ワークショップで技術と地域をつなぐ:限界集落における継続的な地域活性化【文責:菊本有紀】

今回は渡邉先生に代わって、新潟県魚沼市で進行中の地域活性化のための住民参加のワークショップを通したウェブコンテンツ制作のご報告を行いたいと思います。
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今回の記事は、首都大渡邉研、博士前期課程2年の菊本有紀さんによる、新潟県魚沼市における集落活性化事業についてのレポートです。お楽しみください!(渡邉英徳)

初めまして、首都大学東京大学院渡邉英徳研究室修士2年生の菊本有紀です。今回は渡邉先生に代わって、新潟県魚沼市で進行中の地域活性化のための住民参加のワークショップを通したウェブコンテンツ制作のご報告を行いたいと思います。

いきなりですが、新潟県魚沼市にある横根集落をご存じでしょうか?

横根集落は、コシヒカリで有名な魚沼市の中でも特に美味しいお米が採れると言われている、美しい山間の集落です。

この美しい集落ですが、現在は57世帯122人しか住んでおらず、小学生以下の子供は9人、高齢化率50%以上という、いわゆる限界集落と呼ばれる地域になっています。

今年度、私たちの研究室は新潟県による2014年度「大学生の力を集落活性化事業」の委託先に選定され、横根集落地域の活性化に取り組んでいます。夏休み期間等を利用した計3回の現地活動、そして東京での活動を行ってきました。

活動の目標として
  1. 横根集落を外の人に知ってもらうこと(外的向上)
  2. 横根集落の人自身たちの地域に対する関心を高めること(内的向上)
を挙げ、これまでの研究室で蓄積してきたノウハウを生かしたウェブコンテンツの制作と、地域住民を巻き込んだワークショップに取り組んできました。

■事前準備 - 技術と人を地域になじませる -

県の公式事業に採択されたとはいえ、時間は夏休み期間に限られています。いきなり、見ず知らずの、しかも「デジタル」「AR」などとわけのわからないことを言う学生たちが集落に足を踏み入れたとしても、住民の方々の理解を得るのは難しいのではないかと考えました。

また、私たち学生チームもほとんどが東京出身です。横根集落にはどんな文化や歴史があり、どんな人達が生活を営んでいるのかといった知識に欠けており、集落への理解が十分とはいえませんでした。

この状況のなか「地域おこし協力隊」の大野久美子さんが、私たちと横根集落とがお互いを理解し、つながっていくために欠かせない、重要な役割を担ってくれました。

地域おこし協力隊とは:地方自治体が、都市住民を受け入れ委嘱。地域おこし活動の支援や農林漁業の応援、住民の生活支援など「地域協力活動」に従事してもらい、あわせてその定住・定着を図りながら、地域の活性化につなげる。(総務省地域おこし協力隊パンフレットより)

私たちより先に地域に溶け込み、横根集落の一員となっている大野さんに、集落の文化や背景を教えてもらい理解を深めました。また、大野さんから私たちの活動の主旨を集落の方々に説明してもらうことで、自然に間を取り持っていただくことができました。

そして、全3回の現地滞在のうち2回を、横根集落に住んでいる人を知り、受け入れていただくための活動に充てました。

また、こうした人との繋がりを醸成する中で、ヒロシマ・アーカイブなどの作品を地域の方々に紹介していきました。そうすると、地域の方々にとってARやGoogle Earthといった技術が、「難しい最新技術」ではなく人を介した「◯◯ちゃんが作った作品」となり技術への心のハードルを下げることができると考えたためです。

地域に関するコンテンツを制作する際には当然、詳細な歴史など、地域情報の調査・収集が必要です。しかし今回は、比較的短期間のうちにワークショップを実施し、コンテンツをつくりあげる必要があります。地域調査の経験のない私たちにとっては、時間が足りません。

大野さんが行動してくださったことによって、知識については大野さん、技術は私たち。といったかたちで、役割が明確になりました。こうして私たちは、滞在時間を「人と人とのつながりを作り」そして「その人を介した技術へのつながり」を作ることに費やすことが可能となりました。

こうしたつながりがコンテンツ制作にどう影響するのでしょうか?

■ワークショップを通した当事者意識の醸成 - 価値の再発見と継続 -

こうしたコミュニケーションの地盤を2回目の訪問までに構築しました。そして3回目の訪問では、地域の方々を対象として

メインとなる
  • 横根集落の大人を対象にした横根アーカイブマッピング
  • 横根集落とその近辺の子供を対象にした横根アーカイブ体験と、素材収集
の2つのワークショップを行いました。

◯横根アーカイブマッピング ワークショップ

10月12日、今回のメインとなる「横根アーカイブマッピング」ワークショップを実施しました。横根集落の成人の方々を対象にし、今回は地域の中心となる50代~70代の皆さんが集まってくださいました。

集落の規模から考えてもかなりの大盛況ぶりです。

ワークショップの内容は、
  • 横根集落の写真を持ってきてもらい、みんなで場所や時代を特定
  • その情報をgoogle earthにマッピング
する作業を通して、これまでの
のような横根アーカイブを制作しようというものです。

