自然エネの電気が32%に達したドイツ/再割り当てや出力抑制で送電線の運用を工夫

送電系統運用機関の一つ、50ヘルツ社を訪問して話を聞いた。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化、エネルギーなどの話題を幅広く発信しています。6月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、自然エネルギーからできた電気が電力消費の32%を占めるまでになったドイツの送電線事情を報告しています。

     ◇

ドイツは「エネルギーベンデ」と呼ばれるエネルギー大転換計画の途上にある。自然エネルギー(再生可能エネルギー)の拡大、エネルギー効率の改善、脱原発が柱だが、とりわけ「2050年に電気の80%を自然エネでつくる」が、可能なのかどうかが、注目されている。

Open Image Modal

ドイツ全体では昨年、自然エネによる発電が電力消費の32%にまでなった。電気を送るための送電網は大丈夫なのだろうか。送電系統運用機関(TSO)の一つ、50ヘルツ社(本社・ベルリン)を訪問して話を聞いた。

日本では東京電力や関西電力といった大手の電力会社が発電し、地域の送電線も所有しているが、ドイツでは電力自由化で発電と送電が分離されている。発電会社は自由にビジネスをすればいいが、送電会社は儲けるよりも、発電会社を公平に扱い、きちんと電気を運ぶことが義務付けられている。いわば「公的機関」のような存在だ。

複数社の情報で発電を予測

Open Image Modal

●ドイツの送電系統運用機関の一つ、50ヘルツの本社ビル=ベルリン(写真はいずれも筆者撮影)

ドイツにはTSOが四つある。50ヘルツは東部、主に旧東ドイツ地域の送電線運用を担当している。国の面積の3割を占め、人口の2割が住む地域だ。

ベルリン中心部にある本社の地下にコントロール室があった、大きな画面に管内全体の送電網が示されている。「最もセキュリティーが厳しい場所です。ただこれは予備の施設で、本物は郊外にあります」。送電線運用は普通4人でしているといい、その少なさに驚く。

50ヘルツの最近の課題は、急速に増える自然エネへの対応だ。2008年は24%だったが昨年は48%が自然エネの電力で、その多くが風力だった。ドイツの風力発電の導入量は約4600万kWであり、50ヘルツ管内には約1600万kWある。

Open Image Modal

天候で出力が変動する風力を多く持ちながらの送電線運用は大変だ。まず必要なのは各地の自然エネ発電所について、時間ごとの出力を正確に予測することだという。50ヘルツでは毎日8時に当日を含めた向こう4日間の発電予測を行い、8時を含めて日に3回修正する。太陽光発電の予測は5社、風力発電は7社の予測会社からデータを得る契約をしており、「当たらない会社」との契約は打ち切るという。

こうしたデータで発電を予測しながら、市場(オークション)で安い電気を選ぶ。同時に「自然エネの電気を優先して使う」という原則も満たさなければならない。これらの条件の中で各地の発電所からの電気を割り振るが、それで終わりではない。需要地へ電気を送ろうとしても、送電線の一部の送電容量が小さくて「混雑」が起きれば、送れなくなってしまう。

そんな時はどうするか。まず「再給電指令」という作業をする。これは、本来、発電することが決まっている一部の発電所を止め、代わりに需要地に近い発電所で発電することだ。送電線の混雑を回避するため、発電所の割り当てのやり直しを行うわけだ。しかし、止めた発電所にも、代わりに発電を頼んだ発電所にもお金を払うので、コストが高くなる。

Open Image Modal

●50ヘルツの本社地下にあるコントロール室

これでもだめな場合は直接的な「出力抑制」をする。「〇〇地域の風車を止めて」というものだが、やはり止めた分の補償をするのでコストがかかる。

追いつかない送電線建設

これらの問題は新しい送電線をつくれば解決する。特に風車が多い北部と、電力需要が多い南部の工業地帯を結ぶ送電線の増強が急務だが、住民の反対が強い。地中送電線の建設費は地上送電線の数倍から10倍もかかる。

ドイツで送電線が嫌われる最大の理由は「見た目」だそうだ。高い送電鉄塔は嫌われるが、森の木に隠れれば抵抗感はずっと小さくなるので、最近は低い送電線の計画が増えている。

ドイツではTSOは原則的に「自然エネ発電所の送電線への接続を拒否できない」となっているが、実際は自然エネの増加に送電線建設が追いついていない。50ヘルツ管内の北部には「当面、風力の立地を一部制限する」場所が設定されている。しかし、管内の自然エネの導入量は今後も風力を中心に伸び続け、2025年には今の4割増になると予測している。

もう一つの問題は電力価格の上昇だ。ドイツの自然エネはFIT(固定価格買い取り制度)によって大きく伸びたが、上乗せされる賦課金で電気代が上昇した。ドイツの消費者が支払う電気代は1kW時あたり約30ユーロセント(約36円)近くと高い。うち6.9ユーロセントがFIT賦課金だ。ただFIT導入当初に決められた高い賦課金の期間が終わるので、近いうちに下降に転じると予想されている。

太陽光以外は伸びない日本

一方、日本での自然エネによる発電は12.8%ある(2014年)。しかし、水力を除けばわずか4.4%しかない。そして、そのほとんどが太陽光だ。2012年に導入されたFITでは太陽光発電が大きく伸び、16年末に4300万kWになったが、そのほかの風力や地熱などは伸びていない。風力は、世界の自然エネの主役だが、日本では環境影響評価(アセスメント)に3年以上もかかるという問題を放置していることもあって、約300万kWにとどまる。4600万kWのドイツとは桁が違う。

ドイツと日本の最大の違いは、送電線への接続状況だ。ドイツでは接続が義務だが、日本ではなかなかつなぐことができない。送電線を持つ大手の電力会社が、各地で「これ以上は接続できません」と断る状況になっている。各電力会社間をつなぐ連系線を積極的に使おうとする姿勢もない。そもそも、自然エネを大きく増やそうという国の意志が欠けていることを、ドイツとの比較から強く感じた。