを禁じえない
─安倍政権が、労働法制・安保法制の改悪を強引に進めています。
労働者派遣法の改悪案に加え、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションを導入する労働基準法の改悪案も国会に提出されている。働く者の声を国会に届け、法案の成立を阻止しなければならない。
安全保障法制についても、何の歯止めもないことが多くの国民の目に明らかになってきた。安倍政権は、集団的自衛権について憲法解釈を変更する閣議決定を行い、武力行使の新3要件を一方的に決めてきた。そして、周辺事態の概念を取り払い、アメリカから「日本の旗が必要だ」と言われれば、地球の裏側であろうと自衛隊を派遣しようとしている。
「法的安定性は関係ない」という礒崎首相補佐官の発言も飛び出した。安倍総理は火消しに奔走したが、あの発言は「時の内閣が適切に判断する」という安倍総理の言葉と通じ合うところがある。しかも安倍さんは、「私は総理なんですから」と強調する。「私は王様なんですから」と言っているようにも聞こえるが、野球に例えるなら「私が投げるんですから、どんな球でもストライクだ」と言っているようなもの。国民主権と立憲主義を軽視する安倍政権の立ち居振る舞いには、怒りを禁じ得ない。
1万4000人が国会を取り巻いた
─「怒りの8.23大行動」を国会前で行いました。
まさに圧巻の取り組みだった。1万4000人の仲間が国会をぐるりと取り巻き、「安倍政権にNO!」の声を張り上げた。開催にあたって連合は、市民団体、NGO・NPO、政党、学者、弁護士、学生など、志を同じくするさまざまな立場の方々と積極的に連携をはかった。その結果、連合組合員とさまざまな仲間の皆さんが一緒になって国会を取り囲んだ。安保関連法案に反対する学生グループ「SEALDs」のメンバーも参加してくれ、みんな一緒に「憲法守れ」のラップ調の叫びで声を張り上げた。
暴走する安倍政権を食い止め、民主主義の危機を回避するには、国民一人ひとりが声を上げるしかない。私たち連合は、志を同じくする人たちと連帯することによって、社会的に広がりのある運動を巻き起こしていく。8.23は、そうした取り組みの第一歩を踏み出した歴史的な日となったのではないか。
みんなで怒りを込めて「安倍政権にNO!」の声を突き付けよう。
人の痛みをわかろうとする努力
─この夏も高校球児たちの熱闘が繰り広げられました。
私は草野球にも目を奪われてしまうほどの野球好きなので、毎年夏は苦労する。休みの日にうっかり朝から高校野球を見だすとやめられなくなってしまう。高校野球の魅力は、熱いドラマが生まれることだ。選手も応援の人たちも、最後まで勝負を諦めず、互いに全力を振り絞ってぶつかり合う。だからこそ、観る者の胸を打たずにはいられない何かがある。
私は大学生の時、野球部のマネジャーをしていた。もともとは選手だったのだが、練習中のケガがもとでマネジャーになった。キャッチャーをしていた時にバットが当たり、左手の親指の骨がポキンと直角に折れてしまったのだ。
救急で駆け込んだ大学病院での経験は、筆舌に尽くし難いものだった。指を真っすぐに戻さなければいけないと言われ、「指先を持つから、両方で引っ張って」と。麻酔を打っても、指先には神経が集まっているから本当に気絶寸前。決死の思いで真っすぐに伸ばすと、今度は指の中に針金を通すと言って、医師が電気ドリルでビューン。あの激痛はとても言葉では言い尽くせない。拷問の恐怖ってこういうことなのかと。そのとき悟ったのは、「痛みというのは、その当人にしかわからないものであり、他人にわかってもらうのは難しい」ということだ。
労働運動の金言に、「人の痛みがわかる活動家たれ」というのがある。その含意は、「人間というのは他人の痛みは本当にはわからない。わからないからこそ、わかろうとする努力を続けなければならない」ということだと私は思う。
先人の経験に学び次世代に引き継いでいく
─「連合2015平和ヒロシマ集会」に出席しました。
全国から多くの仲間が集い、平和への想いを新たにした。特に、今年90歳になられた坪井直さんの話は胸に迫るものがあった。坪井さんが、70年前の被爆直後に少女を助けることができなかった心の痛みを、ずっと背負い続けていると知って、心が揺さぶられた。
平和集会に先立って、「ピース・ウォーク」が行われた。連合の青年・女性委員会の皆さんが、全国から集まった参加者たちを平和記念碑や史跡に案内し、被爆の実相を説明するという取り組みなのだが、平和の尊さを若い世代に引き継いでいくためにも、とてもいい取り組みだと思う。説明役の皆さんが、事前に学習した成果を存分に披露してくれた。被爆や戦争体験者の痛みに近づこうと、努力を続けている若い皆さんに心から敬意を表したい。
ところで、連合は、世界唯一の戦争被爆国のナショナルセンターとして、国際労働組合総連合(ITUC)を通じ、世界中の働く仲間に向けて核兵器廃絶を呼びかけている。そうした経緯もあり、連合は今回、ITUC本部のウェリントン・チベベ書記長代行を平和行動の来賓としてお招きした。
チベベさんは、ベルギーにあるITUC本部に赴任する前は、独裁国家として知られるアフリカのジンバブエで、労働組合のリーダーとして民主化運動を牽引してきた人だ。公安警察に何度も逮捕され、気絶するほどの拷問を受けたチベベさんの左手の指は、後遺症で曲げることができないという。その話を後で聞いた時、一瞬、私の古傷の痛みがよみがえったような気がした。
チベベさんの目に、原爆はどう映っただろうか。印象に残っているのは次の言葉だ。「アフリカの文化では、『現在は過去から受け継いだものではなく、未来からの借りもの』という考え方があります」。そう言ってからチベベさんは、「日本が素晴らしいのは、先人の経験に学び、その教えをしっかり受け継ぎ、次の世代につなごうとしていることです。私も今回日本に来て学んだことを、多くの人に伝えていこうと思います。それが私の大切な任務だと考えています」と言ってくれた。
チベベさんの言葉をありがたく思うと同時に、私たち連合は被爆国のナショナルセンターとして、これからも核兵器廃絶を世界に訴え続けていかなければならないとあらためて思った。
[8月24日インタビュー]
※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2015年9月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。「月刊連合」の定期購読や電子書籍での購読についてはこちらをご覧ください。