昨年12月、世界で最も影響力のある医学専門誌の一つ、英国のランセット誌に安倍晋三内閣総理大臣の寄稿が掲載された。日本は今年5月にG7伊勢志摩サミットの議長国を務め、さらに9月にはG7神戸保健大臣会合等も開催される。
寄稿では、「保健に関する課題は各国の単なる国内の問題にとどまらない。それは国境を超え、国際的な課題である」ことが明記された。国際保健分野への貢献を重要視する姿勢を首相自らが強く打ち出したことは、世界的にも広く賞賛されるだろう。
しかし、残念ながら寄稿中で触れられなかった国際保健上の最重要課題がある。それは難民問題だ。
近年、シリアやアフガニスタンなど紛争地域からの難民が急増し、何百万人にも上る人々が、慢性疾患や外傷、感染症などの疾病に対し基本的な医療すら十分受けられないという深刻な健康問題に晒されている。そのため、国際保健分野では、難民の健康問題への支援や難民保護を強化することが強く求められている。
日本の2015年度の難民・テロ関連予算の総額は1千203億円にも上るが、政府の対応として十分とは言えない。法務省入国管理局の発表では、2014年の難民申請者数5千人に対し、認定者数は0.2%のわずか11人に過ぎなかった。
難民支援協会によると同年の難民認定者数は、韓国では2千896人の申請者中94人(3.2%)であり、欧米諸国ではドイツ1万1千人、フランス9千人、米国2万1千人である。昨年その数がさらに増加したことは明らかだろう。
安倍首相は移民には消極的で、「移民を受け入れるよりも前にやることがある。女性、高齢者の活躍だ」と述べた。
しかし、その姿勢は国際保健に対する責任と貢献という目標とは相容れない。第二次世界大戦中、外交官の杉原千畝氏がユダヤ難民に対するビザ発給に尽力し、6千人に上る人命を救ったことは国際的にも高く評価されている。
私は、21世紀の日本人も同様に、より積極的な難民問題への貢献が出来るはずだと信じている。