◯世代間交流と成功体験

写真をもとに「どこで」「いつ」撮られたものか様々な人の記憶を頼りに特定します。

撮影場所と撮影年を紙地図上で特定していく作業は、「横根の魅力を再発見してもらう」という意図で行ったものです。しかし実際にやってみると、作業をきっかけに、ふだんは交わらない世代間に交流が生まれていました。例えば、昔のお祭りの写真をみて「今この踊りが踊れるのは◯◯さんだから、この写真は◯◯さんに聞いてみよう」と昔の様子を聞いたり、毎年撮られて何枚もあった集合写真を、それぞれに知恵を出し合い年代順に並べながら、そのときの思い出話をしたり...と、これは、私たちが想定していなかったものです。

また、後半のパソコンを使用した作業においては、最初は「パソコンは全然わからないから...」と引き気味だった方も、自らパソコンを操作し、自分のマッピングした写真がgoogle earth上に載っている様子を見ると「自分の力で作る事が出来る」ということを実感してもらえたようです。

それぞれ自分のできる範囲内で作業をしてもらいました。

◯「(私の)横根アーカイブ」にする

私たちが首都大チームが「Google Earthを使って、こんなウェブコンテンツを作りました!」と言うと、技術に慣れ親しんでいない方からは「魔法みたい」だと言われることがあります。写真や動画が、未知のブラックボックスを通って、ウェブコンテンツになったという印象を受けるのだと思います。

ただアーカイブに資料を提供をしたという経験だけでは、この「魔法」部分が見えないので「首都大チームが作ったコンテンツ」という受け止め方になってしまいます。

今回のワークショップは、こうした「魔法」「ブラックボックス」となっていたパソコンの作業を集落の方々に体験してもらいました。この経験によって、横根アーカイブは「首都大チームが作ったコンテンツ」から「私たちが作ったコンテンツ」に変化します。今後もこのコンテンツ(さらには地域に対しても)愛着と責任を持ってもらえることができれば、と考えています。

ワークショップ実施後には「自分でこのコンテンツをもっと増やしたいから、家で作業をしてもよいかな?」といったうれしい反響もあり、私たちの目標は達成されつつあると、実感することができました。

◯子供ワークショップ - 次世代の後継者を育てる -

翌日10月13日は、横根集落とその周辺地域に住む小学生対象に、iPad等を利用した資料収集と、横根アーカイブの体験を行うワークショップを実施しました。

この日のワークショップは、集落付近にある
周辺を探索しながら、
  • 横根集落の人たちが作ったデータをもとにしたコンテンツを体験
  • 世界の人に伝えたい横根集落の「もの・場所・こと」を撮影
という内容です。

雨がぱらついて少し残念な天気だったものの、子供達は手慣れたiPhoneを片手に横根集落の魅力を沢山発見してきてくれました。

どんな状況も気にせず楽しむ姿勢は見習わなくてはなりません 笑

未来への種まき

あらかじめ「みんなの撮った写真が、横根集落を紹介するコンテンツとして全世界に発信されるよ!」と子どもたちに伝えておいたこともあり、使命感を持って取り組んでくれていたように思います。

写真を撮る様子は真剣そのものです

こうした経験が、将来の横根の未来を紡ぐ子供たちの、横根に対する思いや、何か自分で作ってみよう!という気持ちにつながってくれると嬉しいな、と感じています。

Google Earth体験の様子

また、横根アーカイブを体験中に「おじいちゃんこんなの作れるんだ、すごい!」という子供たちの声が聞こえてきました。こういった交流がマッピングワークショップに参加してくれた方々に「私の作った横根アーカイブ」に対する思い入れを強める要因となっていくと思います。

■コミュニティ形成と今後の継続

東京に住む私たちが、単独のコンテンツを作ってリリースし、使った人が横根を訪れてくれたとしても、それは、一過性的なイベントにすぎません。

それに対して私たちは、地域の人を巻き込んだ継続的な活動が重要だと考えています。なぜなら、地域内の人々が活発に動くこと自体が立派な「地域活性化」だからです。そして、そのような活動の中で成長していくコンテンツは、より長期間にわたって、沢山の人を惹き付ける機会を手に入れることができます。

つまり、私たちのこれまでの活動は、地域内と私たちで「人と人とのつながり」「人と技術のつながり」を作り、継続した地域活性化活動の為のコミュニティを作る、「スタートを切る」作業として捉えることができます。ワークショップの成果物、横根コンテンツver1.0は2015年3月に公開する予定です。リリースとともに、今後の成長もお楽しみいただければと思います。

以上、横根集落での活動報告でした!!!!(菊本有紀)

謝辞:

新潟県庁の高野さん、魚沼市の佐藤さん、地域おこし協力隊の大野さんほか、沢山の方々のご協力により活動を行うことができました。ありがとうございました。今後ともご協力よろしくお願い致します